錦織圭特集第2弾。「エアー・ケイ」と呼ばれる彼の躍動感や、それを支えるボールを正確に捉える能力についてなど、その強さの秘密に迫ります。

強さの秘密1:ボールを正確に捉える能力とボディバランスのよさ

錦織圭
プロ転向記者会見で盛田正明氏と握手する錦織圭。盛田ファンドの支援によりテニス留学をしている。
錦織圭のテニスの斬新さは、「エアー・ケイ」と評されているという。ジャンピングファーハンド、ファーハンドのジャックナイフ(前足で飛び上がってから空中でボールを打つストロークショット)など、今まででは考えられないほど躍動感あふれるプレーを繰り広げる。この躍動感は、誰かの真似をしてできるものではない。また、錦織圭のマネをしたからできるというものでもない。

男子ナショナルチームコーチの増田健太郎は次のように語る。

「『いっちゃえー!』って感じでジャンプしてますよね。感性でテニスをしているんでしょう。安定感がどうのこうのっていう次元ではないのでしょう」

ただ、それを可能にするには理由がある。

「ボールを正確に捉える能力がとにかく高い。早いタイミングでのテニスもそれを証明している。自由な発想、感性でプレーしているのだと思う」

と増田健太郎。ボールを正確に打つには、本来はジャンプをしない方がいい。錦織圭が練習しているニックボラテリーテニスアカデミーの先輩で、現在不田涼子選手のコーチをしている坂本正秀は、そのジャンプに次のように説明する。

「フィニッシンングショットになるようなドライブボレーでは、1メートル前後飛ぶこともある。でも、実際は打った後に反動で飛んでいることがほとんど。反動で吹っ飛んでいる。凄いのは、1メートルジャンプしても体がぶれないバランス。フォアーのジャックナイフは試合でもなかなかでないけれど、見た人はラッキーだね」とのこと。

ジャックナイフ自体がすごいというより、彼の躍動感、感性のテニス、反動で浮き上がるほどの体使い、そしてそれを支えるボールを正確にとらえる能力やボディバランスがすごいのである。

強さの秘密2:タイミングの早いテニスと、球質のよさ

錦織のテニスは、タイミングが早い。それでいて大胆にコースを選択している。早いタイミングでテニスをするとフラットボールになりがちだが、錦織圭のボールにはスピンが多くかかっている。テニスにおいて安定性はとても重要で、タイミングの速さ、厳しいコース、スピンのかかった勢いのある球質とともに実現するのは大変むずかしい。

増田健太郎が昨年2007年秋に練習した時の様子を次のように語る。

「すでにジュニアの域は超えていた。決定力と安定性を兼ね備えている。ジュニアがプロとやると勢いだけで勝負して展開負けしないようにするから、どうしてもミスが多くなる。でも、彼は違ったよ。オープンコートがあれば、どこからでもバランスを崩さずにそこを狙う。早いタイミングであってもコースをしっかりと狙える。勢いでなく、コートを完全に支配できる選手だね」

それを可能にしているのが、前述した正確にボールを捕らえる能力であったり、ジャンプしてもぶれないバランスの良さだ。

>>残る強さの秘密とは……?>>

強さの秘密3:着地後の時間ロスのなさ、滑らかで素早い足運び

驚くべきは、彼のフットワークにもある。テニスは前後左右に振られるスポーツ。錦織圭はこの時の方向転換がとにかく早い。まるで早送りを見ているかのようなシーンもある。やっと追いついきジャンプしながらスウィングした後ですら、次の動作への移りに時間のロスがない。それは早いだけでなく正確。フォアーのジャックナイフも可能なほど正確にボールに追いつけるというのも彼の強さを支えている。

強さの秘密4:まだ発展途中だが、フィジカルの強さ

彼のアクロバティックなプレーを支えるには、まだまだ体作りが必要であろう。特に心配なのは腰痛だ。とはいえ、既に多くの時間を体作りに当てていると考えられるほど、彼のフィジカル面での能力やフットワーク技術は優れている。

最もドロー数の多いグランドスラムは2週間をかけて7試合を行うのだが、ジェームス・ブレークに勝利した試合、錦織は予選から1週間で8試合目のことであった。これは、すぐれた身体能力がなければできることではない。

強さの秘密5:テニスに打ち込める環境

■コーチ
錦織圭は、2008年1月4日からグレーン・ワイナー(GLEN WEINER)をコーチにつけている。自己最高位は119位で、ニックボラテリーテニスアカデミー出身。ヒッティングが上手で、感情的にならずに常にクール。人脈もある。

■トレーナー
ニックボラテリーテニスアカデミーのヘッドトレーナーの中村豊も忘れてはならない。不田涼子、トミー・ハースなどたくさんのアスリートに信頼されている。

■マネージメント
現在の所属先、「IMG」についても説明したい。IMGは世界最大のスポーツマネージメント会社。ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、マリア・シャラポワをはじめ数々のトップスターが所属する。テニス以外でも多くの選手を抱え、タイガー・ウッズなどもその一人。このIMGのバックアップはとても大きいといえる。そのアレンジ能力により、錦織圭に最高の環境を演出している。

■ニックボラテリーテニスアカデミー
彼が練習するニックボラテリーテニスアカデミーについて。フロリダ州に、東京ドーム16個分という広大な敷地にテニス、ゴルフ、バスケット、サッカー、野球などの設備の整ったプロスポーツ選手養成所(IMGアカデミー)がある。そのテニス部門をニック ボラテリー テニス アカデミーという。

■盛田正明テニス・ファンド
何といっても忘れてはならないのがこの盛田正明テニス・ファンド。ソニーグループを退職した盛田正明氏が個人資産を投じたテニス選手のための奨学金制度。錦織圭は盛田正明テニス・ファンドの支援を受けて12歳でフロリダに留学した。

■音楽
錦織圭を試合会場で見かけるといつも音楽を聴いている。普段も同じのようだ。彼はそれにより独自の世界観を作り出しているのかもしれない。

>>当面の課題は?>>

課題はあるが克服可能

錦織圭はダブルスでもいい成績を残している。とはいえ、ネットプレーは粗削りだ。ネットに詰めるタイミングなど、ダブルス特有の動きが上手だとはいえないと感じる。それでも勝つということは一つ一つのプレーのスキルが高く、また、スピードボールに対応できる能力をもっているから。

サーブは強くないと言われる。確かにトップ選手と比べるとその通りであろう。だが、「サーブ後の処理が早い。打ち込まれるシーンは多いが素早く対応する能力があり、今後ビックサーバーになれなくてもキープ率は上げていける」と増田健太郎の弁。

錦織圭は感謝を忘れない

一日中音楽を聴いているという錦織圭の趣味はゴルフ。その錦織は人に感謝する気持ちをとても大切にしている。披露されるウイナーズスピーチでもそれはよく表れているのだが、とても素敵なエピソードがある。

2007年夏、怪我のためIMGでリハビリをしていた錦織圭は、同じくリハビリをしていた不田涼子、コーチの坂本正秀(アカデミーの先輩)、そして不田涼子の母親と多くの時間をすごしていた。不田涼子とはリハビリという目標を共有し、坂本正秀には友人先輩後輩として共に過ごし、不田涼子の母には日本食を作ってもらうなどしていた。

そして不田涼子ら3人がフロリダを離れる日、錦織圭がその2か月間の感謝の気持ちを形にしたのが「おにぎり」。いま自分ができる最高のお礼をということで考えたもの。錦織圭は初めてご飯を炊き、初めておにぎりを作った。そして、その日旅立つ3人に、3つのおにぎり持って行ったという。

感謝を忘れない気持ちが、ここまで彼を押し上げた根本なのかもしれない。



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■取材協力
増田健太郎:デビスカップ男子ナショナルチームコーチ、全日本テニス選手権シングルス2連覇、MTSテニスアリナー三鷹代表

坂本正秀:錦織圭にとってはニックボラテリーテニスアカデミーの先輩、不田涼子のコーチ、ミキプルーンコーチ
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