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猪木祭三分裂を徹底検証(5) イノキボンバイエ2003編 「IB派の野望と業界地図の変化」(2ページ目)

正月明け、格闘技三大イベントの話題をちょっと違った角度から語ってみたいアナタに、うってつけの裏読み講座。このポイントを押さえて見れば、リングの上の光景が違って見える!

執筆者:井田 英登

■イノキボンバイエ2003:政治的背景はこう読め


「小川、吉田、ミルコ、ヒョードル、ノゲイラ」

当初、日本テレビ側にK-コンフィデンス川又社長が提示したラインナップは、錚々たるビッグネームだった。この顔ぶれを本当に揃えることができれば、PRIDEのドーム級に匹敵するヴァリューの興業になる。だが、契約交渉の行なわれた当時このラインナップは、はったりでも口からでまかせでも無く実現可能なものだった。

小川はそもそも日本テレビ側と川又氏の仲介を行ったケイダッシュ川村社長の「持ち駒」であり、ノゲイラ他ブラジリアントップチーム勢は川村氏の傘下にある、U女史がブッキングを担当している。なにより、猪木事務所の社長である川村氏はアントニオ猪木や藤田和之も動かせる立場にいる。昨年夏のUFO-Legendが失敗に終わった川村氏は、ミルコ、アーツの他にヒョードル獲得も進行させていた川又氏をビジネスパートナーに迎えることで、実質的なUFO-Legendの再開を目論んだのであろう。

さらに、川又氏には切札として、吉田秀彦を参戦させうる可能性を抱えていたのだ。というのも、そもそも吉田を口説き落としてDynamite参戦へ漕ぎ着けたのが、川又氏だったからだという。吉田が現在所属する事務所J-Rockも川又氏の友人が経営するものなのだから、上記のラインナップは全て実現可能と考えるのが人情である。日本テレビの氏家社長も、この段階でイノキボンバイエの成功を疑う訳もなかった。トップダウンで7億ともいわれる放送権料が決定されたという。

が、フライング気味に猪木氏がスタート宣言をぶち上げてみると、各所からきしみが聞こえ始める。まず、予想しなかったのは、フジの後押しでDSEが重い腰をあげ、吉田を最初にブッキングしてしまったことだった。吉田としても、馴染みのある川又氏のイベントに背は向けられないものの、自分の存在を格闘家としてバックアップしてくれたPRIDEから“引き抜かれる”ことは大きなイメージダウンに繋がる。金銭にシビアな外国人ならともかく、日の丸を背負った日本人選手としては「義理」の問題を抜きにはできなかったのだろう。小川も、現在準所属的な扱いのプロレス団体ZERO-ONEとの関係を優先、1月4日に開催されるDSE初の純プロレス興業「ハッスル1」への参加をきめてしまった。

さらに、これだけは磐石と思われたミルコの参戦拒否、ヒョードルの移籍問題、そしてレイ・マーサーの来日拒否と、雪崩を打ったようにブッキングトラブルがぼっ発する。これら全てのトラブルに共通するのは、フジと日本テレビとのライバル意識の強さを考慮に入れていなかった、見通しの甘さに尽きると思われる。

当初、川又氏が日本テレビとの契約に走った段階では、PRIDEの年末参戦は具体化していなかったはずであり、フジ&DSE連合と事を構える気はなかったのだろう。この段階でのネゴシエーションがきちんとしていれば、ここまでの泥仕合にはならずに済んだのではないかという気がしてならない。


反するものあれば、和解するものも生まれるのは世の常で、選手参戦があちこちで暗礁に乗り上げて苦境に追い込まれた川又氏に、かつての師である石井館長が救いの手を差し伸べたという情報もある。実際に天田・マクドナルドのK-1マッチが提供されている経緯を見ると、今後両陣営の関係修復を経て噂のK-1 MMA路線が川又氏&日本テレビ路線で実現するのではないかと、気の早い予測を語る関係者もあるぐらいである。

こういう動きを見るかぎり、猪木祭り分裂が生んだ業界地図の書き換えはまだまだ終わってはいない。合従連衡をくり返す、格闘技戦国時代は続いていくことだろう。

ただ、結果として民放局がスポーツコンテンツとして格闘技に目をむけ、そして資本が流れ込んできたことは事実である。一定の数しかない現有の格闘技ファンを奪いあう競争にしかならないのであれば、意味のない競争だが、全体として新たなファン層を獲得する結果に結びつけば、市場はさらに潤い、業界の発展に結びついていくことだろう。野球やサッカーでも、裏番組のスポーツ中継がバッティングしながら、どちらもがそこそこの数字を収めることはままある現象である。今後、格闘技がメジャースポーツとしての展開を図る上では、今回のような騒動も、起こるべくして起きた必要悪だったのかもしれない。

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