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9月末から10月初めにかけて、NYCに行く機会がありました。以前からエレクトロクラッシュについてアメリカでDJをするAdam J Shortさんからいろいろ聞いていて気になっていました。そこでエレクトロクラッシュに関する情報が日本においてまだ少ないということもあり、いろいろと調査研究してみました。

写真は、アメリカのクラブ・カルチャー系雑誌「BPM CULTURE」です。2002年8・9月号は、「エレクトロクラッシュ」大特集号です。表紙に写っているのは、エレクトロクラッシュ系おねえちゃん3人組、W.I.T.(Whatever It Takes)のメンバーです。彼女たちは、このシーンの仕掛け人でもあるNYCのDJ、ラリー・ティーにザ・カーズの『Just What I Need』のカヴァーを聴かせて、ラリー・ティーのレーベル、Mogul Electroと契約し、現在彼がプロデュースするエレクトロクラッシュ系ツアーにも参加しています。

80年代ニューウェイヴに強く影響を受けたこの新しいジャンルはどのように出来上がったのでしょう? 90年代末からGigolo系や一部のイギリスのバンドにその兆候はあり、一部では「エレクトロ・リヴァイヴァル」なんかと呼ばれていました。80年代ニューウェイヴ・エレポップの影響の下に活動していた90年代以降のバンドは、欧米ではシンセポップ・ダークウェイヴに括られていました。例外はありますが、多くのバンド、特にアメリカのバンドは悪い意味でのデペッシュ・モードの呪縛に陥ってしまい、精彩に欠けていました。

「BPM CULTURE」のインタヴュー記事によると、この「エレクトロクラッシュ」の命名者は、前述のラリー・ティーとのことです。「クラッシュ」とは「カー・クラッシュ」とかで使われる「衝突」という意味ですね。タクシーに乗っていて思いついたそうです。Fisherspoonerのシンディー・グリーンともそれ以前に、「エレクトロウェイヴ」「シンセコア」とかいう名前を候補として出し合っていたようです。他、「NUエレクトロ」「ノイエレクトロ」「テクノディスコ」「エレクトロディスコ(和製英語的にはエレディスコ)」「ロボットディスコ(和製英語的にはロボディスコ)」などという名称も見かけます。

日本においてもPolysics、Motocompo、Spoozysなどを生み出した「ネオ・ニューウェイヴ」または「ニューウェイヴ of ニューウェイヴ」が90年代末にムーヴメントとしてありました。エレクトロクラッシュ、なんだか如何にも売れ線を狙った名前ですが、結果としていいバンドが出てくると、それは評価に値すると思います。全てのムーヴメントに陳腐化は付き物ですが。
ラリー・ティーのレーベル、Mogul Electroからは2001年に16曲入り『electroclash New York City Compilation』がリリースされています。

収録アーティストは:Fisherspooner / Momoryboy / A.R.E. Weapons / Morplay / Soviet / Badd Inc. & Tobell von Cartier / Khan / Bedroom Productions / Linda Lamb / Sneaky Peter & Crazy / Timmy / Robbie D. / Key Kommand / Tekgul / Mono Trona / Stalker 7 / Centuries / Rubber Handです。

同時に、ワールド・トレード・センターが破壊された翌月の10月に「ELECTROCLASH 2001」というツアーも行われています。現在、「ELECTROCLASH 2002」が行われている最中であり、このツアーやMogul Electroについてはエレクトロクラッシュの発信基地とも言えるELECTROCLASH.comにて報告されています。

NYCのエレクトロクラッシュの中心的存在は、ずばりFisherspoonerです。Casey Spooner(24歳)とWarren Fischer(42歳)が中心に多数の準メンバー(サイトにはコントリビューターとしてクレジット)がいるトータル・パフォーマンス集団だと言えます。

ヨーロッパでも人気となったシングル『Emerge』(2001年)は凄く出来たエレクトロクラッシュの代表曲ですが、ジャケ(2種類あります)を見ても分かるように、ジグ・ジグ・スパトニックの再来のような奴(Spooner)が出てきます。

エレクトロクラッシュのパイオニア的レーベル、GigoloそしてMinistry Of Soundからアルバム『Fisherspooner(#1)』(2001年)をリリース。硬質の洗練されたゲーリー・ニューマン的シンセ・サウンドを作っているのはFischerです。彼は現在42才で、ニューウェイヴ世代バリバリの現役だったはずです。Gigoloについては、また別途記事を書く予定ですが、現在のNYCのシーンはFischerspooner無しでは在りえなかったと思います。『electroclash New York City Compilation』にも収録の『15th』は、コリン・ニューマンが作ったWireの曲のカヴァーです。アルバムには、『Emerge』のヴィデオも収録されています。

そして、2002年9月25日にはMogul Electroからライセンスする形でmusic mine(ロマンポルシェ。も所属)から『Badd Inc. Luxury Excess Extravagance~Electroclash Compilation~』がリリースされました! 12インチ・シングルを中心に15曲が収録されており、前述のさらに粒ぞろいのエレクトロディスコ・ロボット・チューンが楽しめます。一曲目は、女性の悲鳴からはじまって、ちょっとびびりました。なお、ライナーの解説はおなじみ佐久間英夫。

収録アーティストは:Larry Tee / Avenue D / W.I.T. / Hungry Wives / Badd Inc. featuring Tobell von Cartier / Morplay / Prance / My Robot Friend / Jonny McGovern / Badd Inc. featuring Sophia Lamar / Spaulding Rockwell / Key Kommand / Dirty Sanchez / Gravy Train / Dr. Wondt & Perfection w/ Cashfloです。

前述のW.I.T.の『Ooh, I Like It』はTom Tom Club的脱力系エレクトロ・ディスコ。Avenue Dの『Do I Look Like A Slut?』は、『Blue Monday』と『That's The Way』を掛け合わせたようなヒップホップ的エレクトロ・ナンバーで笑えます。Morplayは、エレクトロクラッシュに捧げる『Electroclash Anthem』なんてやっています。
前述のコンピにも収録されているドイツのMy Robot Friendですが、日記にも紹介した『Hot Action!』(2001年)という自主制作CD-Rを偶然NYCのインディーズ・ショップで発見。よっぽどのロボット・ヲタクのようです。『We 're the Pet Shop Boys』というPet Shop Boysをリスペクトしたのかおちょくったのか分からない曲をやっています。

Fischerspooner以外のアメリカのバンドを二つ紹介します。A.R.E. Weaponsは、Fischerspoonerと同じくNYC出身のバンドで、ブレイン、マット、トムのちょっとむさくるしい系3人組。はっきり言って、ルックス的には最悪な奴らです。

『electroclash New York City Compilation』にも1曲収録されているんで、エレクトロクラッシュ系と呼べると思いますが、ファッション的には×。同じNYC出身のエレクトロ・パンク、スーサイド直系と言えます。ディスコ度は低くて、踊ると痙攣しそうです。パルプのジャヴィス・コッカーの推薦でRough Tradeと契約し、ジャケ写の日本特別編集アルバム『Great Time』(2002年)は何故かトイズファクトリーからリリースされています。何だか、ブルー・オイスター・カルトのジャケのよう。他にもRough Tradeからアルバム『Street Gang』(2001年)がリリースされています。

Nicola KuperusとAdam Le Miller(夫婦)からなるADULT.(日本語では「アダルト。」なんちゃって)の現時点での唯一のアルバム『resuscitation』(2001年)です。自らが運営するデトロイトのレーベル、Erstaz Audioからリリースされています。太いシンセ音が好きな人にはたまらない、デトロイト・テクノを経由したブリティッシュなエレポップ的サウンド。他のレーベル・アーティストは、Le Car、Low Fish、Megasなどで、Le CarにはADULT.のメンバーもいました。
さて、エレクトロクラッシュの特徴とは何なのでしょう?

◆テクノポップ、エレポップ、ニューロマ、イタロディスコなどの再構築的サウンド。代表的なお手本は、クラフトワーク、ヒューマン・リーグ、ヴィサージュ、ソフトセル、ニュー・オーダー、ゲーリー・ニューマン、ザ・ノーマル、B-52 's、ディーヴォ、ブロンディー、ジョルジオ・モロダーなど。ニュー・オーダーの『Blue Monday』的ビートは、必須ネタ。ポップというよりチープなアナログ・シンセやサンプラーを使用したディスコ仕様が定番。今後、もっとひねったネタに移行する可能性もあり。

◆性的に過激な表現を多く含んだかなり単純な歌詞。そうでなければ、機械崇拝なんかする近未来的な内容。女性ヴォーカルの比率が圧倒的に多く、Miss KittinやPeachesのようにあばずれっぽく歌わないといけない。時々あえいだりする。男性の場合、かなり倒錯気味な人も多い。そして、当然ヴォコーダーを多用。

◆ファッションは音楽と同等、またはそれ以上に重要。あくまでも、トータルなパフォーマンスの一部として音楽があり、音楽のみで成立するものではない。明らかにファッションもニューロマ的80年代要素をさりげなく取り入れる。でも、素直でないのでエレクトロクラッシュをやっていても、「そんなブームの一部とされるのは心外だ」と言ってみたりする。

ニューウェイヴ時代と同じく、エレクトロクラッシュもNYC、モントリオール、ベルリンを拠点に世界同時進行で進んでいるようです。久々にアメリカのシーンに対しての興味が沸いてくる状況となったようです。

現在、エレクトロクラッシュは増殖・分裂中で、まだまだ書くべきアーティストたちがいます。当然、続編も予定しています。AAJテクノポップは、勝手にエレクトロクラッシュを応援します。