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人と動物の絆を考えた伴侶動物の医療とは

9月21~23日に行われた第9回JBVP年次大会2007の講演から、『「人と動物の絆」を中心とした伴侶動物医療とは?』『腎不全の自宅介護について-ご家族と獣医師が力をあわせて-』をご紹介。

岩田 麻美子

執筆者:岩田 麻美子

ネコガイド

日本臨床獣医学フォーラム代表
石田 卓夫先生

今年も9月21~23日にホテルニューオータニで開催された、日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)主催・第9回日本臨床獣医学フォーラム年次大会2007に行ってきました。
今回の記事は
『「人と動物の絆」を中心とした伴侶動物医療とは?』
『HAB(人と動物の絆)シンポジウム「腎不全の自宅介護について-ご家族と獣医師が力をあわせて-」』の2つの講演の中で特に印象に残ったお話しをご紹介します。
※参考資料:第9回日本臨床獣医学フォーラム 2007年年次大会 プロシーディングVol.9-2

『「人と動物の絆」を中心とした伴侶動物医療とは?』
:赤坂動物病院 石田 卓夫先生

■絆を大切にする医療:Bond-Centered Practice
 ・同じ診断名でも病態は様々だから、病態によって治療法は異なる。
 ・動物とその家族の関係もそれぞれに異なる。
  →その動物と家族の絆に最適な治療を見つけなければならない。
  →同じ病気で来院した動物を全て同じ方法で治療することはできない 。

絆を大切にする医療では
 ・家族の性格
 ・動物の性格
 ・家族と動物との密着度
 ・動物の状態
を的確に把握して、その家族と動物の組み合わせに最良の治療法を探す。
そして、絆が維持できるように最大限の努力を払う。
絆を大切にする医療では、カスタマイズしたテーラーメイドの医療が必要。

なんで死んだのかわからない、ということも家族にとっては苦しみの原因となるので、正しい診断をつけなければならない。
動物が苦しむことも避けなければならない→生活の質を維持する治療も必要。

■QOL(クォリティ オブ ライフ)
もし、がんのような完治が難しい病気であっても、正しく診断し、治療する必要がある。
 ・治療不可能な病気でもケアを行って欲しい、というのがクライアントのニーズだから、それに応える努力をする。
そして
 ・完治ができなくても、家に帰って普通の生活がおくれる。
 ・美味しそうに食事ができる。
 ・普通の活動性や通常の元気があって、明るい顔で家族との愛情交換ができる。
これを目指して我々は努力する。
この期間ができるだけ長いものであれば、絆を大切にする医療は目的を達していると言える。
 ・例えば退院して1年生きられたとしたら、動物にとっての1年は4~5年に相当するので、治療としては成功といって良い。
 ・(獣医師と家族が)できることを全部やった、最善を尽くした、という美しい絆が人の心に残るようにしなければならない。

■インフォームドコンセントの大切さ
入院させて治療した方が効果的かもしれない。
教科書に書いてあるエビデンスが一番効果が高いかも知れない。
しかし、それがこの症例に対して、絆を考えた治療に対して一番よいものかどうか、判断しなければならない。
教科書に書いてあることは、参考であって、絶対ではない。

家族にとって一番よい形を、家族との対話から探っていく。
金額的なことや、入院が必要か?不必要か?
獣医師が治療のプランを考えて、オプションを提示して、家族が十分な情報を得た上で判断してもらう。

それでも決めかねているときは、こちらの方がよいと思いますよ、とアドバイスを出して、そのやりとりの中で治療方針を決めていく。

伴侶動物医療は小児科医療と同じで、本来は患者とドクターの間で交わされる話し合いは、家族(保護者)と獣医師で行われる。
保護者とインフォームドコンセント(説明と同意)を行い、保護者の同意を得る。

■究極的に動物医療の目標は動物の満足
動物の満足はなにか?といえば、苦痛からの解放。
そして、それが保護者にとっても満足でなければいけない。
そのために、保護者とコミュニケーションを図る。
獣医師と家族が共に考えながら、最良の治療法を模索する過程が「絆を大切にした」医療の基本である。

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次にご紹介するのは、石田先生のお話にある「絆」を考慮された治療記録の紹介(症例発表)です。
腎臓疾患は猫という動物にとっては宿命的な病気の代表かも知れません。
若くしてもなり得ますが、老猫になるとほとんどの猫が慢性的な腎疾患を抱えやすくなります。
その時に、同居人は猫の保護者として、どのような治療を選択できるでしょうか?
できれば、これからあなたと猫さんが出会う獣医師が、今回のように、きちんと治療方針を相談してくださる先生であることを望みます。
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『HAB(人と動物の絆)シンポジウム「腎不全の自宅介護について-ご家族と獣医師が力をあわせて-」』
:とだ動物病院 戸田功先生

■腎不全の治療プラン
1.治療方法
 ・内服薬・皮下輸液・通院もしくは入院しての点滴、腹膜透析など。

2.治療プランが猫の性格に合っているか?
 ・その猫にとって入院することの方がストレスとなるか?

3.家族の治療に対する取り組み方は?
 ・通院する時間と手間と費用がかけられるか?
 ・積極的に治したいのか?治したくないのか?
 ・手間と時間とお金をかけて、治るものなら治してあげたいと思う家族が多くても、治りにくい病気の時はどの方法がよいのか決めることが難しい。

その上で
○病院に入院し治療を受ける→病気の回復を第一に考えた治療法
  →腎不全の末期であれば非常に危ない状態なので、入院させ積極的に治療を行わないと回復が望めない。
利点:持続的に点滴を続けることができ、早急に水分や栄養の補給できる。
欠点:点滴には時間がかかるので、重傷の場合数日以上治療を継続する必要がある。猫の血管は細く、使える血管が限られているので、長期に渡って使うことが難しい。費用が高額になる。

○通院して、点滴を受ける
利点:重症の患者でも、夜間は自宅に帰ることができ、家族と一緒に自分の家で休める。
欠点:重傷の場合には治療効果が不十分な場合もある。朝夕の送迎が必要。費用的には入院とあまり変わらない。

○自宅で皮下輸液を行い自宅で介護する(家族と猫の気持ちを優先した治療)
利点:費用が安く済む。
重症の場合は、治すことができなくても、水分栄養を与えることができ、延命処置として使える。家の人が介護をした、という気持ちになれる。皮下輸液の方法は比較的簡単で、大抵の猫はさほど嫌がらずに注射することができる。
欠点:一度に大量の輸液を行うことができない。
脱水がひどいときは回復に時間がかかる。
重度の腎不全や尿毒症の場合は、治療効果が不十分。
中には注射を嫌がる猫もいる。

ここでは、入院して治療を優先させた症例、通院で治療を続けた症例、自宅介護で治療を行った症例、という3例の腎不全の猫の症例が発表されました。
それぞれのどの場合も、患者猫の年齢や性格、家族の希望などが徹底的に話し合われ、治療プランが立てられました。症状の段階によっては、その都度治療プランの変更が検討されました。最終的に治療のかいなく猫が亡くなった症例もありましたが、どのご家族(飼い主)も、納得できるお見送りができたそうです。

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■参考リンク
日本臨床獣医学フォーラム
赤坂動物病院
とだ動物病院


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