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vol.018

ミシマ社・三島 邦弘×面白い仕事(後編)

今、「中心」から離れる意味
自由が丘と城陽にある出版社 ミシマ社

本を作る、仕事する、生きる。すべてにおいて大切なのは、「情報やブランドに頼るのではなく、“自分の感覚”に従うこと」だと語る。出版界の風雲児、三島邦弘さんが考える、これからのメディア、仕事のあり方、人とのつながりについて。

All About「恋愛」ガイド 芳麗さんがリスペクト

子供の頃から大好きで今も週数冊は購入する本。家に連れ帰った本のいくつかにミシマ社の文字がありました。多種多様だけれど、本らしい矜持のある本たち。三島さんの本作りに対する考え方――“原点回帰”“一冊入魂”が好きです。まさに、本の本質をとらえながら、時代にそっていると思います。

取材・文/芳麗 写真/三浦太輔

自由が丘駅から歩いて10分。地元の人でにぎわう駅前から、ゆるやかな坂を上った住宅街にミシマ社はある。およそ出版社とは思えない、古めかしい一軒家。庭には緑がワイルドに茂り、部屋に木漏れ陽が差し込んでくる。この場所で、数々の“入魂の一冊”が生まれた。

――……我のない会社?

ええ。もっとも重要なのは、作った本を読者の方が面白いと思ってくれるかどうかですよね。それには、ミシマ社がブランド化する必要はない。「あの本は、ミシマ社のブランドとしていいよね」っていう言い方は、とても自己満足的です。どこの出版社だなんて関係ない。読者の方に面白いと思ってもらえないと意味がない。だから、フォロワーの数を競い合うようなことをしても、受験勉強の偏差値争いなんかと何も変わってないと思う。……って言い過ぎかな(笑)

頑張るほど、パワーが湧いてくる働き方

――とても大事で本質的なことだと思います。情報に溺れて、ブランド主義になっているから、仕事だけでなく、恋愛とか結婚も難しくなっているのかなって感じます。子供の頃から、受験戦争とか情報と競争社会の中で呼吸しているので、その空気から抜け出せない人も多いんでしょうけど。

僕はそうじゃないから分からないんです。情報の処理が得意じゃないし、情報はできるだけ欲しくない(笑)。記号的な情報は消費社会の産物だと思いますし、それに乗りすぎると、自分までも消費されてしまう。頑張っていても元気がなくなってしまう。なんてことになりかねない。

ほんとは、がんばればがんばるほど、元気になっていく、パワーが湧いてくる。そういう循環で働くほうが楽しいはずです。で、そうなるには、自分の感覚をオープンにしつつ、残っていくものをつくろうと志向する。そうするほうがいいと思っています。たしかにそれだと瞬間的なお金を生まないかもしれませんが、根本的な生命力のようなものは高まるのではないか、と感じています。

三島 邦弘

――それこそ、自分の感覚を大切にすれば、もっと本質に近づくし、人間関係や人生も面白くなるんでしょうね。

人間を記号化してそれを集積しても、それは実はアバターに過ぎず、その人そのものではない。 “氷山の一角”って言いますけど、記号化されているものは、その人のほんの一部。水面下の大きい部分が大事ですから。もっと、根っこの部分で惹かれあわないと、なんであっても、おもしろくならないですよね。

――本当におっしゃる通りだと思います。

編集者としての氷山は“作品”です。その作品を生み出した著者の根っこを感じ取れないと仕事ができない。一角だけを見るのではなく、著者の深部に潜って氷山全体をつかみとる息の深さが必要なんです。

大物の著者になるほど、こちらにも体力や経験が求められる。著者の感覚を最大限に生かして書いてもらいたいから、「今、こういうのが売れているから、こういう設定と雰囲気で書いてください」なんて指示は当然のこと、通用しません。そういうマーケティングやシステム優先で本づくりをしていったら、書き手の方が最終的にロボットになってしまい、その人が書かなくてもいいものになってしまう。
出版は、そっちにだけは向かってはいけないと思ってます。

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