栗本薫の巨大な業績

『ぼくらの時代』
大学生の栗本薫とバンド仲間たちは、アルバイト先のテレビ局で起きた連続殺人の謎に挑む。70年代の若者文化を活写した第24回江戸川乱歩賞受賞作。
複数の分野で活躍する作家は少なくないが、栗本薫ほどエネルギッシュな書き手はそう現れるものではない。ミステリー、SF、ファンタジーなどを量産しつつ、評論家としての活動を続け、多くの舞台演出や脚本を手掛ける――そんなマルチタレントぶりは1つの驚異でもあった。栗本は2009年5月26日に亡くなったものの、その作品群が読み継がれ、直接的・間接的に影響力を持ち続けることは間違いないだろう。

栗本薫は1953年東京生まれ。早稲田大学文学部卒。1976年に評論「パロディの起源と進化」で商業誌デビューを遂げ、同年に「都筑道夫の生活と推理」で第2回幻影城新人賞・評論部門に佳作入選。1977年に「文学の輪郭」("中島梓"名義)で第20回群像新人文学賞・評論部門を受賞し、1978年に『ぼくらの時代』で第24回江戸川乱歩賞を獲得。1981年には『絃の聖域』が第2回吉川英治文学新人賞に選ばれた。"中島梓"名義の評論やエッセイを併せると、約30年間に発表した著書は約400冊。"中島梓"が約30本の舞台演出(あるいは脚本)を手掛けたことを考えても、この数字はまさしく驚異的なものだ。

伝奇SFと
ファンタジーの超大作

『豹頭』
2009年に刊行が始まった〈新装版グイン・サーガ〉の第1巻。『豹頭の仮面』と『荒野の戦士』が収録されている。
栗本作品の過半数は伝奇SFとファンタジーであり、正伝20巻と外伝4巻から成る〈魔界水滸伝〉、15巻まで刊行された〈夢幻戦記〉のような大長編がいくつも含まれている――が、やはり代表作には〈グイン・サーガ〉を挙げるべきだろう。全100巻の予定で1979年にスタートした本シリーズは、現在までに正伝126巻と外伝21巻が上梓されており、単独作家による世界最長のファンタジーとも称されている。物語は未完に終わったものの、これが日本のファンタジー史における金字塔であることは疑うべくもない。

次のページでは栗本薫のミステリー作品を御紹介します。

栗本薫のミステリー

『黄昏の名探偵』
大正時代を舞台にした書き下ろし短編集。著者のオリジナル曲をモチーフにした5編が収められている。
探偵小説専門誌『幻影城』の評論賞に佳作入選し、江戸川乱歩賞で小説家デビューを遂げたように――著作に占める割合はさほど高くないが――栗本薫は(当然)ミステリー作家でもある。"栗本薫"(ただし性別は男)が活躍する〈ぼくら〉シリーズで登場した栗本は、当初は青春ミステリーの旗手と目されていたのだった。

そんな著者が最も愛用した探偵役が、25作の長編と4冊の短編集の主役を務める伊集院大介である。長唄の名家で起きた連続殺人を描く『絃の聖域』で初登場した伊集院は――『優しい密室』『鬼面の研究』『猫目石』を経て――第5長編『天狼星』で宿敵"シリウス"に出逢い、多くの長編において対決を重ねていく。これは著者の大河ロマン志向の反映に違いないが、他にも『猫目石』や『怒りをこめてふりかえれ』で"栗本薫"との共演を果たすなど、キャラクター小説の色彩が強いのも特徴と言えるだろう。精緻なトリックやアイデアではなく、お約束や雰囲気を重視する"読み物"にこだわることで、著者は〈伊集院大介〉シリーズという蠱惑的な異空間を築いてみせた。そこには江戸川乱歩や横溝正史が醸した"あの"浮世離れした空気が立ち込めているのだ。

【関連サイト】
神楽坂倶楽部…中島梓の公式サイトです。
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