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皮膚病で動物病院を訪ねるとき(2ページ目)

臨床獣医学フォーラム05のレポート第2回は、「皮膚のトラブル」です。愛犬が皮膚病になって病院を訪ねるとき、飼い主はどんなことを獣医さんに伝えるべきか、その心得について聞きました。

執筆者:坂本 光里

いまさら聞けない皮膚病の基礎

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プロの獣医さんを対象に講演する岩崎先生
続いてもう一人、東京農工大教授の岩崎利郎先生による獣医師向けセミナー『いまさら聞けない皮膚と皮膚病の基礎知識』も拝聴してきました。こちらはプロの獣医さん向けということで、内容はグッと専門的になりますが、その一部だけをちょっとご紹介いたします。

岩崎先生が日常的な診療で出会う皮膚病はつぎの10種類とか。逆にいえば、これ以外のものは稀有な症例ということであり、生検などのつぎの検査段階にすすむ必要があるそうです。

1.ノミアレルギー性皮膚炎 2.疥癬
3.毛包虫症 4.皮膚糸状菌症
5.アトピー性皮膚炎 6.膿皮症
7.マラセチア皮膚炎 8.副腎皮質機能亢進症
9.甲状腺機能低下症 10.アロペシアX


岩崎先生が皮膚の専門医として、一般の開業医の先生たちにされた
アドバイスはつぎの3点でした。
(1)よく話を聞くこと(既往症、現病歴、家族の病歴など)
(2)皮膚の状態をよく見ること(病変の分布、皮疹の状態など)
(3)それが終わったら、こまかい検査にすすむこと
検査は、皮膚掻爬検査(スクレーピング)、押捺塗抹細胞診など


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前の斉藤先生の飼い主向けセミナーでも言われていましたが、こちらは獣医さん向けとあってとても具体的。岩崎先生は、とりわけ(1)の身体検査の重要性について強調されていました。そういえば、獣医さんの中には病変のある犬の皮膚にあまり触りたがらない人がいますよね。しかしそれでは的確な診断は下せない。病変部位はもちろん、リンパ節から粘膜、肝臓の状態などもよくチェックするようにと岩崎先生は言われていました。
また、皮疹の色や様相、かたさなどもしっかり触ってみることが肝心だそうです。よく見る(視診)、よく触る(触診)する獣医さんがよい皮膚病の先生ということですね。あなたの先生はどうですか?

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手間と時間と根気のいる検査

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身体検査がひととおりすんだら、スクレーピングと呼ばれる皮膚の掻爬検査、押捺塗抹試験、ウッド灯検査、一般的な血液検査などへとすすみます。スクレーピングは、犬の毛や角皮を採取して顕微鏡で見るもの。これによって疥癬(かいせん)や毛包虫(ニキビダニ)、皮膚糸状菌などの存在がわかります。先生は、これもまた「非常に有効で不可欠な検査」と言われていました。

さらに、押捺塗抹検査というのは、患部(紅斑部)にスライドガラスを直接押しつけて付着したものを顕微鏡で見るというもの。これでマラセチアや細菌の増殖の度合いがわかるそうです。同じやり方で、膿庖からは細菌や棘融解細胞、瘻管からは細菌やマクロファージ、好中球などの存在の有無がわかります。

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じつにわかりやすい話ですが、問題はこれだけ手間と時間のかかる検査を町の動物病院できちんとやってくれるところがどれだけあるか。正直、やや疑問という感じではないでしょうか?
こんな手間のかかることは省略して「かゆがっているからステロイドを、すこし膿んでいるようだから抗生物質も出しておきましょう」というところが多いのではないでしょうか。岩崎先生によれば、何よりも細菌性のものであるかどうかの見極めが大切で、確定診断をつけないうちに「ステロイドと抗生物質を併用することはしない」のが原則だそうです。

皮膚病は治らない?

なお、岩崎先生によれば、最近どこの動物病院でもやりたがるアレルギー検査について、ほとんどが擬陽性になって混乱するばかりなので、とくに「突出した」ものだけに絞って対処するべきだと言われていました。

先生の大学では、アレルゲンそのものをごく微量、繰り返し注射することで反応をやわらげていく減感作療法というのも取り入れてやっておられるとのことです。だけど、定期的に注射を打ちに通院させなければならないということですから、これは限られた飼い主さんにしかできませんよね。
いっぽう、わたしたちが何かと気にする食物アレルギーについては、「本物の食物アレルギーはごくごく少数」とのことで、おもに疑わしいものを抜いた形でひとつずつ検証的に食べさせ、その子にとっての最良の食事を決めていくというやり方で対応されているそうです。

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タレント性抜群の岩崎先生のお話は実演付き

岩崎先生は、最後にこうも言われていました。
「こうまでしていろいろ調べて確定診断に達しても、なかなか治らないのが皮膚病です。また、いったん収まっても再発するケースが多い。皮膚病とは一生つきあっていかなければならないものだということを、飼い主さんによく説明してあげてください」(岩崎先生)

なるほど、皮膚病のスペシャリストの先生2人のお話に共通するのは「皮膚病は治りにくい」ということでした。しかしもちろん、完治できないからといって放っておいてよいというものではありません。
愛犬たちは現実に苦しんでいるわけだし、飼い主たちもそれをとっても気に病んでいるのですから。ともあれ、なにより肝心なのは、まず飼い主がしっかり病気と向きあって、前向きに気長にこれと取り組んでいくということでしょう。

臨床獣医学フォーラム05・レポート【1】
「問題行動、あなたならどうする?」


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※ペットは、種類や体格(体重、サイズ、成長)などにより個体差があります。記事内容は全ての個体へ一様に当てはまるわけではありません。

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