男の腕時計/機械式時計の基本のキ

腕時計にあるパワーリザーブとは?その仕組みや必要性と表示スタイル

機械式時計でよく用いられる言葉に「パワーリザーブ」がある。今回は、その仕組みや必要性、手巻きや自動巻きなど様々な腕時計における表示スタイルを紹介する。パワーリザーブとは一体何なのか、順を追って解説していこうと思う。

執筆者:菅原 茂

パワーリザーブとは機械式時計特有の仕組み

腕時計にあるパワーリザーブとは?その仕組みや必要性と表示スタイル

ジャガー・ルクルト「マスター・エイトデイズ」。モデル名からも分かるように8日間のロング・パワーリーザーブ機能を持つ。11時位置に扇形のインジケーターを配置。ピンクゴールド・ケース。手巻き。

機械式時計のスペックの説明の中に「パワーリザーブ40時間」といった一文を目にすることが多いだろう。「主ゼンマイを完全に巻き上げた状態で放置すると、40時間は動き続けます」という意味である。つまり、この時計の主ゼンマイは、時計を連続して40時間動かし続けるだけのパワーを蓄えることができるのである。もちろん、伝統的な機械式特有のものである。クォーツ時計では「パワーリザーブ」とは言わない。持続年数がたんに電池寿命として示されるだけだ。

基本のキに戻るが、機械式時計は主ゼンマイの力で動く。ここで「主ゼンマイ」と呼ぶのは、もう一つのゼンマイ、すなわちテンプに付随する「ひげゼンマイ」と区別するためで、英語でもメイン・スプリングと呼ぶ。この主ゼンマイはリューズを回したり、自動巻きの場合はローターの回転によって巻き上げられる。

いったん巻き上げられた主ゼンマイは、こんどは解けて元の状態に戻ろうとする。この時に発生するエネルギーが歯車を回す原動力になる。パワーリザーブが40時間なら、40時間経過すると主ゼンマイが解け切ってエネルギーがゼロに近づき、時計が停止する。これがパワーリザーブの原理である。

主ゼンマイがどの程度巻き上げられているかは、ふつうは外部からは確認できない。それを文字盤に表示するのが「パワーリザーブ・インジケーター」という機構である。ガソリン・メーターとよく似ている。古典的なパワーリザーブ・インジケーターといえば、18世紀末にアブラアン-ルイ・ブレゲが製作した「ブレゲ No.5」のものが有名である。扇型の目盛りを移動する針を見れば、主ゼンマイのパワーリザーブ量、逆に言えば残りの持続時間が確認できるわけだ。
 
扇形の古典的なインジケーターを採用したブレゲ「3130」。イエローゴールド・ケース。自動巻き。18世紀末に作られた名作「ブレゲ No.5」のデザインを現代流にアレンジしている。

扇形の古典的なインジケーターを採用したブレゲ「3130」。イエローゴールド・ケース。自動巻き。18世紀末に作られた名作「ブレゲ No.5」のデザインを現代流にアレンジしている。

主ゼンマイの巻き上げ量が残り少なくなってくると、トルクが低下して精度が確保できなくなる。そこで、使用者に巻き上げを警告するという役割も、パワーリザーブ・インジケーターは果たしている。
 

パワーリザーブの長さや表示も腕時計によってさまざま

パワーリザーブは、この主ゼンマイを収納する「香箱」のサイズや主ゼンマイの最適な長さなどの諸条件があり、40時間から50時間が一般的である。香箱を二つ用いる「ツインバレル」だとさらに70時間以上のパワーリザーブが得られるが、2000年以降は、香箱の数をさらに増やしたり、単体の大型香箱を用いて7日間や8日間という、画期的なロング・パワーリザーブを実現したモデルも続々と登場してきた。

腕時計サイズの機械式ムーブメントではこの1週間パワーリザーブが限界と考えられていたところ、今年は、A.ランゲ・アンド・ゾーネが31日間パワーリザーブというモンスター級モデルを発表して周囲を驚かせた。
 
IWC「パイロットウォッチ・オートマティック“アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ”」。7時位置の円形サブダイヤルがインジケーター。ピンクゴールド・ケース。自動巻き。

IWC「パイロットウォッチ・オートマティック“アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ”」。7時位置の円形サブダイヤルがインジケーター。ピンクゴールド・ケース。自動巻き。

パワーリザーブ・インジケーターのデザインもさまざまだ。文字盤に扇形のインジケーターを配したクラシックなものから、円形のサブダイヤルにデザインしたもの、さらに凝ったものになると、垂直ないし水平方向に直線的に表示されるものまである。インジケーターに時間数や日数の目盛りがあるのがふつうだが、ないものもある。

また、終わり近くの目盛りを赤で強調しているのは、先に述べた「警告」のためのもの。また、パワーリザーブ・インジケーターは、つねに文字盤上に置かれているとは限らず、ムーブメントの香箱上や香箱付近に直接取り付けたタイプまである。これらはシースルーバックから目にすることができる。
 
ジャンリシャール「パラマウント スクエア」。垂直方向に表示するインジケーターがユニーク。赤い針がゼンマイ残量を示す。ステンレススティール・ケース。自動巻き。

ジャンリシャール「パラマウント スクエア」。垂直方向に表示するインジケーターがユニーク。赤い針がゼンマイ残量を示す。ステンレススティール・ケース。自動巻き。

パワーリザーブ・インジケーターの針を動かすには、香箱と連動させる精巧な減速機構が必要になる。8日巻きモデルだと針が1日で移動するのは約1mm程度。たんなる文字盤のデザイン的な要素とけっして侮ってはならない。パワーリザーブが複雑機能に分類されるのは、そのためである。

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