レポート:伴戸玲伊子/ニューヨーク

 

マイナス15度以下に冷え込む事もあるという厳しいニューヨークの冬。しかし今年はそれ程寒くなる日もなく、比較的穏やかで暖かな冬を迎えている。今回は美術館が多く集まる5th Aveに沿い、ニューヨークを縦断しながら街の印象を留めてみたい。


マンハッタン島は細長く延びた半島であり、道路はおよそ碁盤の目に舗装されている。この島を縦に伸びるのがアベニューと呼ばれる道路で、島の右端から7つ目の道路が5th Avenue(Ave.)=5番街である。5th Aveは島の下方ビレッジと呼ばれる地区を起点として北に伸びる。ビレッジは以前は治安が悪い反面、家賃も安くアーティストがたくさん住んでいた地区で、ソーホーやチェルシーはここに隣接している。ソーホーには私が通うKremer Pigmentsという画材店があり、ここではテンペラ用として紹介さている欧州産の天然顔料を安く手に入れる事ができる。この店では日本のイワエノグも紹介されており、ごく少量だが店頭にも並べられている。

伴戸
メトロポリタン美術館(MET)は展示数が常時数十万点、全てを見るには4~5時間以上かかると言われている
5th Aveをさらに北に進むとエンパイアステート・ビル、ロックフェラーセンター、NY公立図書館などNYのランドマーク的建物や高層オフィスビルが立ち並ぶミッドタウンと呼ばれる地区に入る。NY公立図書館は荘厳な趣の図書館で、先月までここで行われていた中世欧州の装飾バイブルの展覧会は非常に見ごたえあるものだった。こうした公立施設では入場料が任意に任されることも多く、鑑賞者自身が自由に金額を決めて「寄付」することができる。多くを持つ者は多くを、少ししか持たぬものは少しを。自分のスタイルで美術を愛する気持ちを伝えればよい、というシステムはとても理に叶っている。この先しばらく進むとMOMAが見えてくる。日本人建築家・谷口吉生氏がデザインした改装後のMOMAは、吹き抜けのフロアとクリアな素材が開放感を感じさせる建築で、連日多くの人で賑わいを見せる。

ここから先しばらくは高級ショッピング街として有名な華やかな5th Aveの姿を見ることができる。セントラルパークを左に見ながら北上していくと、アッパーイーストと呼ばれる地区に入る。ここは大学や医療機関が多くハイクラスな住居の多い地区で、美術館を多く抱えていることでも知られている。5th Aveを進むと順にフリック・コレクション、ホイットニー美術館、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館、ジューイッシュ美術館などが見えてくる。特にメトロポリタン美術館(MET)は展示数が常時数十万点、全てを見るには4~5時間以上かかると言われている。世界各地のアートを網羅し、いつでも質の高い企画展を見ることができるMETは、まさにNYを代表する美術館といえるだろう。

セントラルパークが終わる辺りから先はハーレム地区。ここは黒人文化の色濃いエリアで、以前は治安の悪さで悪名高かったが近年は開発・整備が進み、犯罪率もかなり減少している。美術館こそないが、ブリーズ(細かく編みこんだ黒人特有の髪型)専門店や素晴らしいゴスペルが聞ける教会などがあり、独自の文化を持っている。


マンハッタンは決して広い土地ではないが多くの顔を持っており、1つの通りを歩くだけでも様々な表情を見つける事ができる。異なる民族・文化が混在した街はまさに複雑な織物のよう。個性的な色を持った糸が其々の色を損ねることなく織りこまれたかのように、多様な性格を持ったエリアが存在している。そこには独特の色と食べ物の匂いがあり、人々の話す異なる言語がある。ふとここは何処の国なのかと不思議に思うことさえある。

NYはアメリカの象徴でもあるが、この街の人々が持っている文化、故郷、神、パラダイスは必ずしもアメリカ的なものではない。NYが持つ底知れぬタフさは、異なる文化が衝突しあい、やがて違うことを認め合ったまま共存し、互いにその文化を護ってきたという自負にあるのかもしれない。NYはアメリカという国の力ではなく、他民族の共存というパワーによって作られた、稀有な魅力を持った場所である。

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