凶器は、ヒールとしてのセンスが問われる

こんにちは。今回のさくらコラムは“プロレスラーと凶器について”です。

凶器攻撃はプロレスならではのもの。もし柔道や空手で椅子や机を持ち出せば、失格どころか追放沙汰になるでしょう。 プロレスでそれが許されるのは、“反則は5カウントまでOK”という独自のルールがあるからです。WWEなどは凶器使用=即反則負けとなりますが、日本、特に女子プロレスはレフェリーのチェックが甘く、みなさんかなり自由に凶器を使っています。

まっとうに戦っていた私にとっては迷惑極まりなかったのですが、この曖昧さが、結果的にプロレスの試合展開の幅を大きく広げたといっても過言ではありません。

レスラーの中で凶器を使用するのは、主にヒールと呼ばれる悪徳レスラー達です。ヒールレスラーが、何を凶器としてチョイスして、それをどのように使いこなすのか?これはヒールとしてのセンスが問われることにもなります。

そこで今週は、女子プロレスにおける凶器の使われ方や、攻撃の威力などを紹介したいと思います。

代表的な凶器「パイプイス」のあれこれ

まず代表的なのは『パイプイス』です。殴るも良し、角で突っつくもよし。客席はパイプイスがほとんどのため、使いたいときにすぐ手に入るということで、お手ごろ凶器としてヒールレスラーがこよなく愛す一品です。

でも、誰もが使うものだからこそ、“パイプイスといったらこの選手”と言わせるのはなかなか大変です。それを見事に言わしめたのが、“ラス・カチョーラス・オリエンタレス”の下田美馬選手と三田英津子選手でした。2人は差別化を図るため、パイプイスを黄色とピンクに塗り、トレードマークとして入場時から持ってきました。フリーになってからは自宅から持参していたようで、いつも椅子を片手に会場入りしていました。試合になると特に特徴的な使い方はせず、むしろ使わないこともあるぐらいでしたが、年に似合わぬパステルカラーの椅子はとにかくインパクトがありました。

殴る・突く以外にも、リングにイスを置き、そこへ顔面がぶつかるように相手を転ばせる、飛び技の土台として使う、イスを蹴飛ばして相手にぶつけるなど、椅子にはいろいろな使い道があります。

中でも変わった使い方をしていたのは、ファング鈴木さんでした。ファングさんは顔に人柄のよさがにじみ出ていましたが、れっきとしたヒールレスラーで、イス攻撃もお手の物でした。そんなファングさんのイス攻撃とは、わざと対戦相手にイスの取り合いをしかけ、相手が引っ張っているとき、イスのパイプ部分で相手の指を挟む、という攻撃でした。

これは痛い……。地味ですが、見ている人にも痛さが伝わりパイプイスの特徴を生かしたしたアイディア攻撃です。

先ほどのラスカチョさんに関しては、リングサイドに設置してあるフェンスも凶器として使用しました。リング内にフェンスを持ち込んでハシゴのように立て、それを倒して相手をフェンスの下敷きにするのです。フェンスは鉄製だし、顔や骨ばったところに当たるとかなり痛いです。

恩師・長与千種を楯に衝撃を回避するとは広田さくらの恐るべき発想
でも、これは実は防御できる場合があります。それはタッグマッチの場合です。タッグの場合、相手の二人をまとめて下敷きにすることが多かったのですが、そんなときは一緒に並べられたパートナーにできるだけ近づき、その選手より小さく(平らに)なるとよいのです。これにより自分の上にわずかな空間が生まれ、衝撃波を自分より太ったパートナーの体が全て吸収してくれるのです。私もパートナーが長与さんだった場合は、この作戦で何度も衝撃波を抑えました(図解参照)。

アジャ選手は、後楽園ホール限定のフェンス攻撃があります。これは、後楽園ホール南側に設置してある、仕切り用の鉄扉を高々と持ち上げて相手に放り投げて押しつぶすという、女子ではアジャ選手以外誰にもできない攻撃です。この攻撃は残念ながら防御策はなく、アジャ選手が柵を持ち上げ向かってきたら、“どうか無事にお家へ帰れますように……”と願うのみでした。同じく、会場が傷つきませんようにと後楽園ホールスタッフも祈っていたことでしょう。