ここ何年か、日本のプロ野球では大味なゲームが多くなった。以前よりもホームランが飛び交い、投手陣はいとも簡単に崩壊する。その大きな要因とされる『飛ぶボール』について検証する。

『飛ぶボール』のイメージ

私が観戦していたある試合でのこと。打席にはホームランバッター。ピッチャー投げた。高めの速球。打った。ちょっと詰まった感じの高いフライがセンターへ。センター定位置から二・三歩後退でゆうゆうアウト。と思いきや、打球は意外に伸びる。センターバック。センターバック。バックスクリーン最前列に入った。ホームラン。

と、このように、最近のプロ野球の試合では見ているだけで「えっ」と思う打球が意外に伸び、スタンドインしてしまうことが結構ある。明らかに打球は詰まっていて、はっきり言えば打ち損じだ。高めの速球で勝負するピッチャーには受難であり、フライヒッターには有利な時代だという印象なのだ。では実際、どれだけボールの飛びが増したのか。データを検証しよう。

セ・パ両リーグホームラン数推移

1999年以降の1試合あたりのホームラン数を見てみよう。

■シーズン別1試合平均ホームラン数
年度セ・リーグパ・リーグ
19992.051.82
20002.011.86
20011.862.44
20021.972.07
20032.352.38
20042.592.23
※2004年度は前半戦終了時のデータ

このデータだけでは詳細がわかり辛い面もあるが、おおむね5年前と比較して、1試合あたり0.3~0.5本程度ホームランが増加しているという傾向が読みとれる。0.3から0.5という数字は小さいが、リーグのシーズン本塁打数に換算すれば、100本から200本程度増えているという意味だ。この差は小さくない。

もちろん、このホームラン数の増減の理由は、『飛ぶボール・飛ばないボール』だけに帰因できるものでもない。例えばパ・リーグの2002年にホームラン数が落ち込んだ理由は、この年に採用された『新ストライクゾーン』による部分が大きい。ストライクゾーンが高めに広くなったことで、投高打低になったからだ(ただしこのゾーン変更も1年限りで元に戻ってしまったのだが)。

さらに、2003と2004シーズンを比較すると、セ・リーグは増加、パ・リーグは減少と読みとれるが、この要因は今シーズンパ・リーグから巨人に移籍した2人のホームランバッター(ローズ・小久保)がそれぞれ前半戦に27本塁打ずつを放っていることも大きいかもしれない。この数字を除外すれば、セ・パ両リーグとも、ほぼ昨シーズン並みのホームラン数だと言える。

この他にも、ホームランが増える要因、つまりボールが飛ぶ要因として、以下が考えられ得る。

●投手のレベル低下
●打者のレベル向上
●バットの性能向上
●ストライクゾーンの縮小
●ドーム球場の気流

しかし、次のデータを見れば、かなり『飛ぶボール』に対しての疑惑が深まることは間違いない。

『飛ぶボール』の正体は?

■球団本拠地球場での使用球と1試合平均ホームラン数
年度中日(ナゴヤドーム)横浜(横浜スタジアム)巨人(東京ドーム)
 使用球本塁打数使用球本塁打数使用球本塁打数
2001一光、サン0.81サン1.42ミズノ、サン3.37
2002ミズノ1.64サン1.49ミズノ、サン2.76
2003ミズノ1.70ミズノ3.15サン2.90
2004ミズノ、サン1.29ミズノ3.04サン3.63
※「サン」はサンアップ社

上記のうち、巨人のデータでははっきりしたことが言えないが、中日・横浜のデータはかなり明快な事実を物語っている。使用球をミズノに変更した年から、ホームラン数が倍増しているのだ。そして今年、中日は使用球をミズノだけからサンアップとの併用に戻した。6/18からのことだが、もう数字に現れた部分もある。

中日のナゴヤドームでの使用球だが、在京3球団(巨人、ヤクルト、横浜)に対しては「飛ばない」サンアップ球を、阪神・広島にはミズノ球を使用するという方針にした。まだデータは少ないものの、結果は明白である。大砲の多い在京球団と対して、6/18以降は6試合で4ホームラン(0.67本/試合)、阪神・広島との対戦では4試合で8ホームラン(2.00本/試合)である。

関係者には「公然の事実」

落合監督の中日が、戦略的に使用球の使い分けをしていることからもわかるように、野球関係者にとっては最近のミズノ球が『飛ぶボール』であることは公然の事実なのだ。そして興行的・戦略的にホームランを増やしたい球団はミズノ球を使い、そうでない球団はそれ以外を使用球にするというのが近年の傾向だ。

ある引退したホームランバッターは、「年を取ると飛距離が落ちる筈なのに、年々伸びていった」と言っているし、ある投手は「打球の速さがメジャーのそれよりも速い」と証言している。またある外野手は、「失速するはずの打球が伸びていく」とも言っているのだ。

もっとも、ミズノ球が他より『飛ぶボール』であるという証拠は、科学的データとしては取れてはいないのだが、データや証言などの傍証ではかなりはっきりしたことが言えるようだ。

ミズノ球はなぜ『飛ぶボール』なのか

ここで一つ断っておかなければならないのは、私は『飛ぶボール』を作っているミズノ社を批判しているのではないということだ。むしろ、製作技術的・質的には他社よりも高い水準にあるのではないかという印象を持っている。ボールはコルク・糸・牛革などの天然素材からできており、均質な性能を保つのは難しい。また、耐久性に優れていることが、各球団の使用球採用に影響する。ミズノはその点で高い評価を得ており、打球の飛びは副産物だったのだろうと思えるのだ。

そしてもちろん、ミズノを含めた各社の使用球は、テストに合格したものだ。テストで検査されるのは、大きさ・重量の他に反発係数だ。秒速75メートル(時速270キロ、ボールスピードとバットスピードの和を想定)のスピードで鋼板に当てた時の反発係数が、0.41~0.44の範囲内ならば合格である。ただし実際は、時速270キロを出せる機械がないので、それ以下の6段階のスピードで計測し、反発係数を回帰曲線によって算出している。

それでは、なぜミズノが他社のボールより飛ぶのだろうか。仮説として考えられる2つの点を述べてみよう。


『飛ぶボール』のカラクリ

一つは、ミズノ球の反発係数が合格値に対して高めギリギリ(0.44近辺)にあるという点。品質安定性というコントロールに自信があるからこそ、高めいっぱいの速球が投げられるのではないかということだ。

そしてもう一つは、耐久性と重要な関係がある、ボールの復元力だ。ボールはバットで弾き返された瞬間、大きく変形する。それを元の形に戻す力が復元力で、この復元力が高ければ高いほど、ボールはいつまでも変形せずに寿命が伸びる。そして、ミズノ球の復元力が高いと思えるのは、先の「失速すると思った打球が伸びる」といった傍証にある。反発係数の数値はあくまで初速度だが、復元力が高いほど、終速度の減衰が抑制できると考えられるからだ。

ゴルフボールの進化を考えてもらえばわかると思うが、メーカー各社の開発競争で、ゴルフボールの性能は格段の進歩を遂げた。飛距離、コントロール(方向安定性)、ボールの止まりなど、協会ルールに則りながらも果てしない技術競争を続けているのである。野球のボールとゴルフボールとでは、ボールの要素(素材、形状など)が違う点も大きいが、野球ボールの開発各社も、どういう工夫をすればボールの飛び方が変わるかはかなり理解していると思える(機密事項なので口が堅いが)。色々な意味で需要があってこその『飛ぶボール』開発なのだろう。

『飛ぶボール』の功罪-功の面から

コアな野球ファンにとっては、「罪」の部分ばかり語られがちな『飛ぶボール』だが、「功」の面もあることをまず書いておこう。まず、野球の華とも言えるホームランが増え、点がたくさん入り、野球がわかりやすくなる。より初心者向きのゲームが増えるということだ。

この方針を公言し、積極的に採用したリーグもある。1997年の台湾で、それまでの中華リーグと対立して新しく設立された台湾リーグがそれだ。当時は『飛ぶボール』の代名詞と言えば、現在のミズノ球ではなく、サンアップ球であった。台湾リーグは『強力野球』 を謳い文句に、外国人4人制を採用し(事実、開幕試合では1番から4番までが外国人であった)、そして『飛ぶボール』であるサンアップ球をリーグ的に採用したのだ。

明言こそしていないが、パ・リーグも実はその線を狙っていたと思える。10年前から、パ・リーグ6球団全てが併用を含めてミズノ球を使用しており、また併用からミズノ球単独使用へ移り変わるという傾向もはっきりしている。そのおかげで西武カブレラ・近鉄ローズのホームラン日本記録競争も盛り上がったと言えるだろう。そして、セ・リーグもその後を追いつつあるのだ(今年の中日は例外だが)。

『飛ぶボール』の功罪-罪の面から

「罪」の面を挙げればキリがない。野球がホームランや長打頼りの大味なものになる。社会人野球が金属バットだった時代もそうだったが、何点取ってもセーフティリードではない。ちゃんとしたバッティングでなくてもスタンドインするということで、バッターの技術が低下し、単なるパワーヒッター・フライヒッターが持てはやされることになる。投手の駒数がより必要になる。フライアウト狙いの高めで勝負できなくなる。さらに、打球速度が上がるという点で、特に投手が危険にさらされる度合いが増したということもある。そして、最も重要なのは、今でも相当間延びしている試合時間がより長くなる可能性が高いということである。

7/25の巨人-横浜戦だが、両軍合わせてなんと11ホームランが飛び交い、延長11回裏、金城の10号サヨナラ2ランで、横浜が11-9とサヨナラ勝ちをおさめた。4時間を超える熱戦と言えば聞こえがいいが、実際は両軍合計得点20点のうち17点がホームランによるもので、『飛ぶボール』による投手崩壊の空中戦と言っていいだろう。たまにはいいのかもしれないが、『飛ぶボール』時代になってから、あまりにこういう類の試合が頻発しているのだ。

そして『飛ぶボール』の罪の面の最後は、国際試合における国際球とのアンマッチだ。オリンピック壮行試合や本大会を見ればわかると思うが、日本のプロ野球ではあれだけホームランを打っている選手たちが、ぱたっとホームランが打てなくなるのは承知も承知だろう。日本プロ野球は、その国際化という点でも、ローカルルールを改める必要がある。

『飛ぶボール』もまさしくその一つだ。ボール自体の製作技術は進歩しているのに、公認球のテスト基準はもう23年も変わっていない。こんなところにも、日本プロ野球の守旧的体質が垣間見えてしまうのだ。


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