第139回芥川賞の候補作、津村記久子「婚礼、葬礼、その他」(文學界3月号)、小野正嗣「マイクロバス」(新潮4月号)、岡崎祥久「ctの深い川の町」(群像6月号)をご紹介!

津村記久子「婚礼、葬礼、その他」

婚礼、葬礼、その他
<DATA>タイトル:『婚礼、葬礼、その他』出版社:文藝春秋著者:津村記久子価格:1,200円(税込)
津村記久子は「カソウスキの行方」に続き、二度目のノミネート。新作を発表するたびに固定ファンを着々と増やしている注目の新鋭だ。大人が堂々と仕事を休める行事といえば結婚式と葬式。でも、いつも出席したくて出席しているかというと……。「婚礼、葬礼、その他」は個人に有無を言わせず召喚する力を持つものとしての婚礼と葬礼を描く。

主人公のヨシノは(おそらく)28歳の会社員。屋久島旅行にいくはずだった2月の連休の最終日に大学の友人の結婚式に招待される。この1年で3件目。ヨシノ自身には今のところ結婚の予定がない。手間もお金もかかる。友だちを祝いたい気持ちはあるけれど、複雑な心境だ。スピーチと2次会の幹事を頼まれ、役目を与えられたからにはちゃんとやろうと思って当日を迎えるも、とんでもない出来事が。式が終わって披露宴が始まる直前に、会社の上司の父親が亡くなり、急きょ通夜に行かなければならなくなったのだ。

“人を呼ぶ天分”がないヨシノに次々とふりかかる災難に笑わずにはいられない。候補作中で最もエンターテインメント度が高い1作。

次ページでは小野正嗣「マイクロバス」、岡崎祥久「ctの深い川の町」を紹介。


バスvsタクシー?小野正嗣「マイクロバス」と岡崎祥久「ctの深い川の町」

新潮 2008年 04月号 [雑誌]
<DATA>タイトル:『新潮4月号』出版社:新潮社価格:950円(税込)「マイクロバス」を掲載。
「婚礼、葬礼、その他」の主人公はヨシノだが、ヨシノ婆というおばあさんが出てくるのが小野正嗣の「マイクロバス」

舞台は大分県佐伯市と熊本県湯前町を結ぶ国道388号線の近くにある小さな集落。35歳になる信男は、知的障害があるらしく、幼いころから言葉を話さない。父親の紹介でいったんは工事現場で働くようになったものの、やがて職場に行かなくなってしまい、親戚のヨシノ婆をマイクロバスに乗せて、ただひたすら海岸線を走るのを日課にしている。

信男が見ている世界のなかでは、過去も現在も、自然も人間も、他者と自分も混沌としている。だから読みやすくはないのだが、信男がマイクロバスによって“縫い合わせていく”土地の存在感に圧倒される1編だ。

最後に紹介するのは岡崎祥久の「ctの深い川の町」。語り手は六行の床板しかない部屋での素寒貧な暮らしに嫌気がさし、故郷でタクシー運転手になった「わたし」。“ct”とはタクシーをあらわす符丁らしい。

「わたし」が就職したノーブル交通は、一風変わったタクシー会社だ。青いビロード風の上着と白いフリルがついたシルク風のシャツが制服。従業員は、まるで貴族に仕える従者のように客人を送迎するのだ。そこで「わたし」は磁石を大量に集め車にためこんでいる勝俣や、初対面なのに「ねえ、わたしとセーコーしたい?」と聞く河村といった不思議な同僚に出会い、客人として数学者や同級生の青山を乗せる。

故郷で人生をリセットした男のちょっとヘンテコな日常を描いた小説。

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