シャーロック・ホームズの基礎知識

本格ミステリーに名探偵は付きものだが、シャーロック・ホームズがその代表格であることは間違いない。世界各国に熱狂的なマニア(=シャーロキアン)を持ち、文学史に大きな足跡を残したホームズ譚は"人類の文化遺産"なのである。まずは基本的なデータを押さえておこう。

コナン・ドイルは1859年スコットランド生まれ。エジンバラ大学医学部在籍中に小説家としてデビューし、1887年にホームズの初登場作『緋色の研究』を発表。1890年の続編『四つの署名』を経て、翌年に短編6本が雑誌『ストランド・マガジン』に掲載されたことで、ホームズ譚は爆発的な人気を獲得した。冒険小説とSFを志向するドイルはホームズ譚を快く思わず、1893年に「最後の事件」でホームズを(ひとまず)葬ったが、後にファンの要望を受けて復活させ、最終的には長編4作と短編56作を執筆している。

ホームズの贋作たち

知名度の高さと形式美のためか、ホームズ譚の贋作は――洋の東西を問わず――無数に書かれてきた。有名作家が手掛けたものも多く、それらを束ねたアンソロジーも(当然)何冊も作られている。エラリイ・クイーン編『シャーロック・ホームズの災難(上下)』はその最高峰だろう。33編を収めた本書は「探偵小説作家篇」「著名文学者篇」「ユーモア作家篇」「研究家その他篇」で構成されており、アントニイ・バークリイ、アガサ・クリスティ、O・ヘンリー、マーク・トゥエインなどの作品を一度に楽しめる。現役作家の書き下ろしを集めた『シャーロック・ホームズの新冒険(上下)』のような例もあるが、日本でオリジナル編集された『ホームズ贋作展覧会』のほうが――アーサー・ホイテッカーが"アーサー・コナン・ドイル"名義で発表した「指名手配の男」を収めているぶん――重要な存在と言えそうだ。

もちろん日本人作家も負けてはいない。『日本版ホームズ贋作展覧会(上下)』には、山田風太郎「黄色い下宿人」や星新一「シャーロック・ホームズの内幕」など、ホームズに関連のある短編とショートショートが18編収められている。必ずしもホームズが登場する話ばかりではないが、原典を知っていればより楽しめるのは確かだろう。ミステリーが元気な国では必然的にホームズの贋作が生まれるのである。

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