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「その道のプロ」のルーツを探る ガイドの原点−origin-

vol.031

本物の良さを伝えたい。モノを大切にすることで、ヒトも社会も変わっていく

椅子やテーブルの紹介だけではない。石川さんのガイド記事は、椅子やテーブルがある空間そのものを切り取る。「椅子だけではない。時計だって、ファニチャーそのもの」。本物を見極める目を育てた、その原点を探る

「ファニチャー」ガイド 石川 尚

文/むなかたようこ 写真/平林直己

欲しいものは、真似て自分で作る

大分市内の木造の市営住宅。それが石川さんの生まれ育ったところだ。
生まれたのは昭和30年代の初め。戦争はとっくに終わっていたものの、まだまだ高度成長期の前のこと。地方都市は牧歌的で平和ではあるけれど、あふれるほどのモノはなかった。

何かにつけ大雑把で合理的だった父に反発したことも。しかし父は引退後すべての仕事をやめて能面を彫り始めた。その時初めて、自分たちを育てるために父が多くのことを犠牲にしてきたことを知った。

石川さんの家は、土建業を営む父親が「雨露しのげればいい」と大雑把に改造をした家だった。しかし友達の家に行ってみると、自分の家にないものがある。たとえば素敵な応接間であったり、白い壁だったり、ステレオだったり…。うらやましい。そんな時にはじっくり観察して、真似をして作れるものは作る。
友達の家には立派なステレオがあれば、ベニヤ板で枠を作りレコードプレーヤーを覆い、ステレオのように見える箱を作った。

事務所に飾られているミニチュアの椅子も実は名作椅子をペーパークラフトで作ったもの。とことん観察して分解して作る流儀は、小学生のときのままだ。

流行りのサンダーバードのプラモデルも、1号から5号まで揃えたいけれども叶わない。当時は、プラモデルを買ってもらえるのはお年玉か誕生日くらいだったから、「1号から5号までそろえるのに5年かかっちゃうよ」と石川少年が思ったのも無理はない。

少年は、設計図を書き、組立もして、1号から5号までペーパークラフトで作ってしまった。もちろん録画機能のテレビもないから、じっとテレビ画面を見て覚えて作ったという。

「でもね。僕が特別なわけじゃないよ。昔はみんなそんな経験をしていると思う。自分の環境の中で違うものを見ると『あれ、いいなあ。どうやったらできるかなあ。』と思う。自分の環境を変えることはできないから、まず真似をして作ったんだね。それが将来につながるかどうかは、何かきっかけがあるんだろうね。」

まずは真似て作るという方法は今でも石川さんの流儀。現在専門学校で教鞭をふるうが、名作の椅子を分解しペーパークラフトやミニチュアモデルを作って、一から実物大の椅子を再現製作するという授業を長年続けているそうだ。

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