元西武・ダイエー選手で元オリックス監督の石毛宏典氏が掲げた、四国独立プロ野球リーグ構想。従来の日本プロ野球組織(NPB)とは一線を画し、四国各県1チームずつの4チームで来季からのリーグ戦実現を目指すが、果たしてその成算はどうだろうか。構想の現実性を検証する。

これまでの発表のまとめ

・石毛宏典氏が代表を務める株式会社IBLJ(Independent Baseball League of Japan?)がリーグを運営。
・NPB(日本野球機構)のプロ野球リーグとは一線を画した独立のリーグである。
・四国各県の県庁所在地に1チームずつ、合計4チームを置く。
・1シーズンに各チーム90試合、合計180試合を行う。
・シーズン期間は4月下旬から10月まで。
・各チームは週4試合を予定。
・チーム名は各県民に公募。
・12月に高松市のほか東京・札幌・大阪・名古屋で17~24歳を条件にトライアウト(選抜試験)を行う。
・1チームには22名を採用。
・監督等スタッフにはプロ野球OBを起用。
・四国コカ・コーラボトリングとJR四国の支援が決定。
・さらに複数のスポンサー企業を募っている。
・収入全体の約3分の1に相当する2億4000万円をスポンサーの支援に頼る。
・チケットは1000円を予定、1試合平均800人の観客動員を見込む。
・「アマの受け皿、プロの供給源になりたい」との石毛氏談話。

四国独立リーグの想定レベル

既存の日本プロ野球両リーグと同列に考えるものではなく、四国という地域密着型の独特な社会人野球のプロリーグと捉えるといいだろう。アメリカの独立野球リーグと同様に、選手は薄給だが、活躍すればメジャー球団傘下への道が開けるというような登竜門的な意味合いも持つだろう。

とは言え、プロ野球興業であり、シーズンを成立させリーグを存続させるための魅力を持っていなければならない。それには良い選手の確保や、リーグを盛り上げるための明確な運営方針(地域浸透やチーム間均衡策など)が必要だ。

選手の確保とプレーレベルという点だが、募集内容と発言からわかる通り、「プロ未満・アマ以上」のプレーヤーを考えているのだろう。既存のプロ野球(1軍・2軍)や社会人野球(クラブチーム含む)と人材の奪い合いになる前提なので、人材確保にはかなり苦労するかもしれない。

地域密着という点では、地元選手を多く採用することが人気を保つために重要だと思えるが、そのためにも四国の社会人野球チーム選手を取り入れる方策を考えるべきだろう。次ページで述べるが、現在四国にある社会人野球チームと同等か上のレベルになれるか否かが、リーグ存立のカギになると思われる。

石毛宏典氏プロフィール

1956年9月22日生まれ、48歳。千葉県旭市出身。駒沢大学・社会人野球プリンスホテルを経て、80年ドラフト1位で西武ライオンズに入団、81年新人王。内野手として西武黄金時代にリーダーシップを発揮し、86年はパ・リーグMVP、88年は日本シリーズMVP。95年、西武監督就任要請を蹴って、FAでダイエー移籍、96年現役引退。プロ実働16年で通算成績は1796試合出場、打率.283、1833安打236本塁打847打点。オールスター14回出場。

97年、ロサンジェルス・ドジャースにコーチ留学し、98年ダイエー二軍監督。02年オリックス監督就任、03年4月、成績不振のため解任。現プロ野球解説者・マスターズリーグ札幌アンビシャス選手。マスターズリーグ2003-2004シーズンの成績は42打数13安打.310、1本塁打1打点、シーズンベストナイン。


『野球王国』四国のバックグラウンド

野球王国と呼ばれ、野球熱の高さで知られる四国。独立野球リーグの存続を考えるにあたっての基礎データや背景を考察する。

■背景人口

四国4県の合計人口は約410万人、1県平均で約100万人だ。4県中で最大が愛媛県の約150万人、次いで香川県の約100万人、徳島県と高知県はそれぞれ約80万人である。日本の総人口約1億2000万人から比べると、四国全体の人口規模は約1/30ということになる。

現在、日本のプロ球団は12で、総人口約1億2000万人から1球団あたりの背景人口は1000万人と計算できる。アメリカは人口約3億人につきメジャーリーグ30球団であり、日本同様に背景人口1000万人となる。これらをもって1000万人=1球団説がよく言われるが、例えば韓国は総人口約4000万人で8球団(背景人口500万人)で、台湾は約2000万人に6球団(背景人口300万人)であり、背景人口単位による適正球団数を一概に言うことはできない。どの国も球団・リーグ経営的に厳しい状況ではあるが、上記4か国では以上のような球団数で野球のトップリーグとしての安定構造が保たれている。

それら各国のトップリーグと比較すると、四国独立リーグの各チームが背景人口約100万人につき1球団というのは、選手確保の面はさておき、観客収入等の面から興業的に成立するにはボーダーラインかもしれない。参考だが、キューバは総人口約1100万人に対してトップリーグの球団数が16で、背景人口は1球団あたり70万人だ。もちろん国情や成立背景が異なるので何とも言えないが、背景人口100万人の球団モデルの成立が不可能ということではないだろう。

※2004年5月1日の推計人口:
徳島県=816,163人、香川県=1,019,335人、愛媛県=1,477,307人、高知県=803,838人

■四国の高校野球

2004年春センバツ優勝、夏準優勝の済美(愛媛)や、夏の甲子園7回連続出場の明徳義塾(高知)を例に挙げるまでもなく、高校野球は学校数に比しても全国的に上位レベルと言うことができるだろう。

2004年夏の高校野球地方大会にエントリーしたチーム数は四国全体で168チーム。野球部員数を考えると数千人である。各県ごとのチーム数は、徳島県=35、香川県=38、愛媛県=63、高知県=32である。

※四国の代表的な野球名門校:
徳島県=徳島商・池田・鳴門工
香川県=尽誠学園・高松商
愛媛県=済美・松山商・宇和島東・川之江
高知県=明徳義塾・高知商

■四国の社会人野球

高校野球の隆盛とは反対に、四国経済の地盤沈下とともに社会人野球は苦戦を強いられている。社会人野球日本野球連盟の加盟チームは四国全体で4チームで、1県1チームである。全国の日本野球連盟加盟チーム数314チームに比べると、相対的に少ない。

高度成長時代の最盛期には加盟チーム19あったのだが、平成以降は4チーム時代が続いている。愛媛県では1999年にNTT四国野球部が解散し、代わりにクラブチームの松山フェニックスが発足した。四国全体では、企業チームが2・クラブチームが2である。

※四国の社会人野球チーム:
徳島県=徳島野球倶楽部
香川県=JR四国
愛媛県=松山フェニックス
高知県=四国銀行

■四国の野球場

四国4県の各チームに必要な、本拠地候補の球場をリストアップしよう。

徳島県:県営鳴門球場・県営徳島球場
香川県:香川県営オリーブスタジアム
愛媛県:松山坊ちゃんスタジアム・今治市営球場
高知県:県営春野球場・高知市営球場

【徳島県営鳴門球場】
県庁所在地徳島市よりも鳴門市にある県営球場の方が設備が良い。徳島駅からJR鳴門線で鳴門駅まで約35分、鳴門駅からバス等で約20分。両翼92メートル、センター120メートルで2万人収容。

【オリーブスタジアム】
高松駅からバス等で約20分。両翼96メートル、センター122メートルで2万2000人収容。

【坊ちゃんスタジアム】
予讃線で松山駅から3分、市坪駅前に位置する。高松駅からバス等で約20分。両翼99.1メートル、センター122メートルで3万人収容。

【高知県営春野球場】
プロ野球チームの春期キャンプやかつての黒潮リーグ(秋季リーグ)の開催地で知られ、公式戦可能な広さの球場もいくつかある高知県だが、ナイター設備のある球場がない。西武ライオンズが以前キャンプ地にしていた春野球場はその中では設備が良い。高知駅からバス等で30分。両翼91メートル、センター120メートルで1万5000人収容。


四国独立リーグのビジネスモデル

非常に大雑把になることを承知の上で、四国独立リーグの収支を計算してみたい。選手年俸等にどの程度拠出し、スポンサーがどの程度の支援をし、入場料以外の売上をどの程度想定しているかなど未知数の変数が多いのだが、おおむね一般的な球団経営モデルを参考に考えてみよう。

■支出

まずは支出の面から。支出は大きく「選手年俸」「人件費(選手以外)」「運営費」の3つに分けられ、大雑把に言えばこの比率が1:1:1ぐらいだ。

【選手年俸】
250万円(平均年俸)×25人(1チーム)×4(チーム数)=2.5億円とする。

※平均年俸は独立リーグレベルとしてはやや高めに設定しているが、目玉となる選手採用等も視野に入れた場合、このぐらいは考えておくべきだろう。また選手数も1チーム22人と言われているが、多少の剰余を考えておく。

【人件費】
監督・コーチ(5名体制との話)の他に球団裏方スタッフ、運営職員等が必要。また、物販等のバイト代も含める。

【運営費】
球場使用料や移動費、その他人件費以外のもろもろの費用。物販等の売上原価も含める。

というわけで、年間支出を年俸2.5億の3倍で、合計7.5億円と試算した。各費用の上下幅を考えると、年間予算は5億円~10億円とするのが妥当なところか。

■収入

収入は大きく「入場料収入」「広告収入」「放映権等収入」「物販等収入」の4つに分けられるだろう。

【入場料収入】
現在の発表では、シーズン合計180試合の平均観衆を800人と見込んでおり、チケットは1000円に設定するようだ。これを元に計算すると、180×800×1000=約1.5億円になる。

【広告収入】
スポンサー企業から2.4億円の支援を考えているようだが、四国経済を考えるとこれをクリアするのはかなり大変だろう。四国コカ・コーラボトリングがメインスポンサーにつき、JR四国の支援も決まっているが、これら大手がかなりの額を負担しないと厳しいかもしれない。3年間3000万円のスポンサー料で企業に支援を依頼しているが、Jリーグよりも高い点で断られているという報道もある。

【放映権等収入】
四国各県に地上波ローカルTV局、またCATV局があるが、IBLJ側がどの程度の放送と放映権料を考えているかはわからない。放送局側は高校野球地方大会の放映実績はあるが、権料を高くは設定できないだろう。仮に1試合100万円で約半分の100試合の放映権が売れれば1億円になるのだが、この値段は現実的だろうか…。

【物販等収入】
物販等の収入には、飲食物・グッズ・ガイドブック等があり、球場で販売される収入が大部分になるだろう。客単価は入場料と同等ぐらいが相場なので、これも入場料収入と同じく、約1.5億円になる。

というわけで、年間収入は、1.5+2.4+1+1.5=6.4億円と試算した。年間支出の試算7.5億円に1億円強欠けるが、入場料・スポンサー収入は発表通りの試算なので、どこかで辻褄をあわせないといけない。いずれにせよ、年間5億円~10億円のビジネスモデルだということは言えそうだが、それだけの収入を確保するのは簡単だとは言えないだろう。

収入の柱となる観客動員を、1試合平均800人と控えめに見積もっているのは好感が持てるし、また現実的な線だと思うが、この数字にせよ魅力あるチーム・リーグ作りができなければ容易には達成できない。地域密着型のスモールモデルは、時流的には正しいと思うが、そのスモールさが限りなく0に近づきやすいことには注意を払わなければならないだろう。


独立リーグあれこれ

ここで、四国独立リーグとの比較検証のために、他の様々な独立リーグの運営例を挙げてみよう。まずはアメリカンフットボールだ。アメフトはラグビーを変形したアメリカ独特のスポーツで、アメリカ国内のみにおいて既存のプロリーグ(NFL)が興行的に成功を収めている。NFLは積極的な戦力均衡策や地域との連携、またわずか16試合しかないシーズンゲームを逆手にとったレア化に成功し、スポーツビジネスの一つの成功モデルと言われている。

当然のことながら、NFL以外でアメフト人気にあやかろうと独立リーグを設立するという構想は何度も持ち上がり、実際にWL、XFL、AFLなどの団体ができた。WL(ワールドリーグ)はヨーロッパを巻き込み、アメリカのチームと大西洋を股にかけたリーグ展開だったが、91・92年とわずか2シーズンでリーグは解散した(現在はNFLヨーロッパに継承されている)。

XFLはアメリカのプロレス団体、WWF(現WWE)がNBC放送と組んで設立した団体だ。NFLのオフ期間をシーズンとし、エンターテイメント性を売りにしたが、これも2001年、1シーズン限りで大赤字撤退。無理に作り上げたリーグの脆弱さが現れた格好だ。

一方、アメフトのライト化とNFLとの完全な差別化で成功しているのがAFL(アリーナフットボールリーグ)だ。AFLは8人制の室内アメフトで、NFLのオフがシーズン。チケットもNFLに比べると安く、87年設立以来18シーズン続いている。

アメフトから野球に目を向けると、アメリカの野球独立リーグも一応の成功はしている。これはMLBとの差別化というよりも、MLB傘下のマイナーリーグと同レベルのチームをうまくリーグ化できたということだろう。四国独立リーグもこのモデルを参考にしていると思われる。

日本でも独立リーグがなかったわけではない。マスターズリーグはプロ野球OBによるリーグで、今年4シーズン目を迎える。これは選手の知名度による集客能力やスポンサーシップも大きいが、選手が他の仕事(野球関連や一般社会人)を持ち、副業的に携わっているという点もリーグ存立という点では重要だろう。

最後に、四国独立リーグに比較的近いモデルと思われる、台湾大リーグ(台湾大連盟)という野球リーグの話を書いておこう。97年に誕生し、03年に既存の中華リーグに吸収されるまでの6年間の話だ。

台湾大リーグの6年間

台湾リーグ(台湾大リーグ、台湾大連盟)は、台湾既存のプロ野球リーグである中華連盟に起こった八百長騒動などの激震のさなか、放映権争いを巡って誕生した新リーグだった。球界激震の状況で誕生したという点も四国独立リーグに類似しているが、4チームでシーズン96試合(当初)だったこと、1チームの背景人口が200万人程度だったこともよく似ている。

台湾リーグは台湾を北から4つのエリアに分け、フランチャイズ制を明確にしたが、やはり選手のレベルと、中華リーグとの非交流(両リーグでのシリーズ戦すらなかった)などによって、興業としての盛り上がりに欠けたのだ。初期こそ中華リーグから呂明賜(元巨人)や陳義信(元中日)らのスター選手や強力外国人助っ人を強引に引っこ抜いて盛り上がりはしたが、すぐに人気低下→予算削減→選手レベル低下の負のスパイラルに陥った。その後元々のスター選手も高齢化し、肝心の本土選手(台湾人選手)の海外流出(日本・アメリカ)も進み、リーグを立て直すことが不可能になった。

そこで歴史的な大和解により、03年中華リーグに合流した。その際、4つあったチームは2つに削減され、中華リーグの4チームと合わせて6チームとなったが、それでも元台湾リーグの2チームは下位に低迷している。

この事例をすぐさま四国独立リーグにあてはめるのは相応しくないかもしれないが、他のリーグと比較してあまりにもレベルの低い興業・地域密着策の不振などが重なれば、観客動員は目に見えて落ちるのだ。四国独立リーグも800人という低い観客動員目標だと、下手すると誰も見ないものに陥る可能性もある。スモールモデルのリーグ運営はいいのだが、積極的な興業振興策を取らない限り、リーグの存続は難しいだろう。野球王国四国の野球人気頼りだけでは、甚だ心もとないのだ。


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