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「その道のプロ」のルーツを探る ガイドの原点−origin-

vol.049

子どもの命を守り、育むのが大人の責任。
制度を理解し、環境を整え「それは本当に
子どものためになっているのか」を問いかけていきたい

ある時は保育系ルポルタージュの旗手として闇の中の真実を暴き出す気鋭のジャーナリストであり翻訳家。ある時は4児を育てる肝っ玉母さん。ある時はピアノを愛する趣味人。さらに准教授であり学生。いろいろな顔を持つ猪熊さんのブレない芯について伺った。

「子育て」ガイド 猪熊 弘子

文/宗像陽子 写真/須藤明子

All About「子育て」ガイド 猪熊弘子

ノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏の自伝の翻訳を手がけた書(左)。上尾保育所事件について書いた「死を招いた保育」(中)と東日本大震災の被災地での幼稚園、保育園について書いた「命を預かる保育者の子どもを守る防災BOOK」(右)。ほかにも子どもや子育て、女性や家族の問題について、多くの本を書いている

保育に詳しいジャーナリストとして

猪熊さんは、保育・育児に詳しいジャーナリストで、その著作は丹念な取材と膨大な資料の読み込みによる事実の裏付けによって書かれ、いずれも高い評価を受けている。

大学では英文科に属し、本人いわく「ほわほわした女子大生だった」とのこと。

ジャーナリスト人生は、今でいう学生記者の先がけからスタート、主に朝日新聞系雑誌などで記事を書くようになった。大学卒業後は教員になったが、記者に復帰。

その後、結婚・出産を経て、朝日新聞の『AERA with Baby』の創刊より編集者として関わり、次第に保育・教育関係の記事を多く手がけるようになる。

そのきっかけとなったのが「ちびっこ園新宿西口園」での死亡事故だった。2001年に、「ちびっこ園」という24時間の認可外保育所で、ひとつのベッドに寝かされていた4カ月の赤ちゃんが8カ月の赤ちゃんの下敷きになって死亡した痛ましい事件である。猪熊さんは、現在1996年生まれの長女を筆頭に4人のお子さんを持つ母親であり、当時も幼な子二人を保育園に預けて働いていたから、この事件には大きなショックを受けた。

さらに2005年には、公立保育園で4歳の男の子が本棚の下の引き戸の中に入り、熱中症で亡くなる「上尾保育所事件」が起こる。

「バイバイ」と手を振って別れたわが子が、その数時間後に、安全と思われていた保育所内で死亡する。本当に偶然の事故なのか、なぜわが子は亡くなったのか。

All About「子育て」ガイド 猪熊 弘子

今、大学院の博士課程前期で、保育や福祉について学ぶ学生でもある。「すごく勉強になりますねえ、学生のころはちっとも勉強しなかったけれど(笑)」

両親の心の叫びは、同時に猪熊さんの心の叫びでもあり、日本中の子どもを預けて働く親の気持ちであったろう。山のような裁判の資料を読み込み、関係者へ丁寧な取材を経て書き上げたのが「死を招いた保育〜上尾保育所事件の真相」(ひとなる書房)である。

この本は、日本保育学会で「日私幼賞・保育学文献賞」を受賞し、今多くの保育現場で研修資料として読まれている。
大きな災害の中でも保育者に守られて助かった命がある(「命を預かる保育者の子どもを守る防災BOOK」に詳しい)、一方で安全なはずの施設にいながら落とした命もある。

「子どもの命を守る」ということ。保育者にとって、親にとって、これほど大切なことはないのだというメッセージを、猪熊さんの著作の数々から強く感じることができる。

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