矢作「そっかー。11月の大阪のRealrhythmだっけ? 中尾受太郎とのタッグマッチがあった時、韓国人選手にKOされたって聞いて驚いたんだが」

井田「最終的に亀裂が決定的になったのが、あの大会みたいだったですね。この大会のブッキングには佐伯氏が関わってて、三島も断りきれなかったんですが、結果としてああいう形になって…。打撃のあるMMAで無差別タッグってのはやっぱり無茶ですよ。三島には首の故障もあったんだから、せっかくキャリアを積んで来た選手をああいう形で消費してしまうのはどうかと思いますねえ。その辺結局選手の求める物と、プロデュースする人の志向が噛み合なくなった典型だと思います」

矢作「ゲーム感覚と言うか、プロレスの延長線上で“顔見せ”で選手にタッグを組ませるってのは、俺みたいなガチガチの競技派からすると、神経がわかんない設定なんだよ。今MMA系の格闘技って、単なるプロレスの代替物になり始めてるのかなと思うと、ゾッとするよ」

井田「それが、さっき矢作先生の言ってた“哲学の欠如”に繋がっていくんですね」

矢作「曲がりなりにも一つのルールを軸にして、この価値観で強さを証明しようって集団だったら、“旨味のなくなった選手は何処にでも行ってくれ”みたいな事にはならないはずだし。一つ競技に骨を埋める覚悟で闘って、完全燃焼して引退するってのは幸福なことなんだよ、やっぱり」

井田「どうだろうなあ~。例えば、修斗ライトヘビー王者須田匡昇なんかは正反対のケースだと思うんです。彼はずっと修斗に居たくて、外に出る気なんかなかった選手なんですけどね」

矢作「そうかなあ? 彼も三島なんかと前後してDEEPに出たりして、むしろ積極的な“ジプシー派”なんじゃないの?」

井田「いやいや。修斗での扱いが悪かったってのが先にあると思いますよ。チャンピオンなのに、“お前の試合じゃ客が呼べない”みたいな感じでなかなか防衛戦も組んでもらえない。だからここ数年はDEEPに出たり、ハワイのスーパーブロウなんかで試合をやって来たわけで。今年の一月のエバーソウル戦なんかは久々の修斗登場だったんですが、これもノンタイトル戦。ちゃんとした「世界王者」としての試合はいっこうに組まれない。PRIDE参戦では、その辺の事情もあって「引退賭けてやります」とまで言ってたんですが」

矢作「まあ気の毒っちゃ、気の毒だが…そこらがある意味、修斗の現実面でのネックって気がするんだわ。ボクシングに倣ってプロモーターと協会を分けて管理してるのはいいが、肝心のプロモーターが少なすぎる。ボクシングだったら、須田みたいにベルト持ってる選手の居るジムは、プロモーターライセンスも持ってて自前で興行打ったりするから、防衛期限までに試合が組まれないなんてことは、まずないんじゃないか? まあ、それ自体安易な防衛戦連発するっていう問題もあるんだろうけどね。それかもっと抜本的に、王座戦のマッチメイク自体コミッションが統括するか、どっちかだよ」

井田「僕もその辺の知識は疎いんで、また調べてみますけど…とりあえず須田にとって九月の武士道トーナメントが、大きな格闘人生の岐路になっちゃったみたいですしね」

矢作「何よ?岐路って」

井田「修斗の王座を返上するみたいなんです。彼、本業で介護関係の仕事をしてることもあって、武士道には何回も誘われてたのに出れなくて。今回のトーナメントできなりブスタマンチみたいなスゴ玉にいきなり当てられちゃってたでしょう? 実は、そのままフェイドアウトっぽいんですよね」

矢作「それ自体はしょうがないじゃないか(笑)勝負事なんだし」

井田「まあそれはそうなんですが、参戦時に『負けた方が引退だと思う』って発言もありましてね」

矢作「じゃ、その公約を履行するってかい?」

井田「いや、引退云々はどうなるかわかんないですが、とりあえず、修斗世界王者のベルトは返上する意向みたいです。来年二月の代々木にもオファーはあったそうですが、断って返上の意志を表明したとか聞いてますし」

矢作「んー、その武士道で負けた事と、修斗の王座返上の因果関係がイマイチピンと来ないんだが…」

井田「まあ、早い話力量的には武士道まで上り詰めてるぐらいまで行ってるのに、トーナメントの員数合わせのポジションで終わって、もう居場所がない。でも、修斗にはもう戻りたくない。かといって、DEEPも何も言って来なくなってて…要するに雪隠詰め状態ってことじゃないでしょうかね」

矢作「その辺、彼は実質一匹オオカミみたいな物で後ろ盾になってくれるチームみたいなものもないしなあ…こういうとき孤立しちゃうか…。で、返上の話自体今回始めて聞いたんだけど、公式にはまだニュースになってないよね」

井田「ええ、口頭で通告しただけらしいんで。彼、淡路島在住じゃないですか。だから電話で“もう返上します”って言ったキリ。ベルトもまだ手元にあるそうなんですけどね。(笑)。コミッションでも受理するかもわかんないですしね。僕は別件取材があって当人から話を聞いてて『ばうれびで書いてください』って言われちゃったんですけど(笑)正式にニュースにするには、コミッションの正式発表が欲しい。そのうち発表されるだろうって思ってたら、未だにこの件なんの発表も無い。だからズルズル一ヶ月眠らせてたんですけど」

矢作「で、ここでポロッとか(笑)」

井田「いやいやいやいや、人聞きの悪い(笑)ただ、“当人が返上の意向”を表明までは事実ですからね。当人の意志レベルの話は、そもそも縛りの掛るような話とかじゃないんで。ただナマモノですからね人間の気持ちは。慰留されて、返上を返上、なんてこともあるかもしれないですし」

矢作「うーむ。まあ、要するに競技本意のはずの修斗でも、居づらい選手は居ずらいって話だな(笑)」

井田「ええ、やっぱ人間のやる話なんで、“哲学”と“理想主義”を掲げててもやっぱり商業主義はゼロと言うわけにはいかない。須田みたいに試合が地味で人気のでなかった選手は、チャンピオンでも外に出るか、すっぱり辞めちゃうかって事になっちゃうなって、そういう話です」