2002年7月18日、戸川京子さんは37歳で生涯を閉じられました。どうして、彼女がそのような選択に至ったのかについて理解するすべはありませんが、彼女の残してくれた作品は永遠に残り続けます。近年どちらかと言えば、女優・タレントのイメージが強かった人ですが、シンガーとしての戸川京子さんについて、その記録を辿りたいと思います。(以下敬称略)

戸川京子のソロ・シンガーとしてのデビューは、1984年のシングル『悲しみはリアルすぎて…』(残念ながらジャケを所有していません)です。この曲、皮肉にも今回の悲しい出来事を象徴するタイトルとなってしまいました。お姉さんの戸川純は、既にゲルニカを経て、『裏玉姫』に代表されるニューウェイヴ歌姫として確固たるパブリック・イメージが出来上がっていました。彼女のデビュー曲を手掛けた近田春夫は、お姉さんの路線をあえて踏襲せず、「ネオ歌謡的アイドルとしての戸川京子」を演出しました。

近田春夫は、テクノポップ・ブーム最中の1980年に『星くず兄弟の伝説』というソロ・アルバムをリリースしています。このアルバムは、現在あーる盤として再発されています。ブライアン・デ・パルマ監督『ファントム・オブ・パラダイス』に触発された架空のサウンドトラック・アルバム。特筆すべきは、同年にアルバム『MISPRINT』でデビューをしたFILMSの赤城忠治が4曲を作曲、そしてグラム・テイストたっぷりのギターで参加していることです。

その架空のサウンドトラックに基づいて製作されたのが、1985年に公開の手塚真(ご存知でしょうが、お父さんは手塚治虫)の監督出世作でもある映画『星くず兄弟の伝説』です。近田春夫も原案・製作総指揮・音楽監督として参加。近田春夫は、ちょっとだけ浮浪者風のミュージシャンとしても出演しています(この映画はその手のお遊びが多いです)。大きなテーマは、「ロックと芸能界の不条理な関係」。多分、名作と位置付けられていない映画でしょうが、愛すべき映画です。
「シンゴ」に扮する久保田しんご(元8 1/2)と「カン」に扮する高木一裕(元東京ブラボー)がスターになるために造られたグループ「スターダスト・ブラザーズ」。そのファンクラブ会長となるスター志望のグルーピィーな少女「マリモ」を演じたのが、戸川京子。でも、スターダスト・ブラザーズが空けたステージを埋めるために『マリモの気持ち』を歌ったマリモちゃんは、スターダスト・ブラザーズに代わって、一躍スターになる。当時の眉濃い目メークも懐かしいです。

近田春夫が作詞・作曲・編曲を手掛けたこの『マリモの気持ち』は、近田春夫のソロには未収録ですが、サントラ『星くず兄弟の伝説』(1985年)には収録されています。『恋はあせらず』あたりを下敷きにした60'Sガールポップ風のこの曲は、コケティッシュなマリモちゃんにぴったりです。残念ながら、このサントラはCD化されておらず、またオリジナルのアナログ盤に未収録の映画挿入歌もあるので、全曲収録盤としてCD化を切に望みます。

翌年の1986年には、戸川京子として6曲入りミニ・アルバム『B.G.』がリリースされます。これも未CD化だと思います。タイトルとジャケから推測するに、BUSINESS GIRLがコンセプトみたいです。そう言えば、彼女が女優として演じる役(例えば、眼鏡をかけた秘書)のイメージも近いものがありますね。

全ての曲は、泉麻人・作詞、伊藤銀次・作編曲ですが、シングルにもなったB面1曲目『責任とってよ』は、作風としては意外な感じもする、先取り感覚もあるラップ入りのエレクトロ(ファンク)歌謡に仕上がっています。バブルガム・ブラザーズと戸川純もヴォーカルで参加しています。B面ラストの『ワンルームの鍵』は、1986年に大ヒットしたバングルズの『マニック・マンデー』を彷彿させる確信犯的胸キュン・チューンとして評価できます。
その後、戸川京子は2枚のフル・アルバムをリリースしていますが、僕は所有していません。彼女が亡くなった夜、ケロッグ博士からメールがありました。そのメールには、この2枚のアルバムのジャケ写を添付して「今夜はコレを朝まで聞きましょう。」とのメッセージが。そこで、ケロッグ博士に語ってもらいました。

NHKスペシャル、たしか映像の世紀か何かのテーマが何かに似てたなぁ~ってずっと思っていたのですが、久々に聞き返して『涙』の一曲目『LISA』のイントロだと気がついた。当時、戸川純フリークだったので興味本位で買ってしまったと言うのが正直な所の動機。

2枚のアルバム、『涙』(1988年)、『O'can』(1989年)とも一通り流行をパッケージしたって感じの盛りだくさんな印象です。『O'can』の方は、完成度は高いんだけどかえって凡庸な感じ。

やっぱり彼女を一言で言うなら、『動物園の鰐』に尽きるでしょう。だいたいそれしか聴いてなかったし...。それが入ってる分 『涙』 はお勧め。これがいわゆる大貫妙子の『カイエ』あたりで教授がやってそうな(未だに私がやってる)典型的な“あの”サウンド。製作がゴリゴリのDX7サウンド全盛の1988年頃だから、今思うとちょっと時代遅れだったのか...それともスタイリッシュな彼女の印象とテクノ(エレポップ)を融合させた新しいイメージを模索していたのか...。

以上、ケロッグ博士のコメントでした。
前述の2枚のアルバムにも深く絡んでいたピチカート・ファイヴの小西康陽(『動物園の鰐』も彼の作詞・作曲)ですが、ピチカート・ファイヴのアルバム『月面軟着陸』(1990年)では、戸川京子のヴォーカルをフィーチャーした『ちょっと出ようよ』も収録されています。

60'S的B級ビート・サウンドを追求したMINT SOUNDのクリスマス・オムニバス『MINT SOUND'S CHRISTMAS ALBUM』では、元東京ブラボーのブラボー小松とロケンロールな『White Christmas』を聴かせてくれます。

90年代の戸川京子はシンガーとしての活動があまり目立たないですが、『weekend for ladies』(1994年)という高浪敬太郎がプロデュースした4人の女性シンガーをフィーチャーしたなごみカフェ系企画アルバムで、戸川京子は『キッシング・フィッシュ』(加藤和彦が作曲した佐藤奈々子ナンバーのカヴァー)と『I Never Know』の2曲を歌っています。

そして、もう一つ。サリー久保田がプロデュースした『GIRLS AT OUR BEST IN WINTER』(1995年)では、戸川京子は、YOU、かの香織などとともにヴォーカリストとして参加しています。『MURASAKI』『MIZUIRO』といった色がタイトルの曲を歌っています。改めて聴いてみると、テクノ度が高い。ちなみにかの香織は、クラフトワークの『電卓』のカヴァーをしています。

戸川京子さん、いい唄を残してくれてありがとう。あなたの歌声を忘れません。ご冥福をお祈りします。
戸川純さんの私設ファンサイト、ヤプーズマニアのオーナーのGONKさんから以下の追加情報を頂きました。

さて、来たる2002年9月27日、近田春夫製作総指揮、手塚眞監督作品、戸川純さんの妹であり先日急逝された戸川京子さんがヒロインとして出演されている、「星くず兄弟の伝説」がDVDコレクターズ・エディションとして発売されます。

DVD発売に関する情報・購入は:
HMV(映像ショットもあり)
amazon.co.jp

なお、戸川京子さんはドラマ愛の詩『どっちがどっち』(連続12回)にも助演女優として出演されています。

放送予定:
平成14年10月5日(土)~12月21日(土)
NHK教育テレビ 毎週土曜日 午後6:00~6:30

番組情報は、NHKドラマ愛の詩 どっちがどっちをご参照下さいますようお願い申し上げます。
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