こだわりのあるラーメン屋

先生:
Perfume対談は別に連載のつもりで始めたわけじゃないのですが、予想を遥かに超える続き方ですね。アイドル、ファッション、楽曲、ライヴ、メディアと色々な観点からPerfumeを分析してみましたが、今回は新しい切り口で話し合いましょう。

博士:
そうですね。そろそろあ~ちゃんに「あってるかわからないし~っ!」なんて突っ込まれない様、All Aboutにふさわしい内容でバシっと決めて行きましょう!

先生:
僕たち、本業を明かしていないのですが、この分析はお互いの本業が多少なりとも生かせると思います。題して、Perfumeのビジネスモデル研究(副題:Perfumeはこだわりのラーメン屋であるべし)です。

博士:
ラーメン屋とはユニークな比喩。いや、むしろ解りやすいかも知れませんね。原始よりもっとも本能に根ざす“食”を通じての分析は直感的に訴えるものがあると思いますよ。

お金は大事

先生:
アイドルのビジネスモデルとか言っちゃうと、金儲けのための話みたいな感じで反感を持つ人も居る人もいるかもしません。でも、アイドルだって、アイドルを支えている人たちだって、利益が出る構造というのを作らないと続けていけないわけですから、重要です。

博士:
あ~ちゃんも常々、「お金は大事」と言っていますからね。

先生:
これは別にアイドルに限ったことではありませんね。ミュージシャンと呼ばれる人たちは当然ですが、世の中の摂理です。分かりやすく、ラーメン屋のケーススタディを使いましょう。例えば、自分が大好きなラーメン屋があるとします。もちろん、大好きなラーメン屋ですから、無くなって欲しくないですよね。でも、そのラーメン屋が存続するには、資金とか従業員に払うお金がいるんですから。

博士:
その通りです。プロとは=職業と言う事なんですよね。その意識が日本のエンターテーメントでは希薄ですね~その点についてはおりおり述べて参りましょう。 それではいよいよ、こだわりのラーメン屋さんが開店するわけですね~楽しみです。

ラーメン屋開店

先生:
なんか、いつもより博士、キャラがさわやかで不自然ですよ。「マカロニ」の聴きすぎ? まぁ、いいか。

このラーメン屋さんはとても志が高いラーメン屋さんでした。小さい時からラーメンが好きで、ラーメン屋での修行にも耐えて、2002年にやっと自分の店を広島に構えたんです。店の名前は芳香軒。

博士:
まるで、広島アクターズスクールで修行したご当地アイドル時代のぱふゅ~むのようですね。

先生:
しかし、ラーメン業界は競争が激しく、そんなに甘くはないのです。最初の一年はまだラーメンは無難においしいとは言えるが、個性に欠ける味。お客さんの数もなんとかやっていける程度でした。もちろん、宣伝にかけるお金はほとんどありません。

博士:
一見それらしくは作っているものの、そのとき流行ってたほかのチェーンの装丁や広告キャラクターを流用したみたいな感じですね~かえってパチもの臭い感じがします。

ラーメンの神登場

amazon.co.jpにあるCDは、ジャケ写からリンクできます。(amazon.co.jpにない場合、海外のamazonや他の通販サイトへ)
Fan Service~Prima Box~
先生:
パチもの研究家の僕たちとしてはそれはそれで面白いのですが・・・
しかし、二年目の2003年にラーメン屋さんに大きな転機が訪れるのです。後にラーメンの神と呼ばれる人に出会うのです。そして、秘伝のスープを伝授されるのです。お陰で徐々に一部のラーメンマニアと呼ばれる人たちから注目されはじめます。東京からも二人のラーメンマニアがわざわざ食べに来てくれていました。でも、まだまだ知名度は在りません。

博士:
ラーメン界のサブカルのような人たちがまずファンになる。

先生:
一時は気の迷いでラーメンの秘伝のスープ以外のものにも挑戦しましたが、ラーメン屋さんはこれは自分の作りたい味ではないと反省します。

博士:
例のミソ味にあんこを入れてしまった金時ラーメン(同じ店名のラーメン屋がありますが、違います)ですね! 甘ければ若者に受けると思ったのが安直でした。 しかし、まるで「アキハラブ」みたいですね。

東京へ進出

先生:
ラーメンの神のお陰で、銀行ももう少しなら融資してもいいと言ってくれます。2005年にラーメン屋さんはここは勝負と東京への進出を決心します。ラーメンの味だけでなく、さらに麺と具にも改良を加え、味の個性が伝わるような店構えとなるわけです。

博士:
味はラーメンの原点に戻った印象ですね。 昨今流行のこってり味への挑戦のようにも見て取れます。むしろ往年のラーメンファンが“懐かしい昭和の味”とか言って注目し始めた・・と聞きます。

先生:
そう、レトロな味なんですが、新しいのです。レトロフューチャーですね。

博士:
メジャーデビューした「リニアモーターガール」のような話ですね。

先生:
東京での勝負はそんなに甘くありません。昔からの常連客は、「芳香軒のラーメンはラーメン界最後の希望の星」と絶賛してくれましたが、なかなか激戦区の東京での知名度は上がりません。宣伝費も東京は高いので、地道な地域での活動が中心となります。

博士:
それはPerfumeで言えば、宇多丸さんと掟ポルシェさんのような人たちですね・・・

先生:
ここに落とし穴が。東京では家賃、人件費、材料費、全て割高で、このまま東京で店を存続して行く事は広島時代よりも遥かに難しくなっていることに気付きます。このままでは広島に帰らないといけない危惧も生まれてきます。

博士:
流行の味に迎合してしまう誘惑が周囲から来そうですね。

先生:
しかし、ラーメン屋さんは自分の持っているこだわりを信じていました。いや、最初はラーメンの神の伝授してくれた秘伝のスープは普通のラーメンとあまり違いすぎるので、これでいいのだろうかと疑心暗鬼になっていました。もっといま流行の受け入れられやすい味にするべきなのかと迷いました。しかし、やっている内にラーメン屋さんはこれが自分にしか作れないラーメンの味である事に気付き始めました。自分の作るラーメンが大好きなお客の言葉を信じて・・・

博士:
店長自ら店頭でビラをまいたりしていたらしいですね。そのときの合言葉が「名前だけでも覚えて帰ってください」。

《けろっぐ博士の妄想コーナー》
「名前だけでも覚えて帰ってください」・・・書いてて泣けるキーワードだ。
例えば映画のラストシーンがむしゃらに走り続けて来て、あ~ちゃんがいつものようにそう言って目の前を見あげた時、そこには満員のお客様。後ろから「もう言う必要もないよ」と促す二人が居る。
誰も居なかったホールとオーバーラップする映像。そこには少女だった三人が座ってステージを見てる。
「たとえ口に出さなくてもこれからもずっと心のなかでは叫んでいくんだ~名前だけでも覚えて帰ってください」って
そっと心に誓うあ~ちゃん。そしてエンドタイトルへ・・・泣けるぜ!

グルメ評論家絶賛

先生:
かなり重症ですね。話を戻しましょう。

はい、地道な努力も怠らない店長です。
2007年のある日、TVにもよく登場するグルメ評論家が偶然、芳香軒を訪れました。実際、評論家はラーメンが特に好きなわけではありませんでした。でも、そのラーメンは今までのラーメンとは明らかに違う事に気付きました。これはラーメン界の革命であると絶賛し、評論家は芳香軒のラーメンの素晴らしさを多くの人たちに伝えました。

博士:
評論家の名前は木村女史ですか?

先生:
それは言えません。でもその評論家はすっかりラーメン好きになり、その後自らもラーメン屋を始めてしまうのです。

同時に現在においてはインターネットも有効な情報源です。芳香軒のラーメンの素晴らしさを食べた人たちが自発的にブログなどに書いていってくれた功績も多大です。

博士:
なるほど。Perfumeの場合もニコニコ動画などで分かりやすい形で彼女たちの良さが伝えられた効果は絶大でしたからね。

先生:
結果、グルメ雑誌やTVからも注目を集め、芳香軒のラーメンは大人気。所謂、行列の出来る店になったのです。

ブランド・エクィティとは?

博士:
このラーメン屋さんの成功の秘訣はなんなのでしょうか?

先生:
ラーメン屋さんは日本にいっぱいあります。芳香軒は、こだわりのあるラーメン屋さんであったことが大事です。マーケティング的に言えば、芳香軒というは、ラーメン屋としてのブランドなんです。そして、芳香軒は強いブランド・エクィティを作り上げることに成功したのです。

ブランド・エクィティというのが、ブランドの持つ価値です。しかし、ブランド・エクィティは資産ですから、それには投資や時間が必要となります。

博士:
なるほど、じゃ、Perfumeもブランドなんですか?

先生:
その通りです。Perfumeは“近未来テクノポップ・アイドル”としての強いブランド・エクィティを作ることに成功したんですね。

博士:
ブランド・エクィティって儲かるんですか?

先生:
いい、質問ですね。ここで単なる金儲け主義なのかブランド・エクィティ主義なのかちゃんと考えないといけないのです。例えば、昨今、消費者の信頼を失うような偽装などが発覚すると、それは当然ブランド・エクィティの失墜になります。資産から負債になるわけですね。でも、多くの発端は、短期的な利益追求主義から来ています。もし、ブランド・エクィティを大事と考えるなら、そんな事は絶対しないわけです。当然、利益の追求は企業であるかぎり、必要ですが、ブランド・エクィティを大事することは継続的な利益に繋がるのです・・・古い言葉で言えば、のれんを大事にするということですね。

アイドル業界というのは通常、賞味期限が短いとされています。まぁ、ハロプロのようにとっかえひっかえで延命するというのも方法論としてはありますが・・・ しかし、Perfumeは短期的に儲けるよりも長期的な成功を狙って欲しいものです。

ブランド認知

博士:
強いブランド・エクィティを作るにはどうしたらいいのですか?

先生:
まずは認知度ですね。いくらいいブランドでも認知されないと買うことはないですからね。認知度を上げるのは簡単そうで、大変難しいです。しかも、単に認知度を上げるだけでは駄目です。ひとつの商品カテゴリーという中で、消費者のこだわりのブランドにならなくてはいけないのです。先ずはラーメン屋やJ-POPといったカテゴリーで芳香軒もPerfumeもちゃんと差別化がされていないと、多くのブランドの中で選択肢とならないのです。

博士:
ラーメン屋もJ-POPもいっぱいありますから、目立つの大変ですね。

先生:
当然、メディアを使った宣伝というのが考えられるのですが、それにはお金がかかるのです。あまり宣伝費がなかった芳香軒やPerfumeは、地道な努力でそれらを体験した人からの情報発信で認知度を上げていったわけです。インターネットというのは、お金のかからないメディアとして大変有効な手段です。

博士:
誰に情報発信すればいいのでしょう?

先生:
博士、とてもいい質問です。冴えていますね。ラーメン屋さんもPerfumeも全ての人たちを対象するのでは、効率が悪すぎます。ここで必要なのがターゲットという考え方です。ブランド戦略を組む上で最初に考えるべきことはターゲットです。

ラーメン屋さんならどんな人に芳香軒でラーメンを食べ、Perfumeならどんな人に聴いて欲しいか、ちゃんとイメージできないといけないのです。多くの場合、ブランドは皆に好かれる必要なないのです。それよりもターゲットと考えられる人たちにすごく愛される事の方が重要です。ブランドの持つ個性とターゲットの一致ということをちゃんと考えましょう。ただ、ターゲットというのはブランドが成長していく過程で変わっていくこともあるので、注意が必要です。Perfumeの場合、アイドルファンだけでなく、アーティストや音楽マニアに好意的に受け入れられたのが、いい方向にファン層を拡大できた要因とも言えましょう。

ブランド連想

博士:
ターゲットに認知してもらうだけでいいのでしょうか?

先生:
認知だけでは、購入行動にはなりません。購入行動を駆り立てるものが必要です。

例えば、まだ使ったことがない商品が店頭にいっぱい並んでいます。どれもそこそこ知られているブランドで、値段もあまり変わりません。その時、博士ならどうしますか?

博士:
パッケージやその中の訴求や店頭で展開されているPOPとかを見比べて、決めますね。店員さんが居れば、質問するかもしれません。

先生:
商品から五感に訴えるメッセージがある事は重要です。CDならジャケや店員のコメントや試聴機ですね。ラーメン屋なら店の構え、ラーメン屋からの匂いとかですね。

ここで博士に質問です。1年前、テクノポップと言えば、博士なら誰を連想しますか?

博士:
そりゃYMOでしょ!!
当時、いくら頑張っても所詮欧米の真似でしかなかった世界の音楽シーン。 いくら長けてもむしろ滑稽でしかなかった東洋人というポジション。 それなのに迎合するどころか日本人のキャラクター、アイデンティティーがむしろイニシアティブを取れるようなテクノというジャンルを世に知らしめした功績は私にとっては神に値します。

先生:
そうですよね。特に30代以上の世代では・・・

では、今、テクノポップと言えば、どうなると思いますか?

博士:
YMOとPerfumeは結構拮抗するでしょう。特に若年層で。

先生:
カテゴリーからはじめに連想できるブランドであるということは大変重要です。例えば、コーラと言えば、コカコーラ、携帯プレイヤーと言えばiPod(昔はWalkman)、オークションと言えばヤフオク(海外ではe-Bayですが)、下痢止めと言えば正露丸などなど。そこまで行けば、エクィティは強くなったと言えるでしょう。

ブランド・ロイヤリティ

博士:
それでも廃れていくブランドは多いですよね。

先生:
はい。ブランド認知度と同じくらい重要なのが、ブランド・ロイヤリティです。TVや雑誌で紹介されたラーメン屋さんは認知度が上がって、一時的にお客さんが増えます。しかし、お客さんがリピーターになってくれないと一過性のブームとして終わります。酷い時には在庫を抱えたり、回収出来ない投資をしてしまい、多大な負債を抱える原因にさえもなります。

博士:
音楽界では一発屋というのがありますが、それでは駄目なのですね。

先生:
その通り! 100人の一見さんよりも10人の常連さんです。リピーターはつまりロイヤリティが高いのです。ブランド・スウィッチングという言葉がありますが、他のブランドに変えにくい状況を作ることが継続的成功の秘訣です。

博士:
どうしたらブランド・スウィッチングは防げるのですか?

先生:
先ずは、こだわりを持つことです。それはブランド自体がこだわりを持ち、消費者のこだわりとマッチさせることです。先ほど、認知のところで述べた差別化がちゃんと出来ていないと駄目です。時々、それを消費者に媚びると考える人がいますが、それは違います。多くの場合、消費者はただ満足したいのではなく、サプライズを求めているのです。これはとても微妙なバランスです。一度、ブレイクしたブランドはそれによって一つの期待というのを背負います。それが重なると、伝統ともなるわけです。しかし、同時にブランド自体が陳腐化してしまう原因にもなります。特に動きの激しいカテゴリーでは。Perfumeがいる業界というのは正にその頂点にいると言えましょう。

伝統と革新

博士:
じゃ、どうしたらいいのですか?

先生:
伝統と革新を両立させるのです。Perfumeが、本質的にPerfumeらしくあるための普遍的な部分というのはキープしないといけません。例えば、Perfumeのエクィティがテクノポップであるならば、テクノポップという部分はあくまでもはずさない(もちろん、それ以外の選択肢もあります)。しかし、Perfumeが売れたことで、Perfumeのフォロワーは当然出てきます。それはそれで上手く回れば、相乗効果もあるんですけどね。でも、下手をするとカテゴリー自体が陳腐化してなんだか終わったなみたいな感じになる危惧もあります。

博士:
フォロアーの登場は有名店の名前だけ模したカップめんの様に一つの“モデル”としてわかりやすいスタイルが確立してきたと言えるわけですね。 そこでは“驚き”自体もわかりやすい形でパッケージされ、驚きの本質が従来の常識からはみ出す事であった事を忘れてしまいがちになりますね。

先生:
だから、媚びるのではなく、驚かせる。いい意味で裏切る。それが革新です。しかし、あくまでもエクイティの中心にした革新です。もちろん、お遊びで意外なことをやってしまうといのはアリなんですけどね。この辺はセンスの問題です。期待と裏切りのバランスという意味で、プロデューサーの中田ヤスタカ氏の嗅覚はとても鋭いのではないかと考えます。

博士:
現在確認できる数組のフォロアー達はPerfumeの“テクノ”な部分をよく研究してきていますが、今一斬新さに欠けます。あるいは下手するとトランス系に逆戻りししている傾向も見えます。 『BCL』を初めて聴いた時、私自身も“ちょっと雰囲気変えてきたな”と思ってしまったのですが、それはPerfumeがテクノだけではなく、本来“渋谷系”でも有った・・という当たり前な事を失念しかけていた点にあります。

源流を理解した上で再認識すると、メジャーデビュー以降の揺らぎ無い一貫したコンセプトを依然感じます。フォロアーとの差はその部分だと思います。Perfumeは見ても中田ヤスタカを見ていない。 その流れ、方向自体がすでに凡人の理解を超えた“驚き”なのであり、実はなんら作為的でも無いように感じます。

先生:
ブランドたるもの売ろう売ろうと必死になるとかえって逆効果です。所謂、企業の匂いがぷんぷんする必死さです。これは聴き手離れを起こす原因になりかねません。Perfumeは苦節8年と言われながらも、必死さがないのですよね。こだわりをもちつつ、必死にならずにやっていく。これが提言です。
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