オリンピック開幕まで1週間と迫った7月30日、FIFAの声明を受け、リオネル・メッシ(バルセロナ)はアルゼンチン・五輪代表チームへ合流することとなった。所属のバルセロナと母国アルゼンチンとのFIFAを巻き込んだ騒動にようやく終止符が打たれた。

“黄金世代”のアルゼンチン・五輪代表

7月3日、アルゼンチンサッカー協会は、北京オリンピックへ出場するメンバーを発表。MFリケルメ(ボカ・ジュニアーズ)、DFブルディッソ(インテル)、MFマスチェラーノ(リヴァプール)と、A代表とビッグクラブで活躍するオーバーエイジ選手3人を投入し、本気でオリンピック連覇を狙いに行く姿勢がうかがえた。

それもそのはず、今回のオリンピック代表世代は、2005年ワールドユース、2007年FIFA U-20ワールドカップの優勝メンバーが主軸だ。さらに、FWセルヒオ・アグエロ(アトレティコ・マドリー)やMFガゴ(レアル・マドリー)ら、その多くがすでに欧州のビッグクラブのレギュラークラスで、アルゼンチンA代表にも名を連ねる選手ばかり。

なかでも、2005年のワールドユース得点王・MVP のFWリオネル・メッシ(バルセロナ)はこのチームのエースとしての活躍が期待されていた……。が、その出場が危ぶまれていた。

「待った」をかけたバルセロナ

そのメッシのオリンピック出場に難色を示したのが所属のバルセロナだ。

昨年リーガ・エスパニョーラで3位に終わったバルサは、今季のチャンピオンズ・リーグ(CL)は8月の予備予選3回戦からの出場となり、これは北京オリンピックのグループリーグの日程と重なってしまう。さらに、今季監督がライカールトからグアルディオラに交代したチームは、多くの選手を放出した影響で、選手の台所事情は厳しく、メッシを欠いてのCL予選は困難だと考えたのだろう。

同じようにバルセロナは、ブラジル代表としてオーバーエイジ枠で出場を予定していたロナウジーニョにもチームの離脱を認めなかった。しかし、もともと退団が濃厚といわれていたロナウジーニョは早々にミランへの移籍を決めて、代表チームへと合流。ミランはカカのオーバーエイジ枠のオリンピック参加は拒否したが、結果的にクラブがCL出場を逃したこともあって、オリンピック出場を望んでいたロナウジーニョについてはすんなりと認めた。

オリンピックの対象となる、いわゆるU-23の選手の出場を認めなかったクラブはバルセロナだけではない。ブレーメンはブラジル代表MFヂエゴ、シャルケは同じくブラジル代表DFラフィーニャの出場をクラブとして許可しなかったが、両選手は独自の判断で代表に参加。これに対し、クラブ側はこれを不当としてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に国際オリンピック委員会(IOC)とブラジル・オリンピック委員会を提訴する構えを見せていた。

FIFAの公式戦ではないオリンピック

国際サッカー協会(FIFA)の規則では、「クラブは選手を代表に派遣する義務がある」としているが、これはFIFAの管轄下にある試合、つまりFIFAの“公式イベント”に限定するものであり、この規則はIOCの大会であるオリンピックには適用されない、というのが各クラブの主張だ。

これを受けて、FIFAのブラッター会長は23日、「23歳以下の選手を派遣することがクラブの義務」とする通達を各国協会に出した。

これでメッシの出場にゴーサインがでたかと思われたが、バルセロナは首を縦に振ることはなかった。「派遣に拘束力はない」とメッシをチームにとどまらせた。そのため、29日に行われたオリンピック本番前の日本代表とのテストマッチに出場することができなかった。ただ、バルセロナのラポルタ会長は妥協案も提示し、「バルサが予備予選1回戦を勝ち、CL出場権の獲得が濃厚になり、アルゼンチンが決勝トーナメントに進んだら、その時はメッシを派遣する」とした。

そこで、FIFAは30日にこの件に関して選手法規委員会が最終判断を下すことになった。

メッシ「オリンピックは僕の夢」

FIFAは、「法律家の意見を聞いたところ、慣例に従い、過去の五輪と同様に23歳以下の選手は五輪に出場させないといけないとの結論に達した。FIFAの大会かどうかは重要ではない。オリンピック出場は選手にとって特別な機会である」とし、23才以下の選手をオリンピックに派遣させるように各クラブに通達した。つまり、メッシだけでなく、ヂエゴやラフィーニャのオリンピック出場も正当なものであると認めた。

同日、CASは、ブレーメンとシャルケが申請した調停を行わないと発表した。ブレーメンとシャルケはこの日、CASに、FIFAの決定に対しても異議を申し立てたが、CAS側は新たな申請については保留とした。バルセロナもFWメッシの派遣拒否の正当性を求め、CASに調停を申請する構えを示している。

こうしてようやく、メッシはアルゼンチン代表へ合流することが決まった。

信念を押して強行参加した選手達と異なり、クラブと母国の間に挟まれる形となったメッシに、「母国を大切にしてほしい。もっと強くなるべき」と先輩でもあるマラドーナが苦言を呈することもあった。

そんなメッシはオリンピックへの参加がようやく決まり、「FIFAの決定が下りたら代表チームの元へ行く。もしクラブがCASに提訴したとしても、その決定を待つことはできない。僕はこれまでもずいぶん長いことチームメイトやスタッフを待たせてしまったんだ。これ以上は手遅れになってしまう。もちろん、CASがオリンピック参加を認めない決定を下したら、その時はすぐにバルセロナに戻る。僕はクラブの立場は十分理解しているつもりだ。ただわかってもらいたいのは、母国アルゼンチンのためにオリンピックで戦うことが、僕にとって夢であると言うことだけなんだ」と胸の内を語った。

サッカー選手としての使命とは

結果として、FIFAと欧州クラブとの対立が深まる懸念を残す形とはなったが、選手達のオリンピックへの思いは叶うことになった(今後、オリンピックのサッカーはU-20になってしまうかもしれないが……)。

今回の一連の流れを考えると、オーバーエイジ枠はともかく、今回のオリンピックサッカー代表はU-23という年齢制限の中で出場可能な選手は、その選手が「出場したい」と意志があれば、尊重すべきである。クラブ側が自分たちの事情だけで、選手の希望を認めないのはどうなのだろうか。選手はクラブに所属する前に、その国の国民である。母国の子どもたちに、オリンピックの舞台でプレーし夢を与えることは、サッカー選手としての義務であり、使命であるはずなのだが。

8月7日、北京オリンピック開会式に先駆けて始まる男子サッカー。コートジボワール戦のピッチに「セレステ・イ・ブランコ(水色と)」のユニフォームに身を包んだメッシが、その雄姿を見せるだろう。

アルゼンチン/北京オリンピック予選リーグ日程
8月7日(木)対コートジボワール(上海)
8月10日(日)対オーストラリア(上海)
8月13日(水)対セルビア(北京)



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