新日本プロレスは、2006年1月の契約更改で例年以上となる多くの退団選手を出した。成瀬昌由もその一人ではあるが、他の選手がフリーとなって、他団体への参戦や団体設立に奔走する中で、依然として沈黙を守っている。

今、成瀬昌由は何を考え、何をしているのだろうか?

周囲の心配をよそに、「充実した日々を過ごしている」という成瀬は、とある夢に向かって新たなる歩みを始めていた。それでも、リングから遠ざかっていることで、焦りや迷いはないのだろうか。インタビューでは、それらの答えであり、成瀬を語る上で不可欠な要素となる武士道、歴史、教育、精神修行といった様々なキーワードが溢れるように飛び出してきた。

「今は焦らず準備をしている」

成瀬昌由 昭和48年3月15日生/O型/東京都杉並区出身 リングス、新日本、Dynamaite!!と主戦場を移しながら、今も一線で活躍し続ける
ガイド:「一体、成瀬は何をしているんだ?」という声を聞きます。

成瀬選手:基本的には、変わらず自分のトレーニングをしていましたが、不本意なんですけど怪我をしたりというのもあり、ちょっとストレスが溜まってましたね。ただ、この仕事をして長いので、(怪我と)うまく付き合うというか、うまく割り切って悩むことまではないですけど。

ガイド:リング復帰に関しては?

成瀬選手:早く試合したいっていうのもありますけど、こればっかりは焦らず、しっかり準備をしてからですね。

ガイド:成瀬選手であれば、プロレスのみならず、総合格闘技という選択肢もあるのではないかと思いますが?

成瀬選手:とにかく、あくせくせずに、根本の部分だけはぶれないようにしたい。幸い、今は格闘技界を一歩離れたニュートラルな目で見ることができていますので、タイミングを見極めて、納得できるところで然るべき試合ができればと思っていますね。

ガイド:古巣の新日本プロレスは気になったりしますか?

成瀬選手:正直、あまり気にならないですね。仲良い選手は何人かいるので、彼らが元気でやってるかなというのはありますけど、後は「ふ~ん」って感じで。

ガイド:話しを伺う限り、試合をすることが最優先という訳ではないように思えますね?

成瀬選手:実は、年内にドカンと大きいことを発表しようと思っています。僕は、それをやるためにフリーなったようなものなので。

ガイド:まだ、詳しくはいえないと思いますが、今後の動きとしては?

成瀬選手:7月からアメリカに行ってきます。向こうでは、世界的な会社グループのコンベンションがあるのでそれに出席し、色々勉強してきます。もちろん、練習も兼ねています。

ガイド:着々と準備なり勉強を進めているみたいですね。

「結局、なるようにしかならない」

インタビューのあとに、使える護身術を教えてもらった
成瀬選手:人にいわせると、「フリーになって、焦っていませんか?」とか、「なんで試合しないんですか?」とか。

ガイド:ファンの方からは、試合をしないと動きが見えにくいのかもしれませんね?

成瀬選手:自分の中で、現状の捉え方っていうのは“なんて贅沢なんだ”になるんですよ。独り身ってのもありますけど、目指していることや、好きな格闘技に思い切り打ち込むことができる。練習に関していえば、自分の根本にあった「強くなりたい。プロになりたい」という志を思い出すというか、強くなるためだけの生活ができているんですよね。実際、格闘家だけでは食えない選手は多いと思いますから。

ガイド:それらに集中できているのは、素晴らしいことですね。

成瀬選手:だと思います。将来に向かってのモチベーションが継続できてますし、たまに色々考えますけど、すぐ寝ちゃうんで。「なるようにしかならないな」って。そういう意味では、何事にも囚われず、自由人だけに自由に過ごしている、一人と猫一匹で(笑)。

ガイド:ちなみに、最近では子供達に空手を教える機会もあったそうで。

成瀬選手:先日、杉並区の小学校の土曜学級があって、地元で空手を教えている先輩と一緒に講師として参加してきたんですよ。講師には、色んな分野で一芸に秀でている人を呼んで、それを子供達に体験させようという。中には手品師の方なんかもいたみたいでしたね。

ガイド:どんなことを教えたのですか?

成瀬選手:武道の講師というのは初めてで、道着着て、子供達を並ばせて「返事は押忍だ」って。授業では“殴られれば痛いし、殴っても自分の拳が痛い”しかも暴力を振るえば心も痛む。まずは痛みを知ることで、簡単に人に対して手を出さなくなるという思いや、他人に対しての慈しみの精神を教えて、ミットを蹴らせたり、色々やりました。

ガイド:実際の教育現場はいかがでした?

成瀬選手:土曜学級が終わった後、そこの学校の校長先生やお偉いさん達が、一回も休憩を取らないで終らせた事に凄い驚いてるんです。2時間くらいだったんですけど、普段は2時間の内に3回も4回も休憩取らないと子供達の集中力が続かなくて収拾がつかないらしいんです。なんでかっていったら、多分怖いじゃないですか、武道家って。武道の持つ怖さとか、迫力が、子供にとっても「ここでふざけたら怒られるな」みたいな抑止があるんでしょう。体罰ではないけど、そういうのも必要なんじゃないですかね。

ガイド:礼節を学ぶところがなくなっている上、縦関係をもナアナアになってしまっていますからね。

成瀬選手:今は模範となる大人がヒステリックになり過ぎてるんですよね。少子化で子供が宝というのもあるんでしょうけど、昔は子供が万引きとかしても、「うちの子に限って」だったのが、最近では「うちの子だけでしょうか?他にもいて、うちの子は無理矢理やらされたのでは?」って。先ずはしっかりと大人が子供を叱らなければならないのに。

ガイド:過剰ですね。

成瀬選手:大人がまずは襟を正さないとということも多々ありますけどね。

ガイド:健全な精神は、健全な肉体に宿ると?

成瀬選手:武道っていっても、世界中でこんなに武道が盛んな国はないですからね。柔道、空手、剣道……。細かくいえば日拳(日本拳法)まで。武道を通じて節度と覚悟を身につける必要もあるのかなと。

「痛みは体に記憶される。試練に耐えてこそ、強くなれる」

護身術の中にも、「使える」という本質を基本にして教えてくれた
ガイド:成瀬さんの精神基盤は武士道や歴史上から形成されたところも多いですよね?もちろん、リングス時代の過酷な日々も……。

成瀬選手:歴史オタクですから(笑)。でも、心の鍛錬なんかは意識してやったところもありますね。

ガイド:心の鍛錬ですか?

成瀬選手:僕は今まで3回全身麻酔の手術をしているんですが、2回目が腰の手術だったんです。これが大手術で、僕の人生の中で最大の痛みだったです。手術ってされたことあります?

ガイド:いや、私はないんですよ。

成瀬選手:外科手術って身体を切るから熱を持つんですよ。で、麻酔が切れた後っていうのは、痛いは熱は出るわで、点滴の中に鎮痛剤が入っていたり、経口薬や座薬で痛みを和らげるんですけど、腰の痛みとか半端じゃなくて、寝返りもできず、30分毎にナースコールして、後は痛みにのた打ち回っている。

ガイド:想像を絶しますね……。

成瀬選手:実は、僕は当時の自分を恥じてるんです。「武道家という観点から見てもみっともなかったな」と。

ガイド:いや、それは仕方ないですよ!

成瀬選手:だから、3回目の肩の鍵盤を手術した時は、術後、痛みを限界まで我慢して、出来る事なら座薬や痛み止めの経口薬を飲まないようにしてみようかなと……。そしたら、我慢できちゃったんですよね。痛いし、熱も出たんですけど、腰の時程ではなかったので。以前、ムエタイの先生がいってたんですが、ボディに喰らう痛みとかってのは、身体にメモリーされるそうなんですよ。だから、ボディでKOされる時というのは、その痛みを超えた時だと。なので、自分にとっては痛みが腰の時よりも強くはなかったので、のた打ち回らずに、じっと我慢できたんだと思います

ガイド:常人なら絶対無理ですね。

成瀬選手:ちなみに手術は、1回目が内側靭帯で、2回目が腰。3回目が肩だったんですが、1回目の時に、身体に負担は掛かるんですけど、せっかく全身麻酔かけるんで勿体無いから、ねずみ(※)もとって貰おうと思って二箇所同時に手術をお願いしたんですよ。先生も「成瀬さんの体力なら大丈夫だろう」って。

ガイド:既に1回目の手術から試練に挑んでいたのですね……。

成瀬選手:実は、3回目の手術の時も、肩の鍵盤と肘のねずみの手術を同時にしてもらったんです。先生は「またかい?」って(笑)

ガイド:前田道場からプロになるだけでも、その精神力は尋常ではないと思いますけど、さらに心の鍛錬をしようと思い立ったのは?

成瀬選手:昔、勝海舟が9歳の頃、読書の稽古の帰りに野犬に急所を噛まれて、血だらけになって家に戻り、勝海舟の親父がその傷を見て「手術しなきゃダメだ」ってなって、外科医を呼んで手術をしたんです。当時は麻酔もないし、多分焼酎ぶっかけて(手術を)やったと思うんですけどね。その時、勝海舟が痛みで振るえ泣き叫んだら、親父が刀を畳に刺して「侍の子の癖に泣くな、武士として恥を知れ」といったら、勝海舟は耐え抜いたらしいんですよ。

ガイド:それはそれで凄い親ですね……。

成瀬選手:でも、それを聞いて、人間やろうと思えば何でもできるんだな。俺もやろうかなって。

ガイド:成瀬選手の強靭な精神力のルーツが分かりました。

成瀬選手:変に受身でいると、気がついたら流されていたってこともありますし、やっぱりそうではなくて、何でも自分のモノの捉え方一つ。日本人っていうのは、たかだか160年前に日本刀差して、ちょんまげ結って、その辺を闊歩していた。当時の江戸というのは欧米列強から比べると、文明的に劣っていたと思われがちですが、実は人口からいっても世界で三本の指に入るほどの大都会で、学問や芸術といった文化は、同時代のロンドン、ニューヨークと比べても、勝るとも劣らなかったであろうと言われています。その後、変に西欧化したというか、文化を求めていったというのもありますけどね。日本人は、文明的にも水準は高く、精神的にも本当に強かった。そういうモノを置き忘れないようにというか、大事にしたいんですよ。

ガイド:成瀬選手なら、思い描いたことを必ず実現してくれますね。年内の発表も楽しみにしています!

※遊離軟骨の通称。格闘技であれば、打撃の衝撃等で骨の一部が欠け、体内に残ってしまうケースも多い。

右:成瀬選手、左:ガイド。ガイドが着用しているのは成瀬選手の“心・技・体”Tシャツ!
■プロフィール:成瀬 昌由

昭和48年3月15日生/O型/東京都杉並区出身。
高校から空手を始め、1991年、前田日明が主宰するリングスへ入門。翌年5月、有明コロシアムでデビューを果たし、1997年にはリングス中量級王座決定戦「トーナメント21」に優勝。新日本プロレス移籍後には第40代IWGPジュニア王者に輝き、2003年には大晦日の格闘技イベント「Dynamaite!!」に出場、K-1の大巨人ノルキヤを秒殺、2004年には、アジアタッグ王座を戴冠した。今年に入り、自らの夢のため、新日本プロレスを退団。今後の活躍が期待される。愛称は“自由人”。

趣味:読書・流離いの旅(史跡探訪)・サーフィン・オートバイ・酒
特技:一輪車・裁縫
ブログ:自由人ブログ
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