盛況ぶりが記録更新に表れている

バーゼル内観バーゼル外観
スイス・バーゼル市で開かれる世界最大規模の時計見本市「バーゼルワールド」

今年の「バーゼルワールド」は、4月3日から10日、ジュネーブで開催される「SIHH=国際高級時計展」は4月7日から12日の日程で行われた。バーゼルの出展社数は2087(時計と宝飾合わせて)、会期中のビジターは10万6800人に達し、前年比5%増で記録を更新。一方のジュネーブは出展社数16、会期中のビジターは1万4000人、前年比8%増でこちらも記録を更新(データ出典:Fondation de la Haute Horlogerie が発行するニュースレター)。スイス時計展示会に毎年足を運ぶようになって通算15回目になるが、2000年以降、両会場を訪れる人の数が年々増えているのが確実に実感できる。

SIHH
通称「ジュネーブサロン」のSIHHは、バーゼルと比べると客層も雰囲気もぐっとエクスクルーシブ
WPHH
フランク・ミュラー率いるウォッチランドグループは、ジュネーブの自社屋で展示を行う
全体的な規模の拡大も目立つ。バーゼルでは今年から従来の宝飾ブランドの展示館にまで時計ブランドのブースが多数出展するようになったのがその一つ。ジュネーブは、SIHHの会場外で独自に開催される展示会も目立っている。社屋で新作を発表するフランク・ミュラー・グループのWPHH(全9ブランド)、F.P.ジュルヌやボヴェ、高級ホテルを利用するリシャール・ミル、アントワーヌ・プレジウソ、ブシュロン、ルイ・ヴィトン、あるいは新進独立系ブランドなどだ。こうした独自開催の流れはますます拡大すると予想される。

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2008年はスポーツウォッチ百花繚乱

今回取材したブランド数は、バーゼルで約50、ジュネーブはSIHHと独立開催を合わせて約30にのぼった。実際に見たり、手に取ったモデル数でいえば、500本は下回らないだろう。

ウブロ「ビッグ・バン アエロ・バン」
ブラック、異素材ミックス、マルチレイヤー文字盤の先駆者ウブロの新作「ビッグ・バン アエロ・バン」
全体的にスポーツウォッチが非常に印象に残った。一口にスポーツウォッチといっても、特定のスポーツに関連する時計もあれば、デザインにスポーティ感を際立たせた時計までじつに幅広い。いかにもクラシック然とした機械式時計をのぞくほとんどがこのスポーツウォッチのカテゴリーに入ると考えて間違いない。今年がオリンピックイヤーであることも、そんなムードを醸成しているのかもしれない。作り手の側からすれば、シンプルなドレスウォッチよりもスポーティな時計のほうが、ケース形状、素材、カラー、機能などさまざまな点で野心的な試みが可能なので、新作の開発には格好な分野だ。

ベル&ロス「BR02 クロノグラフ」
トレンディな黒ずくめのダイバーズ・クロノグラフ。ベル&ロス「BR02 クロノグラフ」
スポーツウォッチでは、クロノグラフやダイバーズが多く、デザインの点で目立つのは、大型の力強いケースと、ブラックの色彩。文字盤はブラック、ケースやムーブメントの部品までもブラックで彩る手法がさまざまなブランドの新作で顕著に見られる。文字盤の複雑化も興味深い。アプライドを多用したり凹凸感やサブダイアルの装飾に変化を持たせて立体感の強調したり、マルチレイヤーによる多層構造にしたり、あるいは文字盤をくり抜いてムーブメントを見せるといった凝った手法が見られる。こうした新コンセプトによる21世紀らしいスポーツ・ラグジュアリー・ウォッチがいま一番旬なトレンドといえるだろう。

次ページではますます加熱するコンプリ競争を占う

加熱するコンプリケ-ションの行方

「コンプリケ-ション」と総称される機械式複雑時計の進化も毎年楽しみの一つである。今年も主役の座をトゥールビヨン(重力によって生じる誤差の補正機構)が占めているのは変わらない。かなりのブランドから相当数のトゥールビヨンが発表されるようになった現在、2000年以前の頃のような稀少性は薄れつつあるが、この最高峰の複雑機構をいかにアレンジして新しいコンセプトを打ち出すかというメーカーの熾烈な開発競争からはまだまだ目が離せない。

コンコルド「C1 トゥールビヨン
コンコルド「C1 トゥールビヨン」は、ケース側面にトゥールビヨンを配置した驚異の設計
メーカー関係者たちによれば、トゥールビヨンは、世界の「ニューリッチ」いわゆる新興富裕層にたいへんな人気だそうだが、そうした購入者たちの好みも反映されているのか、伝統色豊かなモデルよりも、奇抜なデザインやメカニズムを際立たせたモデルが確実に増えている。ここでもまた、スポーツウォッチ同様にトレンディなデザインの追求が顕著だ。トゥールビヨン以外の超絶コンプリケ-ションとも称すべき複雑時計についても事情は似ている。スイス人のある時計関係者も、異様なまでの過熱ぶりを見て「最近は話題づくりのために作られたショーピースが多すぎる。これらは人を驚かせることに巧みだが、時計熟知した愛好者をどれほど感動させることができるだろうか」と懸念を示す。同感である。その結果がはたして吉と出るか凶とでるか?

シンプルウォッチやリーズナブル・プライスへの期待

数年前の一時期、ごくシンプルなモデルや、あるいはブランドの持ち味を再認識させるような正当派モデルがポツポツと現れ、それを「原点回帰への兆し」などと評したわけだが、その後、トレンドと呼べるような進展はみられないのは少々残念に思う。ブランドを連日回っていて、そうした時計に出会うこともたまにあった。奇抜なモデルの陰に隠れながらも、静かに個性を主張するシンプルウォッチは、貴重な一服の清涼剤になり、正直ほっとする。

ここでいう「シンプルウォッチ」とは、2針や3針のベーシックな時計はもちろんだが、多機能でも機能やサイズを誇示せずに、シンプルで上品なデザインにまとめられたタイプの時計という意味でご理解いただきたい。1990年代の機械式時計復興は、ある意味でアンティークウォッチの再現でもあり、現時点の観点からすると「シンプルウォッチ」が非常に多く、機械式時計は時代にも流行にも左右されないタイムレスな魅力があると発見した人も多かったはずだ。ところが今は先端に走りすぎる傾向にあり、もう少しこうしたカテゴリーの魅力的な機械式時計があってほしいと願わずにはいられない。

機械式時計の全般的な価格高騰は今年も続いており、少々悩ましい問題だ。ふつうの工業製品なら、生産が軌道に乗れば価格は下がるのが常識だが、時計の場合は増産が価格上昇と結び付くという、一般人からすれば不可解な現象が起きている。機械式時計の復興を受けて開発や設備への投資をはじめ諸々のコスト高が原因という意見も聞かれるが、高価でも売れるという好調な市場に支えられた強気のビジネスという一面も否めない。

数千万円のコンプリケ-ションは言うに及ばず、たとえばステンレススティール製、自動巻きムーブメントのスポーツウォッチでさえ、ボリュームゾーンは50万円から100万円のあたりにシフトした感がある。30万円から50万円あたりのリーズナブル・プライスで善戦する著名な時計ブランドもあるが、全体からすれば少数派だ。価格が上がれば、当然ながら消費者はコストパフォーマンスをより厳しくチェックするようになる。価値に見合った納得価格の良品がもっと増えて欲しいと、これまた願わずにはいられない。

次回より、さまざまな観点からガイドが注目したブランドの新製品について具体的に紹介していく予定。乞うご期待。

撮影:小田昭二
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