毎年5月末になると宝塚音楽学校生徒による“すみれ売り”が行われます。これは募金活動の一環で、本科生と入学したての予科生が緑の袴姿ですみれの造花を売り、募金を募るというもの。

予科生にとってはこの日が初めて、タカラジェンヌのタマゴとして人前に出るイベントであり、また憧れの緑の袴を初めて着用できる日でもあります。

4月初めの宝塚音楽学校合格発表の日、晴れて予科生となった合格者たちはまだ喜びの興奮さめやらぬ中、グレーの制服と黒紋付の着物、そして緑の袴の採寸をします。仕立てるのはもちろん阪急百貨店。

そう! これが着たかった! 舞台に立つようになってからの豪華な衣装より、今はコレ! グレーの制服の着用は2年間で終わりますが、紋付と袴はタカラジェンヌである限り、ずーっとお付き合いするわけです。

宝塚をあまりご存知ない方の中には「緑の袴はタカラジェンヌの制服。だから毎日のように着る」と思っていらっしゃる方が結構大勢いますが、これは大きな間違い(そ、そんな、め、面倒くさいことイヤだ……)。

実は一年の内にほんの数回しか着ません。それはやはり特別な時。簡潔に言ってしまうと、宝塚歌劇団の生徒として式典やイベントに出席する時。

例えば——花束贈呈などをするイベントや何かの記念式典、元旦に新年の挨拶をする拝賀式、海外公演先でのレセプション、観桜会、劇団葬などなど。
文化祭や初舞台、退団公演の千秋楽、記念式典など舞台上で着る時もあります。

また身内や知人の冠婚葬祭にも着用できます。「今日はちょっと着たい気分!」と気軽に着ていいものではないんですね。
袴の上の着物は黒紋付の時と、それぞれ好みの柄物の時があります。どちらにするかは劇団からの指示があり、格式高い式典や葬儀の時などは黒紋付、華やかさを演出する時は色物といったところでしょうか。

黒紋付での草履は白、葬儀では黒。色物での草履は自由。
娘役が髪飾りを付ける場合は緑のリボン。葬儀の場合は黒。

さてそれでは『緑の袴・着付け講座』! 

まず足袋をはき襦袢や胴布団など下着を付け、黒紋付なり色物の着物を着ます。
普通に着て……と言いたいところですが一箇所だけ違う。丈を思いっきり短く、膝下ぐらいに着ます。長く着ると裾が袴から出てしまうから(この状態は童のようで男役さんでも結構かわいい!)。次に幅の狭い黒い帯を後で文庫結びにします。

そしてプリーツスカートのような袴をはく。
袴の後の部分は文庫結びの上に乗せることで形がよくなり、また落っこちてきません。

前は帯が少し見えるぐらいに合わせ、紐を結びます。この結び方は宝塚独特で通称“乙女結び”。見かけは普通の蝶々結びのように見えるのですが本当は……ごめんなさい、上手く説明できません。音楽学校生は乙女結びに校章を付けます。

ハイ、これで出来上がり。慣れれば5分。

しかし先ほど私は“面倒くさい”と言いましたね。だって面倒くさいんだもん。何がって? たたむのが大変なの! プリーツスカートを三つ折にたたむ場面を想像して下さい。ねっ? 大変でしょ? 雑にたたむと次回着る時にシワになってます(私はそーゆう時が何度も……)。
宝塚の袴は丈を少し短めに着るのが特徴。娘役は帯と袴を高い位置に、男役は娘役より低い位置に着付けるのも特徴。

着物を着ているというよりロングスカートをはいている感覚なので、歩きにくかったり苦しいなんてことはまずありません。でもやっぱり袴をはくと緊張感が出ます。背筋がピンとしますね。

すみれ売りから始まって、色んな場面で見られるタカラジェンヌの袴姿。だけどこの時以上にファンの方々の心に焼き付けられる場面はないでしょう。

それは——退団者の袴姿。黒紋付に緑の袴で大階段から降りて来て、退団の最後の挨拶をする。誰もが今までよりかっこよくて美しく見える瞬間。

これを着ることはもう二度とありません。タカラジェンヌにとっての緑の袴は“正装”であり“盛装”であり——どんな衣装にも負けない最後の最後の衣装。

えっと、私の大切な緑の袴は……かわいそうに実家の押入れの中で眠っているかな? 久しぶりに陰干しをしてあげよう。忘れかけてる思い出を、この子といっしょに思い出してみようかな?


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