【女子プロレス卒業生、広田さくらによるコラム/秘密の女子プロレス】
今回のテーマは“受け身”です。

プロレスとは、受け身である。
プロレスラーたるもの、受け身に始まり受け身に終わる。

私が言うのもなんですが、そのくらいプロレスにおける受け身は重要なのです。
いかなる場合、いかなる角度で落ちても、しっかりした受け身を取ることが、ダメージを最小限にし、自分の身を守ることになるのです。

たった一種類の受け身ができず、去った者も・・・

素晴らしい連携:長与が広田にテコの原理を応用したシーソーホイップを掛け、その勢いで広田がボディプレスのように倒れこむ。写真の試合では、待ち構えていた足に顔から突っ込んで失敗した
GAEAの道場でも、練習生の頃はとにかく受け身を叩き込まれました。
攻めのテクニックよりも、基礎体力よりも、とにかく時間をかけるのが受け身。
前受け身・後ろ受け身・横受け身、前方回転受け身…いくつもの身につけるべき受け身の種類があり、どんなに運動能力が優れていても、スター性があっても、完璧に出来ない受け身がひとつでもあれば、そこから先の過程には進めません。実際に、たった一種類の受け身がどうしても身につけられず、挫折した練習生もいました。

また、受け身は「身を守る」という本来の目的と同時に、「相手の技をダイナミックに見せる」ための側面もあります。
例えば相手にドロップキックをされた時、普通の女の子が倒れるように、なよっと小さく受け身を取ってしまったとします。

当然、間違った受け身は、足を捻ったり不自然に頭を打ったりして予期せぬ追加ダメージを受ける可能性があります。
しかし、体全体を使って大きく後ろ受け身を取ることでダメージを分散できるし、マットへの衝撃音もバン!と大きく響くので、結果的にドロップキックそのものもダイナミックに映ります。

余談ですが、そんな事考えなくても普通に十分ぶっ飛ぶし、受け身関係なく威力が伝わるのは、豊田真奈美選手のドロップキックです。あれはもう、自分の身を守るだけで必死でした。衝突のわかりきった交通事故ほど怖いものはありません。

そんな感じで、本当はこんな短い文章ではとても語り尽くせないのですが、ざっくりと受け身の重要性、分かっていただけましたでしょうか?

顔面受け身は“前受け身”の応用!?

高田純次:高田純次のロボットダンスの動きで相手の周りを回ってから倒れこむヘッドバット。気をつけの姿勢のまま倒れこみ、かわされたら顔面受け身を使う。
さて、今回の本題です。

私は試合中、道場では習っていない受け身、その名も『顔面受け身』という独自の技術を使っていました。果たしてこの顔面受け身とは何なのか?
これから紐解いていきます。

顔面受け身は“前受け身”の応用です。
前受け身は文字通り、前に倒れる際に取る受け身で、私も練習生の時にさんざん苦労しました。
後ろ受け身に比べ、なまじ目で見えるので最初は本能的に怖がってしまい、ひざから落ちたり、先に手をついて前のめりになってしまうのです。
具体的にこの受け身を使うシチュエーションは、デビル雅美選手の“ずんまえ(パワーボムのように抱えあげ、そのまま後ろに放り投げる技)”を受ける時や、ボディプレスやムーンサルトをよけられて自爆した時などです。

一番使うのは、ドロップキックの着地の時ですね。
前受け身が低い=キックの打点が低いことにもなるので、この時は飛び上がる高さも要求されます。前受け身は受け身の中でも、難易度が高い受け身なのです。

そして顔面受け身の話です。
顔面受け身とは、書いて字のごとく、“顔からイク”受け身です。
これは私が編み出した受け身で、本来、足・体・手のバランスで前受け身を取るところを、手を一切使わず、ノーガードで顔から倒れて顔で受け身を取ります。

具体的には相手につまづかされた時や、ロープに走ってセコンドに足をすくわれた時に使います。
この時、単に普通に前受け身を取るか、顔面受け身を使うかで、お客さんの沸きは大きく違います。
顔を打った事による笑いと同時に伝わる「うわ、顔からいったよ…」というリアルさ…。
それはまさに痛みの伝わるプロレス…天龍イズムです。
私は技を仕掛ける時にも結構使っていました。

例えば、チームエキセントリックの合体技『素晴らしい連携』です。
この技はテコの原理を応用したボディプレスの一種ですが(1ページ目写真参照)、失敗した場合はもちろんの事、技の特性上、成功した場合も仕掛けたはずの私の顔はいつもリングにメリこんでいました。

また、倒れこみ式のヘッドバット『高田純次』(写真参照)の時も使っていました。

この受け身、後輩には伝授しませんでしたが(してたら長与さんに怒られる)、今だと全日本プロレスの荒谷選手などが使用しています。
荒谷選手はTAKA選手に足を引っ掛けられて顔からイッてました。
見た目、単に“手が出る前に転んじゃった”ようにも見えましたが、その受け身が私が名付けた“顔面受け身”であることは、荒谷選手は知る由もないでしょう。

プロど根性が生み出した至極の技

ちなみに、簡単そうに見えるこの受け身ですが、実はかなり高度です。
やはり反射的に手が出てしまうので、度胸と覚悟が必要だし、技術的にも手が使えず、顔で受け身を取らなければいけない。

特に紙一重で鼻をズラすのは、我ながら職人の域です。
というか、鼻が低い私だからこそ成り立った受け身なのかも知れません。
鼻の高いKAORU選手や、鼻の長い尾崎選手には向いていないでしょう。

そして当然ですが、この受け身のダメージは前受け身の時より大きいです。
そこは自分の体とのせめぎ合いなのですが、それでもリングに立つと、多少ダメージを多く受けても観客を沸かせたい、リアルに痛みを伝えたい、みたいな気持ちになってしまいます。

だからこそ、この受け身では失敗は絶対許されません。
だって受け身で笑いを取り、顔を上げて鼻血が出ていたら、お客さんはドン引きでしょう。それでも、私は顔がリングにぶつかる直前、鼻をカバーするために少しずらしてほお骨で受け身を取っていましたが、いつも右だったので、先日歯医者に行った時、“右のほお骨の骨格がずれている”と言われました。

このように、結構なリスクを背負う顔面受け身ですが、これは「受け身だってエンターテイメント、立派な見せ場なのだ」と考えていた、広田さくらのプロど根性が生み出した至極の技なのです。

もし今後、この顔面受け身を継承しようという奇特なレスラーの方がいらっしゃいましたら、毎回交互に顔の向きを変えて倒れることをお勧めします。

いやあ、くだらない事を熱く語ってしまいました。
でも、なんだか深いような気もします。
また一つ、秘密が紐解かれましたね。
それでは、また次回。


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