今に伝える江戸煮の好味 日本橋『お多幸』

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写真は上階の小上がり。仲間でくつろげる暖かみのある雰囲気
カウンターでくつくつと煮込まれている大きな鍋。中には色とりどりのタネがしょうゆの真っ黒のつゆで、煮しめてある。これが江戸時代に濃口醤油が発明され、江戸では醤油味の濃い出汁で煮た「おでん」が作られるようになった、いわゆる関東炊き(かんとうだき)。それが関西に伝わり、関西では昆布や鯨、牛すじなどで出汁をとったり、薄口醤油を用いたりと独自に変化していったのに対してそう呼ばれるようになったという。大正12年、銀座5丁目を発祥の地とする『お多幸』もその一つ。創業以来、関東の味を守り続け、平成14年7月日本橋に移転。今では数店舗を構える関東おでんの代名詞とも言うべき名店である。

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活気ある店内にほのかに甘い香りが漂い、胃袋を刺激する。写真は店長・暮林氏氏
店は地下鉄、日本橋駅にほど近い。店の暖簾をくぐると、煮しめたおでんのいい匂いが漂ってくる。ほのかに甘い香りが胃袋を刺激し、期待を高める。おでん屋でありながらそこはかとなく上品な店内。一階はカウンターと4人掛けのテーブル。上階にもテーブル席や小上がりがあり、それが4階まで続き連日、同店の味を求め満席になる向きたちの胃袋を満たすのだがら大衆おでんでよくぞ、と頭が下がる。

香りは体をほぐし、心を温め、食欲を静かに煽る。一般的に味が単調なイメージのあるおでんだが、『お多幸』でいただくと、そのイメージは一つの側面に過ぎず、煮しめられ鍋の中で関東炊きとなった味の奥深さを知る。ふたりで分けられるほど大きく厳選されたタネに始まり、50種を越す本格焼酎や日本酒、名物の茶飯におでん汁で煮込んだぷるぷるの絹ごし豆腐を一丁のせた「とうめし」に至るまで、皿ごとに関東おでんの伝統が生づいている。