映画『王の男』を彩る男たちの中でも光っているのがカム・ウソン。貧しくも自由を求めた芸人、チャンセンを力強くそして時に繊細に演じ、作品全体を引っ張っていきます。2006年の大鐘賞映画祭では、チャンセン役で主演男優賞にも輝きました。ところが、企画の立ち上げ時にはイロイロあったとか……。キャスティング秘話や作品に対する熱い想いを語ってくれた、単独インタビューをお届けします!

クランクイン1ヶ月前に決まったチャンセン役

映画ではややコワモテだったが、実際はとてもソフトなカム・ウソン
ガイド:
映画『王の男』への出演を決めた経緯を教えてください。

カム・ウソン:
もともとは別の俳優がチャンセン役にキャスティングされていたのですが、その人が急に軍隊に行くことになってしまいました。何人かの有名な俳優が出演の打診を受けたのですが、皆「興行的に成功するのは難しいのではないか」「演技が難しい」という理由で断ったと聞いています。

私の元に話が来たのは撮影がスタートする予定日の一ヶ月前でした。他の人に打診されたシナリオを、私は演じることはできません。私を必要とする理由がはっきりしないと映画にとっても意味がないと思うからです。そのため監督に説明を求めました。当時製作会社は基盤が脆弱で、もし私が出演を断ったら企画がつぶれてしまうという状態でした。本当に私の出演を望んでキャスティングの提案をしているのであれば、私は受ける準備ができていると伝えました。実は台本を読んですごく気に入っていたのですが、プライドがあるため、気に入ったとは言いませんでした。

また、ドラマを長くやっていたので、自分は歴史劇には向いていないのではないかと思っていたのです。最初は難しいのではないかと思っていました。でも、製作会社の真摯な気持ちを感じたため、決心するまでにそれほど多くの時間はかかりませんでしたね。監督もとても良い方でしたし。結果的には良い仕事をすることができ、期待以上の成績を収めることができました。

ガイド:
イ・ジュンギ扮するコンギルと対照的な姿を演じるために、作品の中では役作りに特別に気を使った点も多かったのではないかと思います。

カム・ウソン:
私は自分の役割だけを考えて映画に参加したのではなく、作品全体のことを考えながら参加しました。映画『王の男』の原作である演劇ではヨンサングンとコンギルが主人公ですが、映画ではチャンセンとコンギルの役割がより重要に描かれています。そのため、頭の中でイメージを作るときには、いつもチャンセンとコンギルのことを同時に考えながらキャラクターに入り込んでいく訓練をしたのです。

次ページでは、『王の男』に賭けた思いについて語ります。

『王の男』は人生を賭けた作品

『王の男』は、韓国で観客動員数歴代2位を記録した
ガイド:
チャンセンを演じるために体重を増やしたそうですね。

カム・ウソン:
その通りです。かっこよくて痩せているキャラクターを目指したわけではありません。チャンセンの筋肉は働くことによってついた筋肉だったと想像しました。監督からは「綱渡りをする芸人は痩せている人が多いため、少し体重を落としてほしい」と言われましたが、チャンセンとコンギルの関係を考えるとむしろ肉をつけた方が合っているのではないかと提案しました。監督は私の意見を受け入れてくれました。

ガイド:
劇中にはカム・ウソンさんご自身が提案した部分が他にも多くあるのですか?

カム・ウソン:
演出者の意図に違わない範囲で多くの提案をしました。人生をかけてやってみたい、私の持っているすべてを出したい、そんな気持ちでした。少し足りないと思う部分を補うためにも監督にはいろいろな意見をぶつけました。その大部分を取り入れてくれましたね。編集の過程でも第一次編集が終わった時点で満足できなかった部分十箇所を修正するように指摘しました。俳優の力というよりも、より良い作品を作るために受け入れてくれたのだと思います。完成度を高めるために多くの力を投資をしました。

ガイド:
俳優が編集後も意見を提案するというのは珍しいことではないかと思いますが、カム・ウソンさんはすべての作品においてそのような姿勢を貫いているのでしょうか。

カム・ウソン:
そうですね。すべての作品で同じです。作品へのアプローチ、キャラクターを分析する方式が異なるだけで、役に立つと思えば様々な提案をします。実際、最初から完成度が100パーセントというシナリオに出会うのは難しいものです。何人かの視点で見ると不足しているところが見えてきます。そこをどう埋めるかが成功カギだと思います。私は作品を失敗させたくない。興行成績的に成功するかどうかはわかりませんが、作品として失敗はさせたくありません。

次ページでは、日本映画に憧れた学生時代について語ります。

黒澤明監督に憧れた大学時代

撮影現場でもカム・ウソンはイ・ジュンギにとって兄のような存在だった
ガイド:
コンギル役を演じたイ・ジュンギさんにも現場で指導をしたのですか?

カム・ウソン:
私が出ている場面でなくても、監督とイ・ジュンギが撮影する場面をずっと見ていました。そして気に入らないとダメだしをしましたね。より完璧なものを作ろうと干渉をたくさんしました(笑)。先輩だからといって干渉したのではなく、より良い作品を作るためにやったことです。イ・ジュンギは新人に近い状態だったため、それをカバーするためにアドバイスをしました。彼も私の話をよく聞いてくれましたね。

ガイド:
ソウル大学では美術を勉強していましたよね。東洋画を専攻していたのに、なぜ役者の道に進もうと思ったのですか?

カム・ウソン:
映画が大好きだったんです。絵を描いていないときはいつも映画館にいました。大学の友人の父親がタレントでした。俳優になりたいということを友人が知っていて、父親に話したのです。そしてタレントを養成するスクールを紹介してもらい、そのスクールで放送局の採用試験を受けるように勧められました。

ガイド:
学生の頃はどのような映画に影響を受けましたか?

カム・ウソン:
私だけではなく、私と同世代の人たちにとっては10年前、20年前には日本の映画やドラマが憧れの対象だったのです。当時日本の作品は韓国への輸入が禁止された状態でしたが、どうにか手に入れコピーして皆の間で回して見るのが流行していました。

映画『七人の侍』『愛しているといってくれ』などのドラマを見て、とてもうらやましく思っていました。今では韓国の作品が日本で広く受け入れられていますが、私が日本の作品に感動を受けたように、映画やドラマは国籍を超え交流するのが当たり前だと思っています。

ガイド:
今後は『王の男』の経験を生かしてどのような役を演じてみたいと思っていますか?

カム・ウソン:
『王の男』では、自分自身に対して持っている偏見、イメージを変える良い機会になったと思います。チャンセンはこんな人だと一般的に思われているイメージにとらわれないこと。どのようなキャラクターをつくるのか、というよりも、どのような状況でどのように人が変わっていくのかということに私は関心を持っています。どんな状況の下に生まれ、どのような人生を生きてきたのか。生まれ育った状況によって人がどのように変わっていくのかということに関心を持っているのです。

今後に関しても、「どんな役」を演じたいかということよりも、どんなシチュエーションかということに興味があります。シチュエーションが異なる作品であれば、自分自身も変化していくことができると思うからです。



カム・ウソンも語るように、『王の男』は当初「アイドルも出演せず、ラブストーリーでもない」ということから企画立ち上げの段階で予算が集まらず苦労を重ねたという経緯があります。ところが蓋を開けてみると、記録を塗り替えるほどの大ヒット。当初新人扱いだったイ・ジュンギが大ブレイクしたのは周知の通りです。製作の過程を淡々と語るカム・ウソンの言葉からは作品への愛情と自信を感じることができました。

『王の男』は新宿ガーデンシネマ、恵比寿ガーデンシネマ他 お正月全国拡大ロードショー中。年末年始は、豪華絢爛、そして波乱万丈の韓国の歴史大作に足を運んでみるのはいかがでしょうか。

カム・ウソンプロフィール

韓国で最も知的な俳優と称賛され、どんな役柄も演じてしまう幅のある才能の持ち主。これまでにも“最初に出逢った瞬間から激しい愛を交わす大学講師”“幽霊から部下を守るために苦悩する理性的で温かい心を持つリーダー”や“金のために驚くべき陰謀をたくらむ男”などを演じている。本作では、綱渡りやその他の様々な芸を身につけるために厳しいトレーニングを受け、初の歴史ドラマで宮廷芸人のリーダー役を演じ、大鐘賞主演男優賞を獲得する。

【主な映画出演作品】『情愛』(01)、『R-POINT』(04・未)、『スパイダー・フォレスト 懺悔』(04)、『大胆な家族』(05・未)

映画『王の男』公式ホームページ
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。