柔らかブリーフケースが出来るまで

m+「TENERA(茶)」 42,000円(税込)
他に黒もあります

財布の構造をゼロから見直した、使いやすさ抜群の財布「MILLEFOGLIE」や、必要最小限ギリギリのサイズと思った以上の収納力が嬉しいウェストポーチ「MARSUPIO」など、数々の名作を発表している革製品工房、m+(エムピウ)。一級建築士から革小物デザイナーへと移行した村上雄一郎氏のアイディアと設計には、ガイド納富もいつも驚かされています。

そんなm+からブリーフケースが登場するというので、その製作過程から色々とお話を聴いてきました。また、出来上がった「TENERA」と名付けられたブリーフケース(というより、もしかしたらトートとか、単にバッグとか呼んだ方がぴったりするかもしれませんが)の、あまりの使いやすさとデザイン、機能に感動して、その場で購入してしまったガイド納富が、製作者サイドからと、使用者サイド(もう二ヶ月愛用しています)の両面から、このカバンを紹介したいと思います。

ソリッドな革から柔らかい革へ

国産タンニン鞣しの牛革にバッファロー風の型押しで表情を出した柔らかい革

この「TENERA」というカバンの大きな特徴は、全体にくたっとしていて、どこにも尖った部分がないような柔らかさです。このタポンとした感じをブリーフケースに仕立てるというのが、今回のデザインや構造上のコンセプトだったのだそうです。

「少し前は、ソリッドな一枚の革を、曲げたり折ったり切ったりして、革の張りを利用して何かを作るのが面白かったんです。MILLEFOGLIE(あの使いやすい財布です)や、ROTOLOというペンケースなんかが、その路線で作ったものです。それが一段落して、次はより使い込んだ時に、より革の魅力が出るようなものを作りたいと思ったんです」とm+主宰の村上雄一郎さん。その柔らかいシリーズ第一弾が、このガイド記事でも紹介したウェストポーチ「MARSUPIO」です。

「ソリッドな革鞄は、使い込んでいくと革そのものには味わいが出ても、革は柔らかくなってくるので、最初のイメージが失われるんです。ところが、最初から柔らかいと、使い込んでさらに柔らかくなった時に、その柔らかさが味になるんです。そんな使い込んだ先の良さが出せるカバンを作りたかったんです」という言葉通り、村上さんは、ウェストポーチ「MARSUPIO」から、ショルダーバッグ「PIATTO ALTO」「PIATTO BASSO」(これらもガイド記事で近日中に紹介します)、そして、このブリーフケースと、順調に柔らかいシリーズを発表しています。

広々と使われた革の素材感が心地よい

とにかく柔らかく、角がなく、デザイン的にもひっかかる部分がないように、というのがコンセプトですから、何より革選びが重要になります。「革選びは、いつも苦労します」と村上さん。「革の選択の基本は、使い込んで味が出るもの。なのでタンニン仕上げで、オイルを多く含んだものになりますね。今回は、柔らかさもポイントなので、曲げると、オイルが革の中を動いて、その部分が白く浮き出るようなものを探しました。使い込むと凸凹のメリハリが出るシボのあるものだとベストです」

ところが、最終的に選んだ革だとコストがかかり過ぎ、次に選んだ革は思うように数が揃えられず、などなどと、今回の革選びもかなり難航したそうです。ガイド納富は、最初の革、次の革、そして決定した革と全てを見せてもらったのですが、結果オーライといいましょうか、結局製品版に使われているものが、風合いといい柔らかさといい、一番良かったのではないかと思いました。

次のページでは、この形にたどり着くまでの試作品の数々と共に、このブリーフケースのデザイン上の魅力を紹介します




カジュアルに使えるトートのようなブリーフケースを目指して

初期の試作品。まだマチ部分などに角がある感じ

上の写真は、村上さんがブリーフケースに着手した、かなり初期の試作品。外部ポケットが無く、把手が細く、全体にややスリムな感じです。

「元々、ショルダーバッグではまずいような、ちゃんとした打ち合せとか外出に使えるカバンが欲しかったんです。でも、あまり固い感じのものも持ちたくない。サイズは大きめのファイルが入るもの。とか考えてデザインしていきました。ポケットがない、この感じも好きなんですよ。だから、完成品の「TENERA」も片側だけポケットを付けて、反対側は広い革を見せるようにしたんです」と村上さん。

袋である事を強調した試作品。

次の試作品は、外にポケットが付きましたが、やや小さいポケットです。しかもマチがない薄いモデルになっています。把手は太く平たくなりました。

村上さんによると「ショルダーバッグはマチ無しで作ったので、ここでも作ってみたんです。カバンの原点としての袋のようなカバンを考えていたので。ただ、せっかくのブリーフケースなので、外出先で不意に荷物が増えた時に対応出来るようにしたいと思い、ややゆったりしたマチにしたんです」ということだそうです。

最終形に近づいた試作品。完成までもう少し。

ここまで来ると、ほぼ製品版と同じ感じです。違うのはポケットの上部にビスが使われていることと、把手の縫い方、口部分の作り方です。

「ポケットの大きさは、A4サイズの雑誌が入れられることを基準に決めました。僕が作るバッグは、実はA4サイズの雑誌が入る事が基準になってることが多いんですよ(笑)。雑誌が好きなんですよね。ビスを結局無くしたのは、金属部品は極力使いたくなかったのと、デザイン上のアクセントになるようなパーツも使いたくなかったからです」と村上さん。とにかく主張しないデザインにしたかったのだそうです。シンプルという以上に、さりげなく、そこにある感じ。その引っ掛かりの無さこそ、このカバンの最大の特徴でしょう。

カバンの重さとデザインを決める把手へのこだわり

把手の付け根とポケットの部分が手縫いで補強されている

「TENERA」では、把手とカバンの繋ぎ目部分と、ポケットの上部は手縫いで補強が為されています。「この二ヶ所が、一番力がかかる部分だと思うんですよ」と村上さん。カバンの上部が丸く刳り貫かれて、そこに把手を縫い込んであるのですが、この作り方のために、かなり重い荷物を入れても、把手がカバンの革を引っ張らず、カバン上部の形が崩れません。ここの形が崩れると、とてもカバンが重そうに見えるのです。

様々な太さの把手を試して、持ちやすい太さを決める

「把手の太さや形状で、カバンが重く感じたり軽く持てたりするので、とても気を使ってます」と村上さんが言う通り、この「TENERA」は、とても持ちやすく、実際よりかなり荷物も軽く感じます。その秘密が、試作を重ねて選ばれた把手の太さであり、縫い方やデザインなのです。「縫い目が手に当たると重く感じるんですよ。だから、手に当たる部分が全部丸くなっているように作っています」と村上さん。

「全体に柔らかくて腰が無い感じを目指したんですが、それだけだとあまりに締まりが無いデザインになってしまうんです。だから、把手は、ちょっとビシッとさせています。そうすることで、柔らかいけど、だらしなくはない、という感じが出せました」と村上さんが言われるように、この「TENERA」は、とても全体に緩くて、角が無くて、でも、どこかキチンとした場所にも持っていける気品もあります。ちょっと見ただけでは分からない、不思議な魅力があるデザインなのです。

次のページでは、実際に使ってみた印象や機能などを紹介します。




必要なものが入れやすく出しやすい=手放せない鞄

幅が広すぎず深さがある使いやすい外部ポケット。
小さいほうは底上げされていて小物入れに便利

この「TENERA」は、ブリーフケースのルックスとトートバッグのスタイルを合体させたような、ちょっと他には無い鞄です。とはいえ、村上さんが自分が使いたくて作った鞄ですから機能に隙がありません。まず、外部に二つ、内部に四つあるポケットが使いやすいのです。

外のポケットは大きな方がA4雑誌を入れると、ちょっとだけ頭が覗く大きさ。この雑誌の頭が少し覗くというのが村上さんのこだわり。雑誌好きな村上さんらしい、取り出しやすく、何を入れたかが分かりやすく、つい入れっ放しという事態も防げる絶妙のサイズなのです。雑誌だけでなく、例えばガイド納富は、ここにトラベラーズノートを入れていますし、扇子とかガイドブックといった、少し長めで頻繁に出し入れするものを収納するのに最適です。

小さいポケットは底上げがされているので、携帯電話やデジカメなどの小物を入れておくのに向いています。ガイド納富は、ここにスマートフォンなどを入れています。外出時にメールなどを頻繁にチェックするのですが、出し入れがスムーズなのでとても重宝します。ガイド納富は、この二つの外部ポケットのバランスだけで「買い」を決めたほどです。

ポケット×3、ファスナー付きポケット×1、水筒など用のフォルダー×1の内装

内部のポケットは、どれも文庫本がすっぽり入る程度のもの。高さも文庫本程度なので、メガネケースやデジカメ、名刺入れや手帳といった、普段使うものを入れていても、奥に入り込んで出し入れに困るという事がありません。しかも、一つにメガネとデジカメ、一つに手帳と名刺入れ、もう一つにiPodと文庫本、四つ目のファスナー付きのポケットには、USBメモリや財布など、ちょっと大事なものを入れます。これで、普段持ち歩くものは全部収納されてしまうのです。この過不足の無さが、村上さんが自分のために作ったからこその実用性の高さでしょう。

トートバッグ的に使えるブリーフケースという事

必要に応じてファスナーで閉められるが、開けたままで使うことを想定して作られている

このカバンは、上部からモノを出し入れするスタイルになっています。そのあたりがトート的で、そのせいか「女性に見せると、ほぼ100%把手を長くして欲しいと言われます」(村上さん)というほど。その点について村上さんは「このデザインは手で持つ事を前提に考えたものです。だからストラップ用の金具なども一切付けていません。もし肩からも提げられるようにというのなら、別のデザインを考えます」と話してくれました。

ガイド納富も、このカバンは手に持ってこそだと思います。むしろ、トートバッグ的に作られている良さは、開閉を考えなくて良い事だと思うのです。一応、ブリーフケースらしく上部にはファスナーが付いていて、カバンを閉じる事が出来るようになっています。しかし、村上さんも「ファスナーを閉じないことを前提にして、口の部分は作りました。ファスナーはオプション的な位置づけです」と言っているように、ファスナーを閉じない方が使い勝手がいいのです。

モノの出し入れのしやすさ、全体が見渡せる視界の良さ、それでいて、一見、外からはカバンが閉じていないようには見えない口部分のデザインの良さ。それは、今までのブリーフケースにはないものだと思います。もちろん、場合によってはファスナーで閉じる事が出来るというのも、また嬉しいところです。そんなフレキシブルで気軽な機能なのに、良い革を贅沢に使った、ちゃんとした所にも持っていけるブリーフケースでもある、という、その二面性は、ガイド納富がこのカバンに惚れた大きなポイントでもあります。

次のページでは、実際の使用例を紹介しながら、この「TENERA」の使い勝手を検証していきます。




「TENERA」の様々な利用例

仕事で使うものをフル装備で入れてみたところ

これは、仕事モード。外ポケット(大)にトラベラーズノートYMSKぺンホルダー、外ポケット(小)に京ぽん(メール用端末)とチョコレート(モバイルタイプ)、三つの内ポケットにはそれぞれ、文庫本(ガイド納富オリジナルブックカバー付き)、クオバディス「PLAIN」cyproductのメガネケース、デジカメ(SANYO Xacti)、iPod 80GB&イヤフォンを入れています。さらに、水筒(タイガー「サハラマグ」)と、ほぼ日手帳エルゴグリップのファイルバインダー

写真は中が見えやすいように口を開いて撮影しましたが、実際は、これだけ入れても外見はスッキリしています。しかも、まだ単行本数冊は収納出来てしまいます。ガイド納富は、このスタイルで名古屋に日帰りで取材に行き、帰りに風来坊の唐揚げを土産に買ったのですが、それも、カバンに入ってしまいました。水筒や傘、ペンケースなどを立てておけるフォルダーもくたっとしていて、使わない時は邪魔にならないのも好きです。


不意の買い物にも対応。大きめの箱も入れられる

これは、外出先で思わぬ荷物が増えてしまった状態。ポケットには仕事モード同様の、いつも持ち歩くモノが入っています。その状態で、ちょっと大きな箱(PSPとか、カステラくらいのもの)を頂いても、こんな風に、収納出来てしまいました。ポケットが上部に集中しているのと、下に向かってマチが広くなっていることで、カバンの下の方は、かなり大きな荷物を入れられるのです。

ガイド納富は、このカバンを持って出かけた際、出先で梨を五個いただきました。大きめの梨でしたが、楽にカバンに入れて持って帰る事が出来ました。しかも柔らかく、入れたものに合わせて形が変わるのですが、革がゆったりしているので、外見にはあまり影響しません。なので、梨を傷める事なく、しかもカバンがおかしな形に膨らむ事なく、普通の顔をして持ち帰る事が出来ました。それも、この柔らかい袋的なブリーフというコンセプトだからこそですね。


鞄を開けたまま使えるからこそ可能な、大型書籍や資料の縦方向での収納

この写真は、A4オーバーのサイズの雑誌やカタログ、書類などを何冊も持ち歩く場合の使用例です。上部を開けたままでも持ち歩ける形状なので、大きめの本や書類は、このように縦に入れておく事が出来ます。A4ファイルサイズくらいなら、縦にいれても、外に飛びだす事はありません。また、縦に入れると、目的の本を探しやすく、出し入れも楽です。

実際、カバンを開けたままで持ち歩けるというのは、本当に便利で楽なものです。そりゃトートが流行るわけだと思いましたが、この「TENERA」の場合、外観はブリーフケースなので、さらに利用範囲が広がります。これらの使用例写真を見てもらえば分かるように、中の見通しもとてもよく、柔らかいボディなので、把手を開けば口も大きく開いて、小さなモノも探しやすいのです。


ガイド納富の「こだわりチェック」

m+主宰、村上雄一郎氏。仕事場にお邪魔してインタビューさせていただきました。

カバンには使う人との相性があるので、一概には言えませんが、ガイド納富は持った瞬間から気に入って、使えば使うほど、そのデザインと革の質感に愛着も沸き、日々その便利さに感心しています。ブリーフケースとしても、日常的に使うカバンとしても、両方で便利に使えて、使うシチュエーションを選ばず、若い人から年配の方まで自然に使えるカバンは、そう簡単にはみつかりません。そんなカバンに出会えた事が、とても嬉しいと思うのです。

この「TENERA」を持ち歩いていると、グッズ雑誌の編集者とか、雑貨屋のバイヤーとか、神楽坂のバーテンダーとか、書店員とか、学者とか、いろんな方々に、「これいいですねー」と言われました。見た感じで褒められるというのは、多分、革のムードがとても良いからだと思います。国産のタンニン鞣しの牛革(プルアップレザー)に、バッファロー風の型押しで表情を出したという革は、村上さんが苦心して探しだしたもの。二ヶ月ほどの使用で、最初よりかなり柔らかくなって、ますますくったりした味が出てきています。

「何も主張しない、緩くて柔らかくて、デザイン上のアクセントも付けない、でも素材の魅力が溢れている、そんなカバンが作りたかったんです」と村上さんが言いました。「カッチリしたカバンって、持つ機会がないんですよ」と笑って言いました。中に入れるものを、自由自在に形を変えて吸収するように収納する、「TENERA」は、そんなカバンだと思うのです。


<関連リンク>

・m+(エムピウ)のトートのようなブリーフケースのような革鞄「TENERA」(茶)はスタイルストアで購入出来ます。
・m+(エムピウ)のトートのようなブリーフケースのような革鞄「TENERA」(黒)はスタイルストアで購入出来ます。

m+(エムピウ)のサイトはこちら
(訪ねていくと、お得なアウトレットも購入出来ます)
・m+主宰、村上雄一郎さんの作り手ブログはこちら

m+の財布の構造をゼロから見直した財布「MILLEFOGLIE」の紹介記事はこちら
必要最小限ギリギリのサイズが嬉しい、柔らかシリーズ第一弾のウェストポーチ「MARSUPIO」の紹介記事はこちら
驚異的な収納力を誇るロール型ペンケース「ROTOLO」の紹介記事はこちら


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