世界的ユーモア作家
P・G・ウッドハウス

『比類なきジーヴス』
ユーモア小説の古典〈バーティー&ジーヴス〉シリーズ11編を収録。ウッドハウス・ブームの引き金となった1冊だ。
多くの小説や映画の始祖にも関わらず、歴史的意義が周知されていない――そんな作家はさほど珍しいものではない。いかに多くの遺伝子を遺したところで、その存在感は環境によって薄められてしまう。欧米では絶大な人気を誇り、ユーモア小説の大家として知られるP・G・ウッドハウスもその一人だ。国書刊行会の〈ウッドハウス・コレクション〉と文藝春秋の〈P・G・ウッドハウス選集〉が刊行されるまで、その知名度は不当なまでに低かったのである。

P・G・ウッドハウスは1881年にイギリスで生まれた。オックスフォード大学の名誉文学博士号を取得後、銀行勤めの副業としてユーモアミステリーを発表し、副業のほうが収入が多くなったために退職。専業作家として〈ジーヴス〉〈マリナー氏〉〈エムズワース卿〉などのシリーズを発表し、いずれも爆発的な人気を博した。日本に紹介されたのは戦前のことだが、1966年の『ジーヴス物語』以来――2005年に『比類なきジーヴス』が上梓されるまで――39年間にわたって単行本は刊行されなかった。その後の3年間で10冊が上梓されたと言えば、近年のブームの凄さは明らかだろう。

著者の単行本については次のページで御紹介します。

「主人と執事」パターンの元祖
バーティー&ジーヴス

『サンキュー、ジーヴス』
記念すべきシリーズ初長編。ジーヴスに辞職されたバーティーは新たな執事を雇おうとするのだが……。
P・G・ウッドハウスは多くのシリーズを創造したが、最も有名なものが〈バーティー&ジーヴス〉シリーズであることは間違いない。有閑青年バーティー・ウースターと揉め事処理の天才である執事ジーヴスを中心に、トラブルの顛末をユーモラスに綴っていく本シリーズは、本国では11冊の長編と6冊の短編集にまとめられた。お人好しで間の抜けた主人と慇懃にして有能な執事のコンビは――ドロシー・L・セイヤーズの〈ピーター卿〉シリーズなど――多くの小説や映画に影響を与えたことでも知られている。バーティーの語りが醸す泰然自若としたムード、凸凹コンビの対話、トラブル処理の手際など、英国ユーモア小説の香りをたっぷりと味わえる好シリーズだ。ちなみに現時点では〈ウッドハウス・コレクション〉の7冊――『比類なきジーヴス』『よしきた、ジーヴス』『それゆけ、ジーヴス』『ウースター家の掟』『でかした、ジーヴス!』『サンキュー、ジーヴス』『ジーヴスと朝のよろこび』および〈P・G・ウッドハウス選集〉の『ジーヴズの事件簿』が容易に入手できる。

ウッドハウスの生んだ
魅力的なキャラクターたち

『エムズワース卿の受難録』
「綿菓子のような頭脳」を持つ気立ての優しい老紳士・エムズワース卿が数々の騒動に巻き込まれる。シリーズ全10編とボーナストラックを収録した決定版。
ウッドハウスはキャラクター作りの名手でもあった。バーティーとジーヴスだけではなく、エムズワース卿、マリナー氏、スミス氏など、愛すべきキャラクターのシリーズをいくつも発表し、それぞれに根強い読者を獲得したのである。入手容易な作品に絞って言えば、まず『エムズワース卿の受難録』の主人公は第9代エムズワース伯爵。英国の田舎町にあるブランディングズ城に住む、のんびり屋で心優しい――にも関わらず、様々なトラブルに巻き込まれてしまう好々爺だ。『マリナー氏の冒険譚』のマリナー氏は、いつも「釣遊亭」のバー・パーラーで奇談や冒険譚を語っている謎の人物。彼の素性は誰も知らないが、客たちは彼の話を楽しみにしている。マリナー氏という語り部の魅惑的な(微妙に怪しげでもある)トークがこのシリーズの神髄なのだ。

ジーヴスものに特化した〈ウッドハウス・コレクション〉と、キャラクターごとに編纂された〈P・G・ウッドハウス選集〉――さらに国書刊行会からはジーヴス以外のシリーズを収めた〈ウッドハウス・スペシャル〉の刊行も決定している。この出版ラッシュはユーモア小説史上の大事件に違いない。あまりにも遅きに失した感はあるが、ウッドハウスの世界に浸ることのできる環境が――ようやく――日本にも整備されてきたのである。

【関連サイト】
The Russian Wodehouse Society…ロシアのウッドハウス研究サイト。本文は英語とロシア語で書かれています。
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