さる5月11日、横浜ベイスターズの石井琢郎選手が2000本安打を達成し、名球会入りを果たした。一流プロ野球選手の勲章である「名球会入り」だが、2003年に改訂された入会資格には疑問を禁じ得ない。

日本プロ野球名球会とは?


通算2000本安打・もしくは通算200勝を入会条件としてよく知られる、名球会。その正式名称は「日本プロ野球名球会」と言う。1978年に金田正一会長を中心に設立され、四半世紀の歴史を持つ。

現在の入会条件をまとめると、下記のようになる。

(A)昭和生まれであること
(B)投手は200勝、もしくは250S
(C)打者は2000本安打
(D)日本プロ野球(一軍)とメジャーリーグの記録を合算できる

入会資格の何がおかしくなったのか?


ここで筆者が問題にしたいのは、名球会が2003年12月の総会で、(B)の投手250Sと、(D)の日米合算という新条件を急遽追加したことだ。このために新「名球会員」となった選手は、高津臣吾(当時260S、FAでホワイトソックスに移籍前)と、佐々木主浩(当時シアトルマリナーズ、日本で229S、アメリカで129S)の二人だった。

これら2つの新条件をよく吟味してみたい。まずはリリーフ投手の250セーブは、200勝に相当すると名球会が定めたことだ。1セーブはなんと0.8勝換算である。現代野球ではリリーフ、特にクローザーに大きな役割を与えたとは言え、この換算率はいかがなものだろうか。

そして、もう一つは日米合算である。有力選手のメジャー流出という時代背景を考慮したものであり、これに異を唱えるつもりはない。しかし、「250S+日米合算」という新条件は、まさに佐々木と高津を入会させるための付け焼き刃的な基準変更にしか見えないのだ。上記の佐々木と高津のセーブ数をもう一度よく見て欲しい。

もちろん、佐々木と高津が名球会員に値しないと言っているわけではない。名球会側が行ったこの新条件の追加には、あまりにもずさんさが透けて見えるのだ。数字が絡むことなのだから、もう少し慎重に検討して欲しかったということだ。

【記録の意義と名誉】→

記録の意義と名誉


長くプロ野球に貢献した一流選手や関係者の名誉を讃えるシステムは、名球会の他に「野球殿堂」というものがある。「野球殿堂入り」は関係者の投票によって選ばれる、”野球社会内の政治”であるが、これにも取り立てて異議を唱える人はいないだろう。

それに対してもう一つの名誉システムである名球会は、任意団体とは言え、記録=数字を入会条件とするがゆえに、ある種の明快さを伴うべきだろう。しかしながら、2003年12月の基準改正(改悪?)により、さまざまな不明朗さを産んでしまったのだ。

不明朗さには2つのパターンがある。例を挙げてみよう。例えば松岡弘(元ヤクルト)の生涯成績は、191勝41Sである。また、ロッテで活躍したこともある、フリオ・フランコは、日本で286安打・メジャーでは2521安打の合計2807安打である。新基準の合算方式を援用すれば、彼らもまた「名球会員」としてしかるべき数字を残したと言えよう。しかし、彼らが新たな名球会員に名を連ねただろうか? 否である。

二つの不公正


新基準によっても、有資格者とみなされない不具合は、おおむね以下の二種類である。

(1)1セーブを0.8勝換算し、勝利数と合算した場合に200勝を越えている選手
(2)メジャーリーグで実績を残して来日した、いわゆる外国人助っ人

足せば200勝越え? の選手

選手名所属換算合計
松岡弘ヤクルト19141223
佐藤義則オリックス16548203
槙原寛己巨人15956203
大野豊広島148138258
佐々岡真司*広島132106216
斉藤明夫横浜128133234
鈴木孝政中日12496200
山本和行阪神116130220


日米合算で「基準以上」の助っ人

選手名所属日本メジャー合計安打数
フリオ・フランコ*ロッテ28625212807
ウィリー・デービス中日ほか23725612798
トニー・フェルナンデス西武12122762397
レジー・スミス巨人13420202154
ロイ・ホワイト巨人34818032151
ビル・マドロックロッテ11520082123
ウォーレン・クロマティ巨人95111042055
マティ・アルー太平洋25817772035
ラリー・パリッシュヤクルトほか22717892016
選手名所属日本メジャー合計セーブ数
リッチ・ゴセージダイエー8310318


*は現役選手。記録は2006年5月15日現在。

【金田会長の独裁体制】→

金田会長の独裁体制


名球会の不公正により、「名球会員」になれなかった選手をリストアップしたら、日本のみ所属選手=8名、メジャー経験者=10名の合計18名となった。案外いるものである。

セーブ数と日米合算を安易に「新基準」としたことで、これらの選手をどう取り扱うべきなのか、名球会側はあまりに考慮していなかったように思える。

では、なぜこのようなことになったのか。一つには、日本国内リーグのみで2000本・200勝を達成する選手が少なくなっていったことに対する、名球会側の焦りがあったように思う。名球会は金田会長の独裁体制で知られ、誕生時の入会基準に「昭和生まれ」を盛り込んだのも、大正生まれの川上哲治氏らの影響力排除と言われている。

また国籍条件がないのも、日本歴代最多勝の金田会長をはじめ、日本プロ野球の大選手(最多安打=張本、最多本塁打=王)ということからわかりやすい。しかし新基準の「日米合算」により、ある種の矛盾を抱え持ってしまったのである。

公正な基準の再考を


確かに日本プロ野球名球会は一つの任意団体に過ぎず、過去には名球会入りを断った落合・脱会した江夏・入会を保留している野茂などの存在もある。1シーズンの試合数の違いもあり、数字を単純比較することにそもそも意味がないのかもしれない。

しかし、それでも一つの安打・一つの勝利を積み上げ、2000本・200勝という金字塔を打ち立てたことはもちろん賞賛に値するし、また先述したように明快でもある。名球会入りというシステムは、数字=歴史の重みと評価すべきものだと個人的に思うので、なおのこと数字の取り扱いには注意して欲しかった。

今後も名球会は長く続いてもらいたい。現在は「昭和生まれ」に限った入会基準だが、それもおそらく取り払っていくことだろう。先述したように、200勝=250Sの換算にも同意しがたい部分がある。一度決定した基準を覆すのは難しいかもしれない。しかし、歴代のプレーヤーを数字によって評価することは、プロ野球の歴史を紡ぐ歴史的事業である。日本プロ野球名球会には、いまひとたび、公正な入会基準の再考を望みたい。
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