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「その道のプロ」のルーツを探る ガイドの原点−origin-

vol.010

美味しさだけではない
パンがもっている豊かさを伝えたい

美味しいパン屋さんの情報は巷にあふれている。しかし、清水美穂子氏が綴るパンの記事はそんな情報から一線を画している。なぜパンの美味しさだけを伝えることにとどまらなかったのか、パンというテーマにどのように向き合っているのか――その原点と原動力を聞く。

「パン」ガイド 清水 美穂子

文/藤原ゆみ 写真/金田邦男

6月某日、ベーカリーショップ「シニフィアン・シニフィエ」の店内にて、シェフ志賀勝栄氏を前に、清水さんはガイドを始めた頃を振り返る。もともと物作りの仕事に興味があり、“職人”にスポットをあてたかったという清水さん。

何人かのパン職人の記事が掲載されている専門誌で志賀シェフのことを知った。実際に志賀氏シェフ焼くパンを食べ、その美味しさに感動し、その美味しさの向こう側にいる作り手のことを知りたいと思っていたという。そんな清水さんは志賀シェフを直撃し、取材を依頼する。のちにこの取材はAll Aboutの記事になった。

「初めてお会いしてから、もう10年以上経つんですね」とお互い笑う志賀シェフと清水さん。

「初めてお会いしてから、もう10年以上経つんですね」とお互い笑う志賀シェフと清水さん。

パン職人志賀勝栄氏との出会い

「志賀さんの焼くパンは、何が入っているというわけでもなく、シンプルでありながら美味しい。なぜこんなに美味しいんだろうと。この美味しさの裏側を知りたいと思ったんです。まだ、All Aboutも私の名もあまり知られていない頃で、声をかけるのには、正直、勇気が必要でした(笑)」と清水さんが話すと、志賀シェフも清水さんと初めて出会ったときを振り返ってこう話す。

「とてもよく勉強していらっしゃっていて、誠実な方だと思いました。何よりも取材して書いていただいた文章をみたら、直すところがあまりなかった。これはうれしかったですね。清水さんの記事は、余計な脚色もなく、こちらがこのぐらいで書いてほしいなと思っていたとおりの文章だったんです」

この志賀さんの評価が、清水さんのガイド記事のスタイルを変えた。

「ただ自分が思ったこと、志賀さんから教えていただいたことを書いただけだったんです。それなのに、志賀さんから『ちゃんと書いてもらった』とのお言葉をいただいて。それからは、お店の紹介と“美味しい”ということを書くだけではなく、どういう人が焼いていて、どういう気持ちで焼いていて、どんな素材を使って、それを使うとどういう味や食感になるのか、ということを、書いて伝えるのが楽しくなったんです」

取材に欠かせないノートと書き慣れたペン。志賀さんの言葉は、一言ももらさず書き留めたいという清水さん。

取材に欠かせないノートと書き慣れたペン。志賀さんの言葉は、一言ももらさず書き留めたいという清水さん。

探究心を刺激された長時間発酵バゲット

以来、志賀シェフを追い続けているという清水さん。独創的なパンを次々と作り出しているシェフから、目が離せないという。例えば、清水さんが2002年の記事にも書いている長時間発酵のバゲット。味が濃く香りも強い。

「これほどまでに職人の名前とともにそのバゲットが語られる例を他に知りません」と清水さんは言う。

「最初、なぜこのバゲットは甘いのだろうと思いました。もちろん理由がいくつかあって、そのひとつがイーストの量なんです」と清水さんが言うと、志賀シェフが続ける。「イーストの量を20分の1に抑えて、発酵時間をその分長くしたんです。イーストは小麦粉の糖を食べるので、そのイーストが少ない分、糖分が残ることになります」

発酵時間を長くしたことには他にも理由がある。パン職人の労働時間の短縮化だ。かつて志賀シェフは大量の注文をさばくために、帰る前に生地を仕込み、夜中に出勤していた。しかし、発酵時間を長くすれば、前日から生地を仕込み、翌日朝からパンを焼く準備にとりかかれるというわけだ。

「志賀さんの取り組まれていることは、一つ一つ奥が深いんです。私の"知りたい"という探究心を刺激してくれました。そんな私の問いに、志賀さんは丁寧にわかりやすく説明してくださるんです。おかげさまで、パンの素材や酵母の働きについて、たくさんのことを学びました」

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