マドンナとスチュアートとの関係

11月16日に発売されたばかりのマドンナのニュー・アルバム『Confessions On A Dance Floor』(2005年)はもう聞かれたでしょうか? 先行シングル『Hung Up』でのABBAの「Gimme Gimme Gimme」のサンプリングが巧妙に使われた(いや、ほとんどマッシュアップですね)エレクトロ・ディスコはお見事です。The KLFにはサンプリング許可を与えなかったABBAもマドンナは別格なんでしょう。まぁ、The KLFは悪質ですから(笑)。

3曲目の「Sorry」は、t.A.T.u.と微妙にシンクロナイズするごめんなさいソング。こちらは日本語だけでなく多国語ですがね。ルーツはジョン・レノンの「Aisuimasen (I'm Sorry)」。中近東的アレンジもあったりしますが、アルバム全体としても前作がテーマ的にも少し重かったのでかなりはじけるダンスビートでマドンナ姐さん、老けません。

amazon.co.jpにあるCDは、ジャケ写からリンクできます。(amazon.co.jpにない場合、海外のamazonや他の通販サイトへ)
Confessions On A Dance Floor
01. Hung Up*
02. Get Together
03. Sorry*
04. Future Lovers
05. I Love New York*
06. Let It Will Be*
07. Forbidden Love*
08. Jump*
09. How High
10. Isaac*
11. Push*
12. Like It Or Not


このアルバムで共同プロデューサーにクレジットされ、12曲中8曲を共作(*)しているのが、幾つかの名義を使い分ける要注意人物、スチュアート・プライス(Stuart Price)。マドンナのプロデューサー起用は、元Taxi Girlのミルウェイズ(Mirwais)に続き、決して大物狙いではないが、目の付け所の鋭さを感じさせます。今回、ミルウェイズも参加していますが、アルバムのカラーを作ったのは、スチュアートの可能性が高いと見ます。

American Life
前作『American Life』(2003年)でスチュアートは「X-Static Process」を共作していますが、これは意外にアコースティックな語りかけるような曲。スチュアートとマドンナの関係は、2001年からのマドンナのツアーでのミュージカル・ディレクターとしての仕事が始まりのようです。

Les Rythmes Digitalesとしてデビュー

スチュアートのメジャーデビューは、Les Rythmes Digitales(何故か、彼はrhythmeから最初の「h」を抜いて綴る)というワンマン・ユニットによる『Liberation』(1996年)。
Liberation
01. Scimitar
02. Oberonne
03. Carlos
04. American Metal
05. La Solution?
06. Vive Le Velo
07. Jida
08. Kontakte


個人名はスチュアート・プライスではなく、ジャック・ル・コント(Jacques Lu Cont)という似非フランス人のような名前。だから、最初はフランス人(本当は旅行中イギリスのリーディング出身の両親がフランスで生んだのです)だと思いましたよ、本当に! ちなみにLu Contは女性器をもじった表現ともとれるらしい(あくまでも憶測に過ぎないのだが・・・)。現在、まだ27歳との記事(2005年時点)を見つけたのですが、デビューは18歳でまだ学生だったようです。ただ、彼はでっち上げが得意なので、どこまで疑心暗鬼状態になりますが。

エレクトロクラッシュ先駆け

デビュー時は、エイフィックス・ツイン(Aphex Twin)的なブレイクビーツと呼べるものでしたが、1999年のセカンドの『Darkdancer』で大きく化けます。所謂、現在のエレクトロクラッシュ(この時点ではなかった名称)やニューウェイヴ・リヴァイヴァルの先駆けと呼べる作風です。

Darkdancer(2枚組限定版がお勧め)
01. Dreamin'
02. Music Makes You Lose Control
03. Soft Machine
04. Hypnotise
05. (Hey You) What's That Sound
06. Take A Little Time
07. From: Disco To: Disco
08. Brothers
09. MDC Vendredi
10. Jacques Your Body (Make Me Sweat)
11. About Funk
12. Sometimes
13. Damaged People


マドンナと並ぶ、スチュアートにとってもアイドルがニック・カーシャウ(Nik Kershaw)。ニックは80年代に「Wouldn't It Be Good」などのヒットを飛ばした、ハワード・ジョーンズ(Howard Jones)と並ぶ、エレポップ系ソロシンガーですが、「Sometimes」でニックがヴォーカリストとしてフィーチャリングされています。これはスチュアートがニックにデモテープを送り実現した、スチュアートにとっては夢のコラボレーションなのです。

80年リヴァイヴァルの金字塔

Les Rythmes Digitalesはエレクトロポップ系でも比較的ディスコ寄り曲が多いと言えますが、彼のもう一つの活動がZoot Woman。実際、1995年に自主制作リリースしているので、こちらが先のようです。こちらはさらにポップ、さらに80年代リヴァイヴァルな作風です。スチュアートにアダムとジョン・ブレイク兄弟が加わった男三人でも、Zoot Woman。Taxi Girlみたいです。

スチュアート・プライスの年齢を考えると、『Darkdancer』の出来には舌を巻きましたが、このZoot Womanのデビューアルバム『Living In A Magazine』(2001年)の出来にも完全に唸らされました。残念ながら、顕著なチャートでの成功は収められなかったのですが、80年代リヴァイヴァルの金字塔と呼びたくなる内容です。New Order的泣きメロ、Hall & Oates的なホワイトソウル、Pet Shop Boy的分かり易さで凝縮された捨て曲なしのポップの結晶です。よりニューウェイヴに味付けしたクラフトワークの「The Model」のカヴァーも秀逸です。一押しの「Jessie」は、エレクトロなドゥービー・ブラザーズみたいでかっこいい。

Living In A Magazine
01. It's Automatic
02. Living In A Magazine
03. Information First
04. You And I
05. Nobody Knows (Part One)
06. Nobody Knows (Part Two)
07. The Model
08. Jessie
09. Chicago Detroit L.A.
10. Losing Sight
11. Holiday Home
(日本盤のみのボーナス・トラック)
12. Infromation First (version 2.001)
13. Holiday Home (uplugged)


続く、セカンドアルバム『Zoot Woman』(2003年)は、日本盤がリリース告知されたのに取りやめになり、ちょっとがっくりしたのを覚えています。ただ、最近CCCDだと日本盤を避ける場合も多いので、微妙ですが。話がそれました・・・ ファーストよりは1度だけ聴くだけでは、地味な感じがしますが、それぞれが完成度の高いポップソングとして出来上がっています。聴きこんでいくにしたがい、しっくりと来ます。

Zoot Woman
01. Grey Day
02. Taken It All
03. Gem
04. Hope in the Mirror
05. Snow White
06. Woman Wonder
07. Calmer
08. Useless Anyway
09. Maybe Say
10. Half Full of Happiness


変名大好き!

ここで整理しましょう。スチュアート・プライス(本名)君には名前(または個人ユニット名)がいっぱいあり、Les Rythmes Digitales、Jacques Lu Cont、Man With Guitar、Paper Faces、Pour Homme、Thin White Dukeなどを使い分けています。

Pour Hommeとしてはフィルターハウス調のシングル『Born This Way 』(1999年)をリリース。

Mr. Brightside(リンクはジャケ写とは違うヴァージョン)
そして、見逃せないのがJacques Lu Cont、Thin White Duke、Zoot Woman、Paper Facesなどの名義を使い分けるリミキサーとしての才能。彼のリミックスの中で最高の出来と言えるのが、ラスベガスからやってきたニューウェイヴ・リヴィヴァル・バンド、Killersのヒット曲(アメリカのiTunesでも上位に定着していました)『Mr. Brightside』(2005年)のリミックス(Jacques Lu Cont's Thin White Duke Mix)です。原曲が90点とすれば、リミックスで満点と言いたい鳥肌が立ってしまう出来です。

Four To The Floor (12" Single)
イギリスのニューウェイヴ・リヴァイヴァルのStarsailorの12インチ・シングル『Four To The Floor (Thin White Duke Mix)』は、フランスで何故かシングル・チャート一位になったそうです。

Jetstream
スチュアートは、ルーツと言えるNew Orderの最新作『Waiting For The Sirens' Call』(2005年)では「Jetstream」と「Guilt Is Useless Emotion」の2曲で共同プロデューサーとして参加していますが、Scissor Sistersのアナ・マントロニック嬢とコラボした『Jetstream』(2005年)のシングルにも「Jacques Lu Cont Remix」を収録。

他にも、エレクトロ~リヴァイヴァル系では、Depeche Mode、Goldfrapp、Felix Da Housecat、Electric Six、Scissor Sisters、The Faint、Royksopp、Ralph Myerz & The Jack Herren Band、セレブ系(笑)ではブリちゃん(Britney Spears)、グウェン・ステファニー(Gwen Stefani)/No Doubtなどのリミキサーをする売れっ子ぶりです。そうそう、忘れていけないのは、「フェニックス~折衷主義の魔法」で紹介したZoot WomanとしてのPhoenixの「Too Young」のリミックス仕事です。

Wikipediaには更に詳しいリミックス作品リストがありますので参照してください。

セクシー・ジャケやっていたジュリエット

Cherry Bomb
プロデューサー仕事としてスチュアートが全面的にバックアップしデビューしたのが、アメリカ、フィラデルフィア出身の本名、Juliet Robertsonこと、ジュリエットです。ショートカットが似合うモデルばりのルックスのお姉さん(25才位)ですが、2000年ごろから音楽活動を始めており、1plus 1やMNQNNというバンドでも活動歴があるようです。調べていると、1 plus 1の『Cherry Bomb』というセクシー・ジャケを発見! 

ジュリエットは曲も書けるようで、かなりスチュアートの指導があったと思われますが、シングル「Avalon」や「Ride The Pain」などには全体としてダンスフロアにも対応するフックもあり、憂いがある良質なエレクトロポップに仕上がっています。

Random Order
01. Au
02. Avalon
03. Nu Taboo
04. Ride The Pain
05. Never Land
06. Puppet
07. On The Dance Floor
08. Waiting
09. New Shoes
10. Would You Mind
11. Untied
12. Pot Of Gold


音楽的ルーツを探る

Jacques Lu Contとしてリリースされているアルバムが二つあります。『Blueprint』(2000年)は、彼のルーツ曲から最近のトラックを集めた2枚組CD。New OrderやHuman Leagueといったなるほどと思わせるものからKing CrimsonやThe Beach Boysといった意外性のあるものまで。Placeboは彼(Les Rythmes Digitales=LRD名義)のリミックスです。

Blueprint
CD 1:
01. lb: Ashes to Ashes
02. Life Without Buildings: Is Is and the Iris
03. Three Maddkatt Courtship III: My Life Musik
04. Cylob: Rewind! (DMX Krew Remix)
05. 808 State: Techno Bell
06. Zoot Woman: It's Automatic
07. Ladytron: Playgirl
08. Les Rythmes Digitales: Soft Machine
09. The Pixies: Monkey Gone to Heaven
10. Placebo: Pure Morning (LRD Mix)
11. New Order: 5-8-6
12. Fashion: Something in Your Picture (Alternate Playback)

CD 2:
01. Human League: Love Action (I Believe in Love)
02. Chaka Khan: I Feel for You
03. The Strangers: Tank
04. Mahavishnu Orchestra: Miles Beyond
05. Salsoul Orchestra: Nice and Nasty
06. The Fatpack Band: I Found Lovin'
07. Mantronix: Got to Have Your Love
08. Grace Jones: La Vie en Rose
09. Jean Michel Jarre: Souvenir of China
10. King Crimson: I Talk to the World
11. Brian Eno: By This River
12. The Beach Boys: In My Room


「Fabriclive」は ロンドンの巨大クラブ「Fabric」で毎週土曜日に行われているDJイヴェントをそのままライヴで録音したもの。彼の新旧取り混ぜたDJプレイは『Fabliclive.09』(2003年)で堪能できます。Mirwais(ストーンズのカヴァー)やThemrocのトラックは、スチュアートのリミックスです。Steve Miller BandとかDevoに彼らしさを感じます。

Fabriclive.09
01. Mirwais feat Craig Wedren: Miss You (Thin White Duke Remix)
02. Risan: Eastern Palace
03. Tom Tom Club: Wordy Rappinghood
04. Chicken Lips: Steppin
05. Steve Miller Band: Abracadabra
06. Crazy Penis: Give It Up (Laid Vocal Mix)
07. Hypno-Love: Eurolove
08. Themroc: Gold Is Your Metal (Paper Faces Remix)
09. Supreme Bachelors: S&M
10. Royksopp: Remind Me (Ernest Saint Laurent's Moonfish Mix)
11. Strauss: Also Sprach Zarathustra
12. Eurythmics: Sweet Dreams (Are Made Of This)
13. Zoot Woman: It's Automatic (Cosmos Acid Dub)
14. Gusgus: David (Medicine 8 Remix)
15. Housemaster Boyz: House Nation
16. Devo: Snowball
17. Junior Sanchez: I Wanna Rock!
18. The Pixies: Gouge Away
19. Brian Eno: Here Come The Warm Jets


スチュアート・プライスはまた、シトロエン、オリンパスなどのTV宣伝関連の仕事も積極的にこなし、多才ぶりを発揮しています。今後、プロデューサーとして一流に域になってきた彼自身のユニットとしての活動にも期待したいです。
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