ジャンル別のオールタイム・セレクト10シリーズは、ホラー映画に続いての第2弾「記録映画(ドキュメンタリー)」のイチオシの10作品を紹介します。ここ数年秀作が続々と公開されているドキュメンタリー映画は、昨年(2006年)も、拉致問題で苦悩する横田さんの30年間を描いた『めぐみ - 引き裂かれた家族の30年』、車椅子ラグビーで世界の頂点を目指す男たちの熱き戦いを描いた『マーダーボール』、米国史上最大の企業スキャンダルを描いた『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』などのアメリカ映画が公開。邦画でも、元日本兵の奥村和一が“日本軍山西省残留問題”を振り返りながら戦争を問う『蟻の兵隊』、伝説の娼婦“ハマのメリーさん”を回想する『ヨコハマメリー』が話題となりました。

21世紀に入って、戦うドキュメンタリー作家のマイケル・ムーアが“不都合なアメリカの事実”にメスを入れた2本の秀作ドキュメンタリー映画を発表。銃社会への警鐘『ボウリング・フォー・コロンバイン』、9.11テロの裏側を検証したブッシュ政権批判の『華氏911』は世界に衝撃を与えました。

そして今、人類史を変えるかもしれないドキュメンタリー映画『不都合な真実』が日本上陸。映画史に残る記録映画の10選の1本目は驚愕の新作から紹介します。

人類への警告『不都合な真実』

アメリカ元副大統領アル・ゴア
『不都合な真実』のジャパンプレミアより。地球温暖化問題を語るアル・ゴア
(c)Yutaka Nakano
アメリカ元副大統領アル・ゴアが地球温暖化問題をスライド講演で解き明かすドキュメンタリー映画です。

今、地球は瀕死の重病患者です。このまま「温暖化」が進めば次の世代には人類の故郷「地球」が滅びてしまいます。キリマンジャロの雪が溶け、北極の氷は薄くなり、各地にハリケーンや台風などの被害をもたらしている異変のすべては、年々上がり続ける気温により地球体系が激変。動植物が絶滅へ向かうカウントダウンに入っています。この地球を救うために今私たちが出来ることとは……。

Chicago sun-Timesで知られる映画評論家のロジャー・エバートは言います。「貴方にはこの映画を観る義務がある。万が一観なかったのであれば、何故観なかったのかを家族に説明しなければならない」と。

・2006年/アメリカ映画
・上映時間:96min
・監督:デイビス・グッケンハイム
・出演:アル・ゴア
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美しい地球、美しい海『沈黙の世界』

『沈黙の世界』
生物の故郷、海を魅せる『沈黙の世界』
美しい大自然や海を描いたドキュメンタリー映画は沢山ありますが、1956年に制作された本作はそのパイオニアです。監督の一人、ジャック=イヴ・クストーはアクアラングの発明者としても知られています。

映画は、ダイバーたちが手に燈火をかざして泳ぐ幻想的シーンからはじまります。そして、クジラに鮫の大群が襲いかかる食物連鎖、船と並走するイルカの大群、ウミガメの産卵、珊瑚礁に住む美しい魚たち……。心洗われる大自然の美しさを堪能してください。この美しい自然を失わないために、私たちは都合の悪いことから目を背けずに地球の明日を真剣に考える時代に入りました。

・1956年/フランス映画
・上映時間:85min
・監督:ジャック=イヴ・クストー、ルイ・マル

主題曲「モア」の美しい旋律!『世界残酷物語』の戦慄!

「残酷BOX」
表題作品『世界残酷物語』と『続・世界残酷物語』『さらばアフリカ』のヤコペッティ残酷三部作
未開の地に残る風習、奇習をナマナマしくフィルムに収めたヤコペッティ監督の長編第1作。

謝肉祭で数百頭の豚をたたき殺し食するニューギニアに住むキンプ族。狸、蛇、猿、トカゲを提供する香港の悪食レストラン。西太平洋ビキニ環礁では、核実験の犠牲になった動物たちの姿があります。飛べなくなった鳥、方向感覚を失い、海に戻れない海亀などなど。人間とはなんと残酷な生き物なのでしょう。数々のむごたらしい記録を白日の下にさらす衝撃作。

・1962年/イタリア映画
・上映時間:91min
・監督:グァルティエロ・ヤコペッティ、 フランコ・E・プロスペリ

次ページは、戦争と平和の記録映画5作品です。

戦場での都合の悪い真相を、今あぶりだす『ゆきゆきて、神軍』

『ゆきゆきて、神軍』
人を追い詰める恐怖、追い詰められる恐怖!『ゆきゆきて、神軍』
続きまして、戦争を語るドキュメンタリーの秀作3本を紹介します。その1本目は戦後最大の衝撃的な記録映画は邦画から『ゆきゆきて、神軍』です。

『極私的エロス』『全身小説家』のドキュメンタリー映画の巨匠、原一男監督の最高傑作。アナーキスト奥崎謙三が、ニューギニア戦線で起きたと言われる日本兵同士の食人疑惑を追求していきます。今では、いいおじいさんとなった人々に、忘れ去りたい当時の真相を聞き出す過程の過激なまでの執念に恐怖と戦慄をおぼえます。

・1987年/日本映画
・上映時間:122min
・監督:原一男
・出演:奥崎謙三

ヒトラーの生涯の記録『我が闘争』

『我が闘争』
人類史上の極悪人ヒトラーの生涯の記録『我が闘争』
ヒトラーを扱ったドキュメンタリー映画には『野獣たちのバラード』なるソ連映画の秀作もありますが、私はこちら、スウェーデン映画の『我が闘争』を取り上げます。

ヒトラーの少年時代から第一次世界大戦、第二次世界大戦敗戦と破滅までをニュース映像、スチール写真、ゲシュタポ教育用映画などで綴っていきます。正気の沙汰ではないヒトラーが行った悪行の数々。次に紹介します『夜と霧』と一緒にご覧ください。

・1960年/スウェーデン映画
・上映時間:117min
・監督:エルウィン・ライザー

嗚咽のとまらない歴史認識の記録『夜と霧』

『夜と霧』
怒りをこえて、ただ見詰めるのみ……。『夜と霧』
1933年2月、ヒトラーは国民と国家防衛のためという大義名分から強制収容所を法制化しました。すべてのユダヤ人は容疑者とされ、捕らえられたユダヤ人は収容所に送られました。

本作は戦後10年目にして作られた強制収容所「アウシュビィツ」の記録です。山のように積み上げられた死体をブルドーザーで処理。毛布や服などを作るために集められた髪の毛。金歯や眼鏡のフレームといった貴金属の山。ナチス医師による生体実験。大量殺戮工場と化したガス室。人類史上の信じ難い悪行の記録フィルムです。

・1955年/フランス映画
・上映時間:32min
・監督:アラン・レネ

オリンピア第一部『民族の祭典』

『民族の祭典』
1936年に開催された第11回五輪、ベルリン大会の記録『民族の祭典』
「戦争」の傷をえぐる3作品の次に紹介するのは、平和の祭典オリンピック映画の2本です。共に敗戦国の作品となったのは何かの因果か? 1本目はドイツ、ベルリン五輪からです。

古代ギリシャの彫像が人間に変わり動きだすプロローグ。この大会が初の試みだった聖火リレー。そして当時は日本陸上は最強の時代であり、マラソン、三段跳び、棒高飛び、走り幅跳び、円盤投げなどの日本選手の活躍がみられます。陸上の表彰式でメインポールに日の丸がひるがえり、日章旗と共に聞こえる「君が代」に、胸が熱くなることでしょう。

本作は“オリンピア二部作”の第一部です。第二部『美の祭典』は水泳など、勝敗より華麗なカメラワークにより美しさを表現した作品です。

・1938年/ドイツ映画
・上映時間:138min
・監督:レニ・リーフェンシュタール

1964年に日本で唯一開催された夏季五輪の記録『東京オリンピック』

『東京オリンピック』
カンヌ国際映画祭国際批評家賞受賞作『東京オリンピック』
『犬神家の一族』の二度目の演出で健在ぶりを示した市川崑監督が共同脚本も兼ねたオリンピック映画の最優秀作品です。

100メートル競走のヘイズの爆発的なスプリント、マラソンのアベベの二連勝。日本のお家芸、重量挙、レスリング、柔道、水球、そしてバレーボールでは、東洋の魔女が決勝でソ連を破り「君が代」を響かせました。

余談ですが、オリンピック開催に合わせて東京が大変貌しました。首都高速、モノレールの開通、ホテルニューオータニや東京プリンスホテル、銀座東急ホテル、パレスホテルなど豪華ホテルのオープンラッシュなど五輪開催は東京の経済発展の象徴的イベントでした。

・1965年/日本映画
・上映時間:170min
・監督:市川崑


次ページは、音楽記録映画の2本を紹介します。

好きにならずにいられない『エルビス・オン・ステージ』

『エルビス・オン・ステージ』
エルビス最後の輝きを放つ『エルビス・オン・ステージ』
平和の祭典オリンピック映画から、続きましては音楽記録映画の秀作を2本紹介します。

アメリカミュージックシーンで最も人気のあった20世紀の偉大なるエンタティナー、エルビス・プレスリーが1970年8月にラスベガスのホテルで行った熱狂ステージの記録です。「ハートブレイク・ホテル」、「この胸のときめきを」などなど20曲以上が歌われファン熱狂! エルビスがハンカチで汗を拭い、それをもらったファン熱狂! 抱きしめられて失神寸前のファン熱狂! キスされてファン放心!嫉妬した他のファン怒号の熱狂!
また、リハーサル風景やステージに上がる前の神経質さをみせたりと、エルビスのバックステージの魅力も存分に映し出されています。本作の大ヒットでコンサートツアーの記録『エルビス・オン・ツアー』が2年後の1972年に制作されました。

・1970年/アメリカ映画
・上映時間:109min
・監督:デニス・サンダース
・出演:エルビス・プレスリー、ジェームズ・バートン、チャーリー・ホッジ

愛と平和と音楽の祭典『ウッドストック』

『ウッドストック』
ドラッグとロックを通して対抗文化をみせる『ウッドストック』
日本では1975年に吉田拓郎とかぐや姫による初の夜通しコンサートin「つま恋」が開催されましたが、本作の舞台となったニューヨーク州サリバン郡の「ウッドストック」は、1969年8月15日~18日にかけて行われた前代未聞、空前絶後のロックコンサートです。

1960年代アメリカに吹き荒れたカウンターカルチャーの嵐を受けて行われた野外コンサートには、40万人もの若者たちが押し寄せました。ベトナム戦争の影がちらつく時代に自らが生きてゆく事に様々な実験を試みる若者たちの姿は、70年代以降に日本でも象徴化するシラケ世代や新人類に繋がっています。物質文化ではないもう一つの文化を模索する若者たちが突然変異的集団的に現れたことを確認できるコンサートです。そして今、ウッドストックジェネレーションがエコロジカルに地球環境を考え、次世代の人々を先導していかなくはならないと思います。

時同じくして(1969年)ニューシネマの傑作、ドラッグとロックと共に生きる若者を描いた『イージー・ライダー』が作られたのは偶然ではありません。

・1970年/アメリカ映画
・上映時間:185min
・監督:マイケル・ウォドレー
・出演:ジョー・コッカー、ジミ・ヘンドリックス、サンタナ 、ジョーン・バエズ、ジャニス・ジョプリン


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いかがでしたか? 真実を知る恐怖、真相を知らない幸せもあるでしょう。しかし、情報化社会の今、歴史を認識することも必要でしょう。過去を知った上で、都合の悪いことからも目をそらさずに未来を考える……。そして、私たちの子孫に美しい地球を引き継ぐことが、成熟した現代人の役目だと思います。

次回のオールタイムのセレクト10シリーズは「ミュージカル映画」をお届けします。お楽しみに。
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