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落語の高座を舞台に変える「柳家さん喬」

私見ですが今、一番脂が乗り切ってる噺家の一人が「柳家さん喬(きょう)」です。噺の上手さも一品ですが、私はこの人の高座での立ち振る舞いの美しさにベタ惚れです。

執筆者:清水 篤司

舞台役者のように美しい柳家さん喬(きょう)の高座姿

柳家さん喬の世界を堪能できる『唐茄子屋政談』。1時間の長講ゆえじっくりお聴きください。
柳家さん喬は名門・柳家を、いや今後の落語界を芸の美しさで引っ張る噺家の一人です。

柳家さん喬を一度でも高座で見たことのある人はお気づきでしょうが、この人の特筆すべき魅力のひとつが高座の美しさです。別に容姿端麗の美男子だと言っているわけではありません。美男子かどうかは実物をご覧ください。出囃子と共にゆっくりと下手から綺麗な姿勢で歩いてきて、座布団に折り目正しく座り、深々とお辞儀をし、ピンっとした姿勢で前を向き落語を始める。

そして、噺をしている最中も指を揃えて手を膝の上にキチンと置く。一見その折り目正しい仕草が堅っ苦しく見えがちですが、全てが自然に振舞っているので心地よく感じられ、「行儀のよい」ことが日本人にとって最大の美徳だということを改めて教えてくれます。この仕草を見るだけで気持ちがよくなり、ちょっと得した気分になります。

映画を越える柳家さん喬の人情噺

今、一番脂が乗っている噺家の一人ゆえ、どの落語を聞いても素晴らしいのですが、柳家さん喬の落語を聴くならやっぱり人情噺ですね。

人情噺はほとんどが30分以上の長講ゆえ、独演会や寄席の特別公演などでしか聴けませんが、そのような機会があればぜひ、一度たっぷりと柳家さん喬の人情噺を味わっていただきたい。なぜなら人情噺でこそ、この人の話芸のすごさが痛感できるからです。

以前、柳家さん喬の『福禄寿』を某落語会で観ているとき、噺の中で雪が深々と降るくだりがありました。私はそのくだりを聴いた瞬間に舞台が暗転して天井から雪がチラつく錯覚に陥りました。この人の落語は良質の演劇や映画のワンシーンを思い起こさせるような力があり、こちらの想像力を常に刺激してくれます。一度、さん喬の世界に引きずりこまれたら一席終わるまで、その世界から帰ってこられません。

「近頃なんか心に染みるようなエンターテイメントを体験していないなぁ」とお嘆きのあなた、柳家さん喬の人情噺をお勧めします。厚手のハンカチもお忘れなく。

噺家としてだけでなく芸人として、もっと評価されるべき存在

最近やっとCDが販売されるようになり、気軽にさん喬の世界を堪能できるようになりましたので、まずは柳家さん喬のCDをお聞きください。

最後に、落語通の中では評価の高い噺家ですが、個人的には芸能全般からもっと評価されてもいい芸人の一人だと思います。しかし、この人は落語一筋、噺家にとって高座がすべてだという強い信念を持っているようです。ゆえに対外的なことに関して淡白で、今もってホームページがないし、書籍も刊行したことがないはずです。そのために、話題性が乏しいのか、メディア等が柳家さん喬を取り上げにくいことを考えると、残念でなりません。でも、そのことがこの人らしいといえばそうなのですが。

また師匠として、柳家喬太郎はじめ数多くの優秀な弟子を輩出しており、一噺家としてだけでなく指導者としての力量も確かなものがあり、今後も目の離せない落語家の一人です。
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