文章:橋本 誠(All About「アート・美術展」旧ガイド)
PEACE BED アメリカ VS ジョン・レノン【通常版】 [DVD]
オノ・ヨーコとジョン・レノン
DVD「PEACE BED アメリカ VS ジョン・レノン」より
第53回ベネチア・ビエンナーレにおいて、日本人作家オノ・ヨーコが金獅子賞を授与されることが発表されました。

オノ・ヨーコと言えば、英国ロックバンド、ビートルズのメンバーである故ジョン・レノンの妻として多くの人が知るところでしょう。今回のガイド記事では、前衛芸術家としてのオノ・ヨーコの芸術活動にスポットをあて紹介します。

日本からニューヨークへ
オノ・ヨーコの生い立ち

オノ・ヨーコは、1933年東京都に生まれました。小学校の途中で父親の転勤でニューヨークに転居し、のち帰国。小学校の後半から大学入学までを日本で過ごしました。オノは学習院大学に入学するのですが、当時女性で初めて哲学科を志願したそうです。翌年には家族とともに再び父親の転勤にともないニューヨーク郊外に転居することになり、そして人文科学、舞台芸術、執筆で有名なサラ・ローレンス大学において音楽と詩を学び、その後の活動をニューヨークを拠点に行うようになります。そして、その地を拠点に活動していた前衛的芸術集団フルクサスに参加、詩、音楽、視覚芸術を混ぜ合わせるといった実験芸術に取り組みます。私生活では2度の結婚ののち、1969年ジョン・レノンと結婚、彼が亡くなる1980年まで共に過ごすことになります。

今回の金獅子賞受賞理由は?

どうしてオノに金獅子賞が与えられたのでしょうか。ビエンナーレ主催者は、彼女の受賞理由を、パフォーマンス・アートとコンセプチュアル・アートの先駆者であり、また現代において世界的に影響力を持つアーティストであり、「ポップカルチャーと平和活動のシンボルとなるずっと前から芸術的な表現方法を開拓し、日本と欧米の双方において永続的な痕跡を残してきた」と説明。オノ・ヨーコのパフォーマンス・アート、コンセプチュアル・アートとはいったいどんな作品なのでしょう?

次のページでは、彼女の代表作をご紹介します。

見る者の想像力に訴えかける概念によるアート
- 「グレープフルーツ 」


Grapefruit: A Book of Instructions and Drawings (ハードカバー)
Grapefruit: A Book of Instructions and Drawings
この本を燃やしなさい。
読みおえたら。


有名なこの言葉で締めくくられる著書「グレープフルーツ」は、「想像してごらんなさい」「一週間笑い続けなさい」など、言葉による指示(インストラクション)が書かれています。いわば、鑑賞者が作品に参加することにより成立するこのようなスタイルの作品はインストラクション・アートと呼ばれています。

この作品をはじめ、コンセプチュアル・アートの先駆けであるフルクサスに参加しながら、彼女は数々の作品を発表しました。コンセプチュアル・アートを日本語にするとそれは概念芸術といいますが、彼女の作品は自分だけに語りかけるのではなく、見る者の想像力、観念へと自ずと働きかけるまさに概念の芸術と言えるでしょう。やわらかな想像力に溢れる初期の代表作であるこの作品は改編され、「グレープフルーツ・ジュース」として文庫本でも出版されています。

なお、レノンはこの作品に触発されてビードルズの名曲「イマジン」を作ったといわれています。その一方、オノの活動に共感したレノンは、彼女と多くの共同制作をともにするようになり、彼女はこのことによりビートルズを解散させた女とも言われてしまいます。

そもそもレノンとオノの接近は彼女の展覧会がきっかけでした。2003年に日本国内5会場で開催された回顧展「YES オノ・ヨーコ」の展覧会タイトル"YES"は、1966年、ロンドンのギャラリーで展示された「天井の絵/イエス・ペインティング」に由来するものなのですが、これがオノとレノンが出会ったきっかけの作品です。鑑賞者は梯子に上り、天井に描かれた文字を、虫眼鏡を使って読むのですが、レノンは描かれた文字がうんざりするような否定的な言葉ではなく、すべてを肯定するような"YES"という文字が描かれていてほっとしたといい、彼女の作品を気に入ります。この展覧会での出会いがきっかけになり、徐々にふたりの距離が近づいていったと言われています。

次のページでは、平和活動家としての一面もつオノとレノンの作品をご紹介します。

PEACE BED
ジョン・レノンとの共同制作、平和運動

PEACE BED アメリカ VS ジョン・レノン【通常版】 [DVD]
『戦争は終わった!』の言葉がビル広告に。
DVD「PEACE BED アメリカ VS ジョン・レノン」より
二人は1969年3月に結婚するのですが、それ以前にも共作の音楽レコードを発表しています。ふたりが裸で並んだジャケット写真で話題になり、そのほか様々な平和運動にアーティストとして共に参加していました。1969年3月、結婚を報じると、つめよせるメディアをも巧みに利用し、平和を訴えかけました。

PEACE BED アメリカ VS ジョン・レノン【通常版】 [DVD]
ベトナム戦争の激化が続く中、ふたりは結婚式の後、「平和のためのベッド・イン」(BED PEACE)を発表。戦争の惨劇よりも、ベッドに入ったカップルの映像をテレビで流せば、少しでも世界は平和になるという信念によるものでした。この作品のあとには「戦争は終わった!」(War Is Over!)を展開。ビルボードやチラシ、新聞広告、ラジオ・スポット広告など様々なメディアを利用し、戦争の終わりを訴えるメッセージを世界12都市に送ります。

これらの活動が2007年ドキュメンタリー映画「PEACE BED アメリカ VS ジョン・レノン」として上映され、昨年2008年にDVDで発売されています。オノへのインタビューに加え、ニクソン政権の高官や元FBI捜査官らの告白を交え、アメリカ政府とひとりのミュージシャンの闘いを解き明かしていきます。

また、このような平和を祈る活動は、現在のオノの作品制作にも続いています。「願かけの木」(Wish Tree)は、それぞれの自分の願いを白い紙に記入し、七夕のように木の枝に結わえる参加型の作品です。こちらの作品は十和田市現代美術館(青森)でも常設展示されています。

「Making Worlds」と題された、第53回ベネチア・ビエンナーレは6月7日から11月22日までイタリアにて開催されます。創造のプロセスに焦点が置かれた今回のビエンナーレ。グレープフルーツをはじめ、シンプルな言葉で綴りながらものびやかで、澄んだ世界観を感じる前衛芸術家オノ・ヨーコはそれにふさわしい世界的なアーティストであると言えるのではないでしょうか。



いかがでしたでしょうか。今回のガイド記事は国際現代美術展、ベネチア・ビエンナーレで最高賞を受賞したオノ・ヨーコの活動を紹介しました。

記憶に新しい日本での個展は、2008年の十和田市現代美術館(青森)の開館記念展「オノ・ヨーコ 入口」です。十和田市現代美術館では常設作品も所蔵していますので是非訪れてみてください。そのほか、昨年はAkasaka Art Flower 08でも作品展示を行いました。また近く彼女の大規模個展が実現するといいですね。

また、動画共有サービスYouTubeでオノ・ヨーコでキーワード検索すると、ヨーコが着ている黒色のドレスを、観客が一人一人小さく切り刻んでいく「カット・ピース」などをはじめ、過去のパフォーマンス作品がいくつかご覧いただけますので生のパフォーマンスを是非ご覧になってください。

オールアバウト「アート・美術展」では、今後も様々なアーティストにスポットをあてご紹介していきます。お楽しみに!

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