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私立の中学、高校で教鞭をとっておられる稲垣浩嗣さん。 |
また一方ではパソコンがどんどん普及していく中で、それに伴い文具はだんだんと使わなくなるのでは、とささやかれたこともありました。でも、実際はそんなことなく、パソコンとしっかりと共存しています。むしろパソコンが得意なこと、不得意な事がはっきりとしてきたことで、文具ならではの存在価値がより鮮明になってきたようにも感じます。文具はデジタル化がいくら進もうと、これからもますます元気に活躍してくれそうです。
さて、そんな文具にスポットライトを当てて、その活躍ぶりをご紹介するのがこの「隣の文具活用術」です。
第10回目となる今回は、学校の先生編です。人に教えるというお仕事の中で文具がどんなふうに活躍しているのでしょうか。
ガイド:
稲垣さんは学校で教えてらっしゃるとのことですが、まずそのお仕事の内容を聞かせください。
稲垣さん:
私は私立の中学・高校で非常勤の教師をしております。担当教科は理科です。非常勤ですので、担任は持たず、また学校の行事等にも参加しません。週4日勤務であくまでも理科のクラスだけを受け持っています。
ガイド:
理科がご専門ということは、やはり子供の頃からお好きだったのですか?
稲垣さん:
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子供の頃から理科がお好きだったいう稲垣さん。これまでずっとデジタルアイテムに傾倒されいたそうですが、ここ数年アナログ文具熱が再燃。 |
また、理科の授業は実験もあり、いつも楽しみにしていました。理科というと何か難しいと考えがちですが、実は私たちの生活にとっても身近なことばかりなんです。そうした理科への興味はさらに深まり、大学では理科専門大学へと進み、現在の理科を教えるという現在の職業に至っています。
ガイド:では、稲垣さんの先生としてのお仕事の中でお使いの文具を拝見できますしょうか。まずはスケジュール帳からお願いします。
稲垣さん:
今使っているのはパイロットのオーディナルという B6サイズです。中のスケジュール欄は、見開きでウィークリーになっているものです。実はこうした紙の手帳を使うのは、大学生の時以来なんです。実に、5年ぶりすね。
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検討に検討を重ねてたどり着いたというパイロット オーディナルB6サイズのスケジュール帳 |
このスケジュール帳の前まではずっとウィンドウズモバイルの PDA を使っていました。
ガイド:
どうして急に PDA から紙のスケジュール帳に変えたのですか?
稲垣さん:
1冊の本がきっかけだったんです。デビッド・アレン氏の「ストレスフリーの仕事術」という本です。そこで紹介されていた「GTD」という考え方にとても影響を受けました。
これは、やるべきことを頭の中に入れておくのではなく、すべて頭から出してしまい、頭は考えることに使うというのが基本的な考え方です。当初は PDA でこの GTDを取り組んだこともありましたが、どうしてもうまくいかず、スケジュール帳を使うことにしました。
久しぶりにスケジュール帳を手にすることになったので、実はスケジュール帳を買うための企画書というものを自分で作ったんです。
ガイド:
企画書とは、具体的にどんなものだったのですか?
稲垣さん:
これがそのときに作ったものです。
私はそもそも手帳に何を求めているのか、そしてどんな機能が自分にとって必要なのかを徹底的に考えました。例えば、土日も平日と同じ記入スペースが必要、罫線は薄め、ミシン目カットによるオートマチック開閉機能などんど。
これらを満たすスケジュール帳を色々と探していく中で、パイロットのスケジュール帳にたどり着きました。
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PDAからスケジュール帳に切り替える時に作った企画書。 |
ガイド:
スケジュール帳を選ぶために企画書を作るというのは、初めて聞きました。これはすごいですね。
では、そうして選び抜いたスケジュール帳の使い方についてお聞かせください。
稲垣さん:
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愛用の携帯電話はソフトバンク X 02HT というモデル。 |
その一方、タスクは日々沢山こなさなければなりません。それをこのスケジュール帳で管理してる訳です。このようにウィークリーの予定ページにその日にやるべきことを付箋に書き込んでどんどん貼り込んでいくという方法です。
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スケジュールページには、付箋がぎっしり。それでいてきれいに整理されている。 |
ガイド:
終了したタスクは、どのようにして区別するのですか?
稲垣さん:
終わったものは付箋を縦に貼り替えます。こうすれば一目瞭然です。
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終了したタスクは付箋をとりあえず、縦に貼り替える。 なお付箋には、(90)や(60)等の数字が書かれてある。これは、見込み所要時間だという。こうしておくと仕事の予定が立てやすくなるりそうだ。 |
ガイド:
ちなみに、この付箋はどこのメーカーのものですか?
稲垣さん:
無印良品のものです。これがいいのは、まずちょうど良い大きさということがあります。パイロットのこのスケジュール欄にピッタリと収まるんです。また、これは糊が半分くらいまでたっぷり付いてますので、剥がれたりする心配がないという点も気に入ってます。
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予備付箋は表紙の裏側にストックしてある。手作り台紙にドットライナーで貼り、そこに付箋を貼り付けている。 |
ガイド:
書いているペンの色、そして、付箋の色もいろいろとありますが、それぞれに何か意味があるのですか?
稲垣さん:
すべてに意味があります。
ペンの色は、
■赤(ツツジ)が仕事。
■青(ツユクサ)がパーソナル。
■茶(ボールド)が毎週定期的にやること。
これらはすべて万年筆で書いています。ちなみに、「つつじ」「つゆくさ」がパイロットの「色彩雫」というインク。ボルドーはモンブランのものです。
そして付箋の色は、
■オレンジ 職場でする仕事
■黄色 自宅の PC でする仕事
■ベージュ 自宅で PC を使わない仕事
■白 どこでもできる仕事
仕事をやる場所をこうしてあらかじめ決めておくと、今は職場にいるから、これを取り組もうという具合にやるべきことがはっきりしてきます。
このように情報を色で分けるのは仕事をはかどらせるという意味でもとても効果的です。
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スケジュール帳の後半にあるメモスペースに作られた「いつかやるToDoリスト」。 |
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こちらは「欲しいものリスト」。そこには万年筆の名前がいくつも書かれている。 |
ガイド:
いやぁ、実にシステムマティックですね。理系の人ならではという感じがとてもします。スケジュール帳のお話だけでもかなりお腹いっぱいになってしまいました。では、次にノートを見せていただけますか。
稲垣さん:
ノートは、3種類を使い分けています。これらは授業で使うものです。私は中2、中3、高3の3クラスを受け持っていますので、このように3冊に分けて管理しています。
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受け持つクラスごとに分けているノート。 |
ここでもやはり色分けをしています。ノートの綴じ部分の小口の上下にマーカーで色を塗っています。中2は緑、中3は青、高3は赤という具合です。こうしてノートに色を塗っておくと、かばんから必要なノートを取り出すときに、すぐにわかって便利です。
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クラスごとに色を決め、ノートや時間割にもその色で識別。 |
この色分けは例えば配布するプリントにも、マークとして使ったり、また時間割りにも活用しています。文字だけより色もあった方がパッと見てすぐにわかるというメリットがあります。
ガイド:
ノートの中身はどのように使っていますか?
稲垣さん:
左側のページが黒板に書くためのもの、そして右側は授業で話す内容というふうに分けています。
このような使い方をするのに、このスリム B 5サイズは最適です。と言いますのも、ノートを方手に持ったままチョークで黒板で書くとき、手のひらの収まりがいいんです。普通の B 5サイズだと、片手で持った時にどうしてもノートの両端がダラッとたれ下がってしまうので、とても見にくくなってしまいます。
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B5スリムサイズはこのように手に持った時の収まりがよい。授業中に黒板に書くときに最適だという。 |
それからこれは私なりのことかもしれませんが、黒板に書くとき一行に13~14文字までと決めています。そして授業ノートは実際の板書と同じレイアウトになるようにしているため、この点でもスリムB5のサイズはちょうどいい幅ですね。
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授業で使うノートにはシャープペンを使うという。愛用はゼブラのテクト2WAY。ボディを振ると芯が出てくるタイプ。これはロック機構も備わっているので、かばんに入れていて誤って芯が出てしまうということもないという。そして普段使い万年筆として活躍中のパイロットキャップレス デシモ。 |
ガイド:
ノーブルノート、ニーモシネノートもありますがこちらはどんなふうに使っていますか?
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授業用のノートの他にこの2冊を使用。 |
稲垣さん:
ノーブルノート(A5)は、その日の作業内容を書いています。いわゆる日誌のようなものですね。自分が今日1日どんな仕事をしてきたかを書きとめることで仕事がはかどり具合のチェックにもなります。書く事がないときというのは、すごくへこみますね。一体私は今日1日何をしていたんだろうかと。
もう一つのニーモシネ(A5)の方は、いろいろなアイディア出しに使っています。例えば学期中の自分の目標や生徒みんなに達成してもらいたい目標等です。またこのニーモシネでは、何か考えを深めたりするときのマインドマップを書く際にも使っています。マインドマップの良い点は全体像を掴みつつ、それでいてもれなく書き出せる点です。
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試験問題を作るときに書いたというマインドマップ。 |
例えば、試験問題を作るときにもマインドマップは有効です。いろいろと項目出しをして出題範囲をもれなくカバーしているかをあとでチェックする時にとても役立ちます。
ガイド:
ノーブルノートそして、ニーモシネノートには万年筆を使ってらっしゃるようですね。
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日誌を書くときは、今お気に入りの万年筆、パイロット カスタム743ウェーバリーを使う。 |
稲垣さん:
最近万年筆に目覚めています。今愛用しているのがパイロット キャップデシモ(メタリック)と同じくパイロット カスタム743ウェーバリーです。
万年筆で書くという機会を作りたくて、毎日の日誌やマインドマップは万年筆で書いています。
頭の中で考えを深めてそれを文字にするという時にはサラサラと気持ちよく書ける万年筆は、とても最適な筆記具だと思います。
ガイド:
ペンのお話が出たところでちょっとお聞きしたいのですが、先生というと、テストの採点で使う採点ペンというのがありますよね。稲垣さんはどんなものを使っていますか?
稲垣さん:
今よく使っているのはラミーサファリの万年筆です。これにパイロットも「色彩雫」の「ツツジ」を入れて使っています。普通の赤よりやや深みがある色です。採点ペンはあまり一般的なものを使ってはいけないと思っています。何故かというと、改ざんしやすくなってしまうからです。そういう意味でもちょっと変わったインクを使うというのは重要です。しかしながらテストに使う紙は決して良い紙質ではありませんので、書き味がいいとは言えませんけどね。
ガイド:
最後に稲垣さんにとって文具はどんな存在ですか?
稲垣さん:
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自分のワークスタイルにあた文具を選び抜いて使いこなしている。 |
「平たんな日常という戦場をいかに生きぬくか」
私にとって文具は日常を生きぬくための武器、つまり道具であると思っています。私が文具にこだわりだしたのは、中学受験のことでした。受験勉強用に蛍光マーカー10色、ゲルインクボールペン20色をいつもペンケースに入れて使っていました。よくクラスの仲間からは、「腐る程ペンを持っている」などと言われていた程です。
今ではさすがにそんなに沢山の文具を使うことはなくなりましたが、その分とことん気に入ったものを少しだけ持つというスタイルに変わってきました。最近、文具へのこだわりのポイントも「快適に使える」そして「心地よさ」という点を重要視するようになってきました。その心地よさということに気づかせてくれたのが万年筆した。
日記や手帳がこれまで休まず続けてこられているのも、心地よい書き味の万年筆があったからだと思います。心地よさは、しいては仕事のはかどりにも繋がっていくのだと思います。
ガイド:
本日はありがとうございました。
取材後記
手帳を選ぶのに自ら企画書を作るというお話はとても衝撃的でした。しかし考えてみますと、私たちも、自分はこういうワークスタイルだからこんな仕様のスケジュール帳がいいだろうなと何となく頭の中で考えていたりします。この何となく考えてるということがきっと中途半端なんでしょうね。それが結局、実際に使っていく中での不満点へと繋がっていのでしょう。来年は私もスケジュール帳を買うためにしっかりと企画書に落とし込んでみようかと思っています。こうした手帳選びに代表されるように稲垣さんの文具選びにはいずれもしっかりとした理由がそこにあります。それは小さな付箋に至るまでです。理系の方ならではの理詰めの文具活用術が根底に流れているのでしょう。
しかし、そうした理詰めだけでなく、一方で心地よさという感覚的なものも同時に大事されています。要はこの二つのバランスが大切ということなんだと思います。そうしたことを気づかせてくれるお話した。
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