1991年12月から1997年11月まで放映されていた伝説的バラエティ番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』。現在ではその中から選りすぐりの作品をパッケージしたものを『THE VERY BEST OF ダウンタウンのごっつええ感じ』として第5弾までがDVDリリースされています。今回は、手始めにその「#1」を取り上げて、『ごっつ』の魅力を振り返りましょう。

バラエティ隆盛時代に生まれた『ごっつえぇ感じ』

「ごっつええ感じ」DVD
「THE VERY BEST OF ごっつええ感じ 1 」
名作コント・名物キャラを詰め込んだ傑作選
まずは時代背景の確認から。その昔、お笑い番組といえば、1969年から1985年まで16年間の長きにわたり放映されていた「8時だヨ!全員集合」。そして80年代を席巻したのが「オレたちひょうきん族」。その後、90年代に入り『ごっつええ感じ』がスタートしました。しかもこの時、裏番組では「天才たけしの元気が出るテレビ」が放映されており、バラエティ番組がとても活気に満ちた華の時代だったといえるでしょう。

色あせないコントの数々

さて、オープニングはエキセントリック少年ボウイのテーマ。

いきなりです。新鮮さを味わうため、あえて事前にコントのラインナップをみなかったこともあり、思わず「おぉ…」と声を上げてしまいました。別に「エキセントリック少年ボウイ」の本編があるわけでもなく、ただ「それらしいアニメのそれらしいテーマソング」のためだけに作られたこの作品は、あらためて観ると斬新な発想ですね。「意味のある無意味」とでもいいましょうか。当時を思い出して、だいぶグッときました。

そして畳み掛けるようにMR.BATERやキャシィ塚本といった名コント・名キャラクターが目白押し。気が付けば興奮目盛りはマックスボルテージです。時が経つのも忘れ、3枚組みのDVDを見終えました。味付けの濃い、かといってしつこくない料理を一気に平らげたような気分でしょうか。う~ん。この番組は、やはりすごい。で、何が凄いのか、私なりに分析してみました。

想像を上回り続ける「笑い」

例えば、皆さんがこれまで一番おもしろかったこと、お腹が痛くなるほど笑ったことを思い出してみてください。たいていの場合、身内や友達との出来事、特にハプニングめいたことではないでしょうか。「誰か特定のタレントの特定のネタ」という人は意外に少ないと思います。それは何故か。単純に考えて、「お笑いを見る」という行為は文字通りお笑いを見ます。したがって無意識的に「これからおもしろいことが始まるんだ。」と構えます。全く予期せぬハプニングとは笑いへの防御力が違いますよね。こういうスタンバイ状態の人を爆笑させることは非常に困難です。

しかし、『ごっつええ感じ』ではそれをサラリとやってのけています。『MR.BATER」では、松本人志扮する外国人が何でもノリツッコミで返すことを視聴者は知っています。「おかんとマー君」では、おかんのうっとうしい言動がマー君を困らせ、キレさせることを視聴者は認識しています。にもかかわらず、毎回笑ってしまうのです。毎回毎回、こちらのイメージを上回ってきます。

単にギャグめいたフレーズで笑わせるのではなく、「ノリツッコミ」「うっとうしい言動」という括りの中で常に新しい「ノリ方」と「うっとうしさ」を見せつけてくれます。分かってるけど、何がくるか分からない。という期待感をきちんと満たしてくれるのです。これはスゴイことですよ。カレーライスという括りの中、毎週新メニューのカレーライスで腹ペコの息子を喜ばせるお母さんがいたとしたら凄いですよね。そう考えるとイメージしやすいでしょうか。

時代の先を行き過ぎた「笑い」

さて、単純に笑える作品が詰まっている一方で、「授業」や「大手長コウモリ白ムササビ殺人事件」など、一見なんのこっちゃ分からないコントも入っています。正直、『ごっつええ感じ』が好きだった方でも、いまひとつ鮮明に思い出せない感じではないでしょうか。

「大手長コウモリ白ムササビ殺人事件」の概要をお話しすると、犯行現場の現場検証に2人の刑事が立っています。普通なら倒れているのは被害者ですが、そこにワケの分からない大手長コウモリ白ムササビが倒れています。しかもデカイ。この時点でだいぶシュールですが、そこへ他の刑事が順番に入ってきます。で、それぞれが掴んできた事件に関する情報を報告するのですが、内容がまたシュール。何の脈絡もない会話が飛び交い、急に「好きだよ」とか言ったりします。おもしろい空気感は漂うものの、難解なコントです。

ここで一つ考えていただきたい。
次のページからは、「ドリフ」や「ひょうきん族」との比較から、『ごっつええ感じ』の魅力をさらに発見してみます。

迎合ではなく、笑いに対する挑戦と格闘

ドリフはお茶の間のみんなが笑えるお笑いを提供していた。
前述のとおり、かつて「お笑い」や「コント」といえば「ドリフ」や「ひょうきん族」。日曜の夜に食卓を囲んで「志村うしろ~っ!」と叫んでいた時代を多くの人が生きていました。いわば、家族そろって楽しめる番組。ゴールデンタイムとはまさにそういう「分かりやすい笑い」の時間帯でした。
そんな時代が尾を引く中、こんなコントをしていったい誰が分かるんだ?っつう話ですよ。これは。
しかも芸人は、売れたいし、おもしろいと思われたい人たちです。難解なコントはリスクが伴います。

にもかかわらず、ダウンタウンをはじめ『ごっつええ感じ』ではそれをやってのけた。笑いに対する「挑戦」としか考えられません。しかも驚いたことに、これらのコントは、いま見る方が刺激的でタイムリーです。逆に言うとようやく時代が追いつき始めたという感じです。
8年経って、やっと新しさが分かるコントを昔からやっていたと考えると、この番組のパワーには計り知れないものがあります。

要は時代に迎合して「分かりやすい笑い」を作るという発想はそこにはなく、あくまで自分たちが作り出す「笑い」に対しての攻撃的な戦いが『ごっつええ感じ』では繰り広げられていました。
ですので、このDVDには笑いに対する自信とプライド、強烈なまでに考え抜かれたコントの数々が詰まっています。
とはいえ一方で、そういう思想は前面に露出していません。作り手の思想が出すぎてしまうと、受け手の「笑う」という行為の妨げになるからです。作品としての完成度は物凄く高いのに、アーティスティックな色合いには落とし込んでいません。
単館系の映画なんかで、作家色が強すぎて入り込めない作品ってありますよね?『ごっつええ感じ』に関してはそういう無駄が一切ありません。

いやぁ。気が付けばやけに文化論的な切り口になってしまいました。
まぁそれだけ奥が深く、「お笑い文化」に与えた影響度の高い番組なのですが、観ている側としてはこの際何も考えず、存分に笑いましょう。
果てしない「笑い」との格闘の果てに、我々が安心して笑える環境をダウンタウンが作ってくれているのですから。

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