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誰格2pt.3/虎仮面に隠した桜庭移籍の真情(2ページ目)

「誰が格闘技を殺すのか」シリーズ第二弾。GWの格闘技界を揺らした桜庭のHero's移籍。K-1ボブ・サップの出場拒否事件は本当にその報復なのか? 選手の引き抜き合戦の構造に迫る。

執筆者:井田 英登


「PRIDE残留」に記事は何を押しとどめたかったのか? 


さて、そんな状況下に晴天の霹靂のように浮上したのが、4月29日の東京スポーツの記事だったわけだが、リテラシーを働かせて考えてみると、この記事は東スポ単独のスクープというより、若干PRIDEサイドの思惑に傾いた何者かのリークではなかったかという気がして来る。

当然、4月末のこの段階でPRIDE本体からのリリースも、また記者会見も開催されてはいない。それは要するにPRIDEと桜庭の間で、まだ直の出場契約を結び直す、という作業が形になっていないことを現す。

これまで高田道場を経由する形で、桜庭との専属契約を確保して来たDSEとしては、当然継続して契約を維持したかったことは間違えない。その事は、後に榊原社長が、この件について行った発言の内容からも見て取れる。


現在の情勢を見る限り、高田延彦氏はPRIDE統括本部長の要職にあり、またDSEのもう一つのドル箱であるプロレスイベント「ハッスル」シリーズでは、人気キャラ“高田総統”を演じてもいる。いわば両者の関係は未だ蜜月状態にある。

その高田の傘下を離れた(もしくは放出された)桜庭と、等距離外交で再契約を迫る事は、金銭的条件も含めてかなり難しい問題を孕んでいたようだ。

「Hero’s」の翌日会見に同席した中には、桜庭が懇意にして来たという上杉昌隆弁護士の姿も含まれていた。上杉氏はいわば、現在の桜庭の代理人的な立場にある人物であり、この会見の際にも、桜庭の意向を受けて慰留するDSE榊原氏、そして移籍先となったFEG谷川氏の両団体首脳との交渉を受け持ったという事実を明かしている。

その発言内容をまとめてみると、高田道場との契約関係が解消された三月末の段階で、桜庭は“次に上がるリング”を選定する上で相当悩んでいたらしい事がわかる。上杉氏は、四月半ばに谷川氏と接触し、マスコミ報道に先んじて高田道場との契約解除を報告。「Hero’s」参戦を視野に入れた交渉を開始している。

そして5月1日段階で、「Hero’s」参戦の最終意志を谷川社長に告知。2日には桜庭を交えて榊原にもその意向を報告した、とある。

桜庭との契約更新が難しそうであるという流れの中で、“敗色”の濃いDSEサイドの意向に寄った記事が、スクープの形で世に出たと言う事は、興味深い。この記事に関して、上杉弁護士は「流れの上で(DSE側が)『そう思いたい』と思われていただけなのでは?」とも語っており、既に4月後半の段階で、桜庭の気持ちがPRIDEから離れていたことを見ていいのではないだろうか。

丁度、桜庭サイドとDSEの交渉が重ねられた四月後半の時期は、丁度好調に発表が続いていた「PRIDE無差別級トーナメント」のカード発表がぴたりと止まった時期でもある。


4日 ヒョードルのシード、吉田×西島戦発表
7日 美濃輪vsミルコ戦発表
13日 藤田和之のPRIDE復帰/GP参戦発表
19日 藤田 vs トンプソン、アリスター vsヴェウドゥム戦発表

27日 高阪 vs ハント戦発表
5月2日 ノゲイラ vsズール戦発表

本来、前売りチケット販売の追い込み時期である19日から以降、月末までの二週間=最後の2カードが出るまでの間、――本来なら、ラストスパートでビッグカードを押し込みたいはずのこの時期に、何がネックでラストカード二試合が発表されずに過ぎたのだろう?

この間平行して行われていたと言う、桜庭の再契約に榊原社長が謀殺されて、カード編成が遅れたと言うのも、イマイチ因果関係が浮かびにくい。参戦が決定している選手同士のカード編成なら、社長が出るまでもなく、担当社員が細部の交渉を進めて行けばいいだけの話だからだ。

むしろ、残された四選手/二試合の中で、明らかに参加資格を欠いた=間に合わせで押し込まれた観のある、ズールーの場所に“ふさわしい名前”が入る構図を考えた方が平仄が合うのではないだろうか…。

ノゲイラ vs X
ハント vs X
高阪 vs X

この三つのカードが考慮され、Xに打診されていたと考えると、その間の停滞の理由は遥かに理解し易い。



ただ、蛇足として付け加えるなら、桜庭は融通無碍なようでいて、非常に体重差にこだわる側面がある。2000年に発売された自伝『ぼく。』という本の中でも、こんな感慨を記している。

「PRIDEグランプリには出たくなかった、正直言って。アレは出場選手の体重が必要以上にバラバラだ。同じくらいの体格の人だったらいいけど、あまり体重差のある選手との戦いはシンドイ。勝ち負け以前に、そう言う戦いは絶対面白くならない」(P186)と。

こういう考えであれば、「無差別級」と銘打たれた今回のグランプリには、どんなにいい条件で誘われても、出る気にならなかったことだろう。

また同じ本で、桜庭はこうも書いている。

「ぼくは一度嫌悪感を抱いてしまうと、とことんまで嫌いになってしまうタイプ。」(P58)

本来金銭的にも、待遇的にも、あまり離れる必然性が見いだせないPRIDEマットを、なぜ桜庭が後にする事になったのか、その心情のキーとして、一つ考慮に入れておいてもいい発言だと思う。


【PART4】に続く
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