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10年後、20年後は大丈夫?地権者にご用心

マンション建設にあたって元々そこに住んでいた人が地権者として事業に協力、完成後に居住するケースで、地権者が多いことに懸念を抱く人がいます。それは事実かどうか。実際のケースから考えてみます。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

管理組合の一員としての立場は同じ、
不利、不平等を言うには当たらない

とある幹線道路沿いにあるマンション。エントランス周辺は南仏風でしゃれた建物なのですが、エントランスから少し離れたところに目をやると印象は一変します。そこにあるのは、埃だらけの食器や古本、変色した衣類などを積み上げたリサイクルショップ。と書くと、聞こえはいいのですが、実態はお年寄りがゴミに近い品を収集、それを広げている店です。一応販売はしていますが、ほとんど客が入っていた試しはなし。建物とはかなり違和感があるのですが、では、なぜ、この店がここにあるのでしょう。それはここの店主が地権者だからです。

地権者とは従前(この場合で言えばマンションが建つ以前のこと)の土地や建物に対して所有権あるいは借地権といった権利を持っていた人のことを言います。デベロッパーがマンションを建てるに当たっては、その権利を直接買い取る、あるいは従前の権利価額に見合った額の住戸などと交換する(等価交換と言います)といった手を取りますが、この場合は1階の店舗と土地を交換したのでしょう。そのため、建物のイメージにそぐわないご商売であっても致し方なし、地権者強し。それが現状のようです。

まとまった土地を買い取ってマンションを建設する場合ならいざ知らず、すでに人が住んでいた場所で建物を作る際には、必ずといってよいほど地権者は存在します。その方々に協力していただかなければ建物は建たないわけですが、そこで問題になるのは地権者がいる、しかも多いマンション。それが購入する人に不利にならないかという点です。冒頭の例のように1軒いらっしゃるだけでも大変そうなのに、それが多数いらっしゃるとしたらどうなのか。

冷静に考えると、不利、不平等はないはずです。住戸の広さ、位置などが地権者に有利に見えるにしても、建物完成後に地権者が得る権利は元々有していた権利とリンクしているもの。単純に広いから不公平とは言うのはおかしな話です。また、入居後、管理組合の一員となれば権利、義務ともに同等になります。実際には居住者間での心理的な葛藤も聞かないわけではありませんが、区分所有者としての立場は原則としては同じなのです。新住民と古くから住んでいる人たちとの軋轢も聞かないではありませんが、これも地権者だから発生する問題というわけではありません。

居住者の年齢、間取りにばらつきのあるマンションでは
管理組合の合意形成が難しい

しかし、長い目で見ると疑問もあります。例えば、億ションとして分譲されたあるタワーマンション。ここは入居者のうち、実に7割が地権者で、その大半は地元でずっと小規模な店舗を営んできた方々。収入の高い、現役世代中心の購入者層と比べると、高齢で収入もかなり低い人が大半です。しかも、物件は維持管理にお金のかかるタワーマンションです。当初は良いとしても、いずれ修繕積立金の値上げと言う話が起こることは想像に難くない。しかし、今でも高齢者が多い地権者世帯が10年後に値上げに賛成してくれるかどうか。もし、7割が反対となったら値上げは間違いなく不可能。修繕その他に支障をきたすことも考えられます。

あるいは現在建設中のあるマンション。ここでは全体の3割弱が地権者住戸になっています。地権者の数自体は少ないのですが、問題は地権者の大半が高齢の単身世帯だということ。そのため、全体としてはファミリータイプ中心のマンションながら、地権者用住戸は1DKなど単身用の間取りになっています。当然、気になるのは、何年か後に発生するであろう相続です。間取りが間取りだけに、地権者住戸が賃貸に出される可能性もあり、そうなった場合、建物内の住環境の維持、管理組合の活動などに問題が出ないか……。所有者の3分の1近くが不住となると、管理組合の役員選出すらやりにくくなるでしょう。

マンションで、管理組合の合意が形成されにくい要因のひとつに年齢層、間取りのばらつきが挙げられます。簡単に言えば、金銭感覚、懐具合、ライフスタイルが違う人が住んでいると意見がまとまらないということで、こうしたマンションでは維持管理が適切に行われなくなります。以前、修繕積立金の値上げが2年以上可決されず、そのために大規模修繕が延々延期、最上階では雨のたびに雨漏り騒ぎが起きているという中古マンションの話を聞いたことがありますが、これなどはその好例(実際には悪例!)でしょう。また、例えばファミリーとシングルでは生活時間帯がどうしてもずれやすく、そのため、音問題などが発生しやすくなります。

以上をまとめると、問題は地権者が多いことではなく、お財布共同体である管理組合にあまりに多様な人間が集まるのは危険だということになります。その意味では、多様な間取りが用意された物件にも同様の危険があるわけですが、地権者が多い物件はそもそもその危険を内包している可能性が高い、その点で注意が必要。そういう結論になろうかと思います。特に2010年は地権者の多い、都心でのマンション供給が多い年ですから、個々の物件の地権者事情を精査、熟慮していただきたいものです。



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