Human dept. スゴイ人、そろってます。

「その道のプロ」のルーツを探る ガイドの原点−origin-

vol.049

子どもの命を守り、育むのが大人の責任。
制度を理解し、環境を整え「それは本当に
子どものためになっているのか」を問いかけていきたい

ある時は保育系ルポルタージュの旗手として闇の中の真実を暴き出す気鋭のジャーナリストであり翻訳家。ある時は4児を育てる肝っ玉母さん。ある時はピアノを愛する趣味人。さらに准教授であり学生。いろいろな顔を持つ猪熊さんのブレない芯について伺った。

「子育て」ガイド 猪熊 弘子

文/宗像陽子 写真/須藤明子

携帯は、仕事と家庭用で使い分けている。子どもとの連絡用の携帯(右)には子どもが好きなキャラクターをつけて

携帯は、仕事と家庭用で使い分けている。子どもとの連絡用の携帯(右)には子どもが好きなキャラクターをつけて

「ママ友」は、子どものためのサポートチームであれ

猪熊さんによれば、娘ふたりの子育ての時代は、そこそこラクだったらしい。

「あのままだったら『子育てって、ちゃんとやっていればそれほど大変なことではありませんよ』なんて言う嫌な奴になっていたかもしれません(笑)」。

ところがその後双子の男の子が産まれ、状況は一変。子育ての大変さをイヤというほど味わうことになる。
「パッと違う方向に走り去ろうとする双子を間一髪で同時に腕をとる『双子の真剣白刃取り』ができるようになったのよ」と笑う。

そんなエピソードも今では笑って話せるが、上に二人の子がいるところに双子の男の子を抱え、子どもの送り迎えや家事、洗濯などの負担が急増。双子はオムツやミルクも2倍、重さも2倍。一人の子育てとは全く違い、どうしていいかわからないと途方に暮れた時期もあった。そんなとき、頼りになったのは、インターネットの存在だった。

双子を持つ親のサイトを読んで、目の前の問題が瞬時に解決したり、双子を育てている他のママたちに知り合うこともできた。
「引きこもっていても、インターネットが通じていればなんとかなるというのが現代の子育て。自分も経験してきて、現代はインターネットの位置づけがすごく重要だと思います」

だから、最近のベビーシッター事件(注)に象徴されるようなインターネットを使った事件について、安易に批判はできない。批判をするのは簡単だが、ことはそう単純ではないと思うからだ。

では、ママ友付き合いの記事も多い猪熊さんは、ママ友トラブルなどの問題はどう感じているのだろうか。猪熊さんはちょっと考えて言葉を選びながら「ママ友同士がお互いを『子どものためによりよい環境を整えていくチーム!』くらいの意識になっていければいいんですけれどね」と語った。

「わが子のことだけを考えていると、おかしなことになっていく。ママ友問題のほとんどはそこに起因するんじゃないかしら」とも。
真実を鋭く追求するジャーナリストの一面と母親目線の記事は、一見かけ離れているようにも見える。けれども、「子どものためになっているか?」という視点と思いは一貫している。

「親の考え方は様々。その親のライフスタイルに合わせて子どもをのびのび育てられることが大事ですね。一方、保育園や幼稚園は、子どもの個性を尊重しつつ、親子にとって居心地のよい場所であることを常に目指さなければいけない。単なる見た目重視のサービスでもいけない。『子どものためになっているか』ということを常に念頭に置くと、親も保育者もブレないのではないでしょうか」と猪熊さんは言う。

(注)2014年3月ベビーシッターサービスサイトを利用して預けられた幼児が死亡した事件。

ただ今練習中のピアノの楽譜。先生からは常に4曲課題が出る。ソロのほかに連弾のレッスンも。家にはアップライトとグランドの2台を置く。ピアノを弾くと夢中になることができ、リラックス効果は抜群

ただ今練習中のピアノの楽譜。先生からは常に4曲課題が出る。ソロのほかに連弾のレッスンも。家にはアップライトとグランドの2台を置く。ピアノを弾くと夢中になることができ、リラックス効果は抜群

「ピアノ」が大好き!

猪熊さんのお子さんは現在、高校3年、中学3年の女子、小学校4年男子の双子ちゃんの4人。ほんのちょっぴり子育てもラクになった。

娘2人といるときは、「女子寮状態」。おしゃべりに花が咲き、同志のような関係だ。

4人の子どもといるときは「全員の話を同時に聞きとる聖徳太子のような技も会得したの」という。お子さんの話をするときの猪熊さんはとっても楽しそうだ。

趣味はピアノ。全国を飛び回り、超多忙な猪熊さんにとってなかなか練習をする暇がないのが悩みの種だが、演奏だけではなく「ピアノ」そのものも大好きなのだそう。全国に取材に行くたびに街一番の楽器店に飛び込んではピアノをチェックし、すごい職人や調律師がいると聞けば飛んでいってインタビューしてしまう。取材先の幼稚園や保育園でもまずピアノをチェックして、鍵盤をなでてしまうほど。

調べれば調べるほど奥深いピアノの世界に魅入られているそうだ。

miumiuのバッグは長年使っているお気に入り。愛用のMacbookAirを入れて持ち歩く

miumiuのバッグは長年使っているお気に入り。愛用のMacbookAirを入れて持ち歩く

「そろそろ、ピアノについてひそかに書き溜めたものをまとめたい。できれば子ども向けの本にしたいんです」とこっそり教えてくれた。

ただしその前にまだやることがありそう。
「来年度2015年4月から『子ども・子育て新支援制度』が導入されます。幼稚園や保育園の利用方法がガラっと変わるの。大変なことになっちゃう。今、どうやって保活をしたらいいのかシミュレーションしているけれど、一番いい方法が全然みつからないの」。そう言って、次の取材場所へと足早に去って行った。

猪熊さんが「ピアノについての本」をのんびりと執筆する日までには、まだ時間がかかりそうである。

cover.jpg
近著 【「子育て」という政治】

2014年7月に出版された「『子育て』という政治」(角川SSC新書)では、「子育て」が最も政治に近いこと、「子どもは未来そのもの。誰もが『この国をどうしていくのか』を考えるべきだ」と訴える。

All About「子育て」ガイド 猪熊 弘子

ジャーナリスト。東京都市大学人間科学部客員准教授。
保育・教育、子どもの問題、施策を主なテーマに、執筆・翻訳のほか、テレビ・ラジオのコメンテーターや講演も行なう。4児の母。著書多数。『死を招いた保育』(ひとなる書房)で日本保育学会 日私幼賞・保育学文献賞受賞。

ガイドのお気に入りの記事

「子ども・子育て支援新制度」ってどんな制度?
2015年度から変わる「子ども・子育て支援制度」について、まだ知らない人も多いのでは?
特に大きく変わるのが、幼稚園や保育園の利用方法。来年4月に入園・入所を希望している人は、今からこの制度についてよく知っておくことが、「保活」に乗り遅れないためにはとても重要!こういう制度が知らないうちにどんどん決まるのも「政治」の怖いところ。もはや、知らんぷりではいられませんよ。みなさん。

「主食弁当」を楽にする工夫とは?
保育園によっては3歳児が毎日主食だけお弁当を持っていかなくてはいけないところがあります。1合炊いても余る家庭だってあるのに…。そこで編み出した裏ワザがこちらです。

「待機児童」はなぜ生まれるの?
なぜ少子化で子どもが減っているのに、待機児童は減らないんでしょうか。
15年も前から待機児童問題に取り組んできたのには、自分の子どもも待機児童になってとても困った経験があるから。これはもはや子育て世代だけの問題ではありません。「『子育て』という政治」にも詳しく書きましたので、ぜひ読んでください。


Previous

Info

All About Human dept.とは、「人」にフォーカスし、人間が持つおもしろさを追求するウェブメディアです。様々な分野から、自分のスタイルを持ち、第一線で活躍している「その道のプロ」たちをご紹介します。