フジテレビ系木曜22時『ビッグマネー!』。前半は伝説の相場師・小塚(植木等)に見込まれた白戸(長瀬智也)が株取引のお勉強をするという展開。デイトレードなど表面は新しいけど、やっていることは古くからの株屋の発想で、エンターテイメント的にも実際の株取引の参考にもイマイチ、視聴率も10%前後と低迷していました。

しかし後半、以前から小塚とまつば銀行に因縁があることをにおわせていましたが、6話でその因縁は波多野テル子(八千草薫)がまつば銀行から「相続保険」でだまされて病床に伏していることが原因であることがわかりました。
ひっくり返ったのはこの相続保険、明らかに現在も裁判で係争中の「変額保険事件」がモデルであったことです。

変額保険は加入時に一括払いすることができ、かつ一般の生命保険とは別建てで株式運用をするため死亡保険金、解約返戻金がハイリスク、ハイリターンとなることが特徴です。80年代末、バブル全盛期に大都市圏の地価が高騰し、土地の所有者の相続税もあがるため、代替わりの時に相続税を支払うために土地を手放さねばいけないといわれていました。その対策として売り込まれたのが変額保険です。土地を担保にした銀行からの融資を一時払い金として変額保険に入る、借金したことにより相続税は下がり、そして保険金で払うことができるとのふれこみでした。

しかし、バブル崩壊とともに株式の運用が行き詰まり期待を下回る解約返戻金で相続税には足りず、また銀行からの融資への利息も払えず、土地を売るか早いうちに死んで被害を軽くするしかない、と契約者はドラマと同じく悲惨な状況になっていると融資型変額保険被害者の会のサイトは銀行・生保を非難しています。

変額保険事件

この事件、売った生保と貸した銀行の説明責任、認可した大蔵省(当時)の責任、自己責任などの問題をはらんで教訓的な事例です。

しかしこれをNHKならともかく民放のドラマで扱ってきたのはビックリしました。ドラマの前半でまつば銀行とエリート行員・山崎(原田泰造)の扱いは、小塚・白戸に足をすくわれるマヌケなライバルというところでしたが、相続保険が中心になると、被害者をだまして告訴を取り下げさせる、老女を自殺に追い込むとものすごいヒールぶり。民放のドラマでここまで銀行を悪者にした例は記憶にありません。原作・石田衣良の『波の上の魔術師』を見ると、こちらはもろに「変額保険」と書かれていて、ドラマでは「相続保険」と名前を変えるぐらいの遠慮はあるようですが。
民放ドラマでは直接の番組スポンサーに対しては気を遣うのはよくあることです。人が急死する場合でも自動車会社がスポンサーなら自動車事故は使えない、製薬会社だと薬物は使えない、酒造会社だと急性アルコール中毒は…と限られて、建築現場でものが落ちてきて、というのがよくあるパターン。

しかしその番組のスポンサーだけでなくテレビ局全体としての大口のスポンサーにも気を遣うもので、ドラマに限らず報道でもはっきりした証拠がない限り非難するニュースはつくらないものです。

例えば、保険会社の調査員。『お金がない!』(94,フジ)は外資系保険会社の営業が舞台ですが、企画段階で調査員が主人公だったけど、途中変更になったそうです。なぜか?調査員は保険金を支払うのが適当かどうか審査する職業だけに「保険会社が保険金を払うのを出し渋っている」というイメージを与えることが嫌われるからのようです。実際、保険の調査員はミステリーものに向いた職業でありながら、ドラマで有名なのは『プレイガール』(69,東京12ch)ぐらいで、その後長らく途絶え、橋爪功主演の『冬の蛍』(97,NHK)でようやく復活、その後ちらほら2時間ドラマで見られるぐらいです。

そんな状況だったのに、いま銀行がここまで悪く描かれるのは、銀行の信用がなくなったからか、それとも広告の出稿量が減ったからなのか?

『ビッグマネー!』後半は視聴率も上向き。後は単なる勧善懲悪に終わらずに、いかに「リスクをとってリターンを得るか」というはなしにもっていくとドラマ的にもおもしろく視聴者の役にもたつと思うのですが、どうまとめていくでしょうか。



ドラマのおもしろさと金銭的教訓を高度にまとめた傑作として『淋しいのはお前だけじゃない』(82,TBS)をあげておきます。

主人公、沼田(西田敏行)はやり手のサラ金取り立て屋。暴力団の大物・国分(財津一郎)は浮気をした自分の愛人とその相手、旅芝居の座長(木の実ナナ)と女形(梅沢富美男)に復讐のため巨額の借金を負わせ、それを沼田に取り立てることを命じる。沼田は昔の縁から二人を逃がそうとするが、それがばれて自らも借金の連帯保証人にさせられてしまう。しかし客演で招かれた舞台で、二人に万札のおひねりが雪のように降ってくるのを見て、借金で苦しんでいる連中を集めて一座を組み一発逆転を狙うのだが…

金曜ドラマで放送されたのですが、視聴率が低くほとんど再放送されませんでした。しかし見た数少ない人たちは、口をそろえておもしろかったのになんで視聴率低いの?という隠れた名作です。先日DVDが発売され、ようやく「隠れた」を脱しました。

金銭的教訓としても、これを見たガイドは「借金したり保証人になったりはよほどのことがない限りやってはいけない」と心に刻み、おかげでデフレ不況の今、生き残ることができています。

このドラマを知っていると、テレビで消費者金融の広告が流れる状況は信じられないんですが、80年代前半のサラ金問題をふまえて法律など規制も厳しくなっているので、大丈夫なんでしょう、たぶん。
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