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「その道のプロ」のルーツを探る ガイドの原点−origin-

vol.060

温泉のすばらしさは、温泉そのものにある。
香り、色、肌触り。
五感を駆使してじっくり味わってほしい

温泉が好きな人は多いだろう。でも私たちは温泉の何に魅力を感じているのだろうか。料理?景色?露天があるかどうか?真の温泉好き藤田さんに、「そもそもいい温泉って何?」から始まる温泉論を伺った。

「温泉」ガイド 藤田 聡

文/宗像陽子 写真/須藤明子

いい温泉とは?

「今度温泉に行こうよ!」「いいね!」ランチタイムに友達と、あるいは夜景を見ながら恋人と、そんな会話は珍しくはない。では、どんな風に行き場所を決めているかといえば「料理がおいしいらしいよ」「露天風呂がすごく気持ちがいいって」「広い部屋だ」「近くに流行りのスポットがあるよ」「アクセスが便利」「リーズナブル」そんなところではないだろうか?

温泉ガイドの藤田さんによれば、いい温泉の意義とは、料理も景色も何も関係ないという。

雪見露天風呂の記事より。景色は温泉の魅力の一つだが。

雪見露天風呂の記事より。景色は温泉の魅力の一つだが。

古くから日本には、自然の中の温泉で体力を回復したり疲れを癒やす「湯治」という習慣があった。温泉には成分などから構成される様々な効能・泉質がある。色も温度も臭気も成分も、それぞれ個性的。地球から授かった天然自然の贈り物といってもいい源泉かけ流しの湯の素晴らしさを知ってほしいと「温泉本来の魅力」について情報発信をつづけている。

「けれどもなかなかわかってもらえる人がいなくて」と藤田さんは残念そうに言う。

「温泉の魅力とは、お湯そのものの魅力なんです。温泉地に行ったら、景色や料理を楽しむのももちろんいいのですが、湯そのものを味わってほしいのです」

温泉につかる。それは、普段の入浴とは全く違う楽しみだと藤田さんは言う。
「たとえば、朝昼晩の毎日の食事と特別なグルメは全く別ものですよね。毎日の入浴の目的が、体を清潔に保ち温まることだとしたら、温泉は全く別の効能や楽しみを与えてくれるものです。温泉に入ったら、香り、色、肌触り、五感を駆使してその魅力を体感してほしいんです」
そんな藤田さんに、温泉が好きになったきっかけを伺った。

温泉の効能を実感する

国見温泉については、後に記事でも紹介している

国見温泉については、後に記事でも紹介している

藤田さんにとって初めての温泉体験は小学校の修学旅行のことだった。日光湯元温泉に行った藤田少年は、途中乗り物酔いに苦しみ、宿についてからも寝込んでしまった。散々な修学旅行となってしまったが、帰宅後はピタリと乗り物酔いはしなくなったという。これが「温泉の効能?」と感じた初体験。

その後、家族旅行で訪れたのが岩手県の国見温泉。胃腸が弱い藤田さんが、本を読んで胃腸に効能があると知って選んだ温泉だった。
そのときは一泊をしただけで驚く程食欲が回復してしまったそうだ。

読み込んだのは「全国温泉ガイド200選」大石真人著。昭和55年発行された本で、著者の大石さんは藤田さんにとって心の師匠となる。家族旅行で国見温泉を選んだのも、この本を読んで決めたこと

読み込んだのは「全国温泉ガイド200選」大石真人著。昭和55年発行された本で、著者の大石さんは藤田さんにとって心の師匠となる。家族旅行で国見温泉を選んだのも、この本を読んで決めたこと

「通常七日一回りと言って、7日を1単位として3単位、3週間ほど湯治場にいなければ温泉の効果はないと言われていますから、1泊で効果があったというのはよほど幸運だったのでしょうね」と笑うが、とにもかくにも温泉の不思議な力を実感することが温泉好きの原点となったのは間違いない。温泉の魅力にはまった藤田さんは、片っ端から温泉に関する本を読みあさり、知識を増やしていく。

溜め込んだ豊富な知識を武器にテレビチャンピオンに出て3位に入賞。自分が感じる「温泉への思い」と同じ思いを感じる人がいることを知る。そしてまた、温泉通のトップの人と自分との距離がそれほど遠くないことも。

その後、温泉検定で全国1位となり翌年には連覇。今や押しも押されぬ温泉通のひとりとなった。

藤田流温泉の楽しみ方

藤田さんは、平日はサラリーマンとして働き、週末に近郊の温泉を奥様と巡っている。毎週温泉地に通うとは、ずいぶん優雅な身分かと思いきや、車移動で日帰りが基本。泊りがけなら10ヶ所ほど回るとか。車のヘッドレストや後部座席でタオルを乾かしながら、次なる温泉を目指す。

「温泉って泊りがけしか楽しめないと思いがち。でも実は、日帰りで楽しめるんですよ。私もそれがわかったときには、もっともっとたくさんの温泉に行けるとうれしくなりました」。

温泉は、極上の気分を味わえる豊かな趣味だが、決してお金が必要以上に掛かるわけではないと藤田さんは語る。
「実は3万円払っても惜しくはないと思えるようなすばらしい名湯が、1000円前後といった安い料金で入れたりするわけです。それは温泉を正しく評価する目が世の中に育っていないから安く楽しめてしまうという側面があるのですが……」と痛し痒しといった表情を見せる。

温泉で写真を撮る時には、カメラのストラップが濡れないように、タオルにかけて。アントニオ猪木のようなので「ダータオル」と命名。「ダータオル」は温泉の成分がシミにならないよう赤いタオルを使用している

温泉で写真を撮る時には、カメラのストラップが濡れないように、タオルにかけて。アントニオ猪木のようなので「ダータオル」と命名。「ダータオル」は温泉の成分がシミにならないよう赤いタオルを使用している

そんな藤田さんの温泉ガイドならではの温泉の入り方を伺った。
まず浴室全体に温泉臭が充満している場合には、その香りを楽しむ。ていねいに掛け湯をして体を慣らしつつ、お湯の感触を味わう。
お風呂全体を眺め、温泉の特徴を集中して観察。湯の香り、温泉の湯量が多いか、湯花が多いか、お湯は白濁しているか無色透明なのか、喫水線のお湯が触れているところに成分が溜まっているか? など、一瞬のうちに事前に調べ上げている情報と目の前の事象が合致するか再確認。

「いろいろな特徴があると、もう見ただけでうれしくなってしまって、心を込めて味あわなければと思ってしまいますよ」ととてもうれしそうに語る。

風呂に入るときは、必ず湯尻から。湯口とは源泉が出ているところ。湯尻とはお湯が流れていくところ。湯尻から入って、そろそろと湯口に近づいていき、泡のつき方は違うのかどうかといった湯尻と湯口の湯の違いを感じとる。湯尻と湯口の湯に違いが少なければ、湯船全体の湯がフレッシュに保たれている証拠で、喜びが増すという。

日帰りで楽しめる温泉を知ったきっかけになった雑誌

日帰りで楽しめる温泉を知ったきっかけになった雑誌

いい温泉が出る地域では、その地域だけでも何ヶ所かの温泉に入り、源泉の違いを確認するというから、そのこだわりは相当なものだ。
そこまでこだわらない我々は、どう楽しんだらよいだろうか。

「日帰りや一泊では、『美肌』や『胃腸に効果』といった効能の恩恵を充分に受けることはできないかもしれませんが、『温泉の泉質』を楽しんでください」と藤田さん。

「硫黄臭がする、白濁している、すべすべするとか泡がつくなど、水道水との違いをぜひ感じてほしいですね。温泉の表示に頼ることなく、自分自身の感覚で自分の好みを知り、楽しめばいいのではないでしょうか」

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