今年も怪談狂言の季節とあいなりました。夏の芝居といえば怪談。歌舞伎座を初め、怪談狂言を上演することが多いのが夏芝居の特徴です。中でも上演回数の多いものといえば『東海道四谷怪談』と『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)』(『かさね』)でしょう。ちなみに今年の8月の歌舞伎座は『かさね』です。

この二つの狂言はいずれも江戸・化政時代の作品で作者は四世鶴屋南北(よんせいつるやなんぼく)です。

この時代、将軍は徳川家斉で、表面上は大江戸は太平の世。実は幕藩体制がその奥深く崩壊の兆しを見せ始めた頃です。歌舞伎の客層である市井の庶民たちも、世の中の憂さが吹き飛ぶような刺激的な、刹那的なエンターテインメントを要求していた時代といえます。その崩壊期をチャンスと登場したのが四世鶴屋南北でした。

鶴屋南北とその作品については非常にいろいろな視点から研究されていますが、その特徴の一つが「見世物」的な芝居を得意としたことです。江戸の盛り場に設けられた見世物小屋やそこに棲息する見世物達、からくりのエッセンスを、舞台にうまく取り入れました。その一つが『四谷怪談』の仕掛けです。

ご存知、夫・伊右衛門に裏切られ、毒をのまされたお岩は、恨みをエネルギーに替えんとばかりに髪梳きを始めます。毒で形相の変わったお岩は、もうそれだけで十分コワイのに、次第に血まみれになって抜けていく髪の毛をつかんで悶え苦しみます。

この部分も見世物的、女の身だしなみの最中を覗き見しているようでもありますが、さらにからくりを使った舞台装置がこの芝居の最大の見所となります。「隠亡堀(おんぼうぼり)の場」は、戸板返しや提灯抜けの仕掛けで有名。これは東京・両国の「江戸東京博物館」でからくりの模型が展示されています。

あまりにいろいろなところから、これでもか、とばかりに岩の幽霊が出てくるので、もうコワイやらオカシイやら。渋谷コクーン歌舞伎でご覧になった方も多いのでは。