“春の乱”が暗示する、スター偏重主義の歪み


 2006年の春、格闘技界には、思いもかけない“事件”が続発した。
 メインイベンター級の人気選手に、次々に予想外の不穏な動きが起こり、ファンもマスコミも動揺するばかりの毎日となったからだ。

■4月2日PRIDE武士道 では、盤石のエースとして君臨していた五味隆典が敗北。年内休養を示唆(後に取り消し)。

■5月3日のHero’sには、高田道場を離脱した桜庭和志が現れ、PRIDEからの電撃移籍を表明

■同月13日のK-1オランダ大会で、ボブ・サップが不可解な試合直前の出場拒否事件を引き起こして失踪。


 一つ一つは、まったくバラバラな事件であり、特に関連を感じさせるものはない。ショックの度合いから言えば、いずれも“事件”といういい方をしてしまいたくなるが、実際にイリーガルな要素があるのは、試合出場契約を反古にしてイベントに穴を空けたサップのケースのみ。五味は組まれた試合に出て負けたと言うに過ぎないし、「引き抜き」と騒がれた桜庭のケースにしたところで、実質は所属ジムを離れて契約的に何ら問題の無い状態で、紳士的に新天地に移っただけの話。不祥事とは呼び難い。

 ただ、一連の“事件”が、示唆するものは、ただ一つだ。あえて、一言でまとめるとするなら、「(イベント側の)スター選手の起用法と、選手当人の意識のズレ」と言う事が出来ると思う。

 第一章でもお話した通り、「スーパープロデューサー時代」とも呼ぶべき現在の格闘技イベントでは、絶対権力者であるプロデューサーの思惑と都合が、全てに優先する。中でも選手起用はその最もたる部分であろう。

 膨大な放送権料はもちろんの事、メジャーイベントとしての知名度を支えている、地上波放映は今やK-1とPRIDEにとって何物にも代え難い武器となっている。当然、その視聴率を維持する事は、プロデューサーの絶対命題だ。
 
 したがって、毎回人気選手をイベントに登場させて視聴率を稼ぎたいというのが本音。だが、真剣勝負のファイター達に、プロレスとのように毎月毎月コンスタントに試合をやれというのは不可能な話。肉体的なコンディションを維持するのも大変な話だし、アスリートとして、高いモチベーションを維持していくのはさらに大変なのである。
 “事件”リストの冒頭に、五味の敗戦を挙げたのは、それが単なる技量不足による敗北――真剣勝負の“競り合い”で遅れを取った結果では無いと見たからだ。