高山本線に入って……日本ラインが出現
高山本線は単線非電化路線だ。車両の上を覆う架線もなく、本線とは名ばかりのローカル線である。特急列車の本数は多いが電車ではなく、すべてディーゼルカーが使用されている。しばらくは雑然とした市街地を走るが、突然現れた満開の桜並木に車内は騒然となる。各務原(かかみがはら)市の市民公園に近い境川堤の桜で、この付近の桜の名所らしい。列車は停車することなく先を急ぐ。やがて開けた田園地帯が展開するが、意外にスピードは速い。
南側を付かず離れず並走していた名鉄電車と別れ、鵜沼を通過すると、右側にゆったりと流れる木曽川が見えてくる。大きく左にカーヴしながら国道と並んで川沿いに走るが、道路より一段高いところを走るので川の眺めがクルマに遮られることはない。このあたりは「日本ライン」と呼ばれる景勝地で、ドイツのライン河にあやかって命名されたものだ。しかし、彼の地の大型船も運航できる大河とは異なり、木曽川は奇岩がごつごつとばら撒かれたように点在する日本的な景色である。川下りも小さな舟であり、ラインとは似て非なるもの。名称は変だが、美しい車窓風景で、高山本線最初のビューポイントである。
木曽川と離れてしばらく田園地帯を快走すると、市街地にさしかかる。美濃加茂市だが、駅の名は美濃太田。長良川鉄道と太多(たいた)線の乗換駅で、「ひだ」は停車する。太多線は右手に分かれていくということで、右ばかり見ていたので、左手に停まっていたであろう長良川鉄道の車両に気づかず見逃してしまったのは悔しい。
飛騨川に沿って渓谷美を楽しむ
 |
| 下呂駅駅舎は和風の造りで、古くからの温泉地にふさわしい落着いた雰囲気だ。 |
太多線と分かれ、しばらく走ると右手に川が見えてくる。今度は木曽川の支流飛騨川だ。またしても川沿いに走るが、ちょっと離れたところを走るので、なかなか渓流を眺められない。川に架かる幾つもの橋で、その存在を確認するばかりだ。下麻生を過ぎる頃から、ようやく渓流を車窓から見ることができるようになる。両側から険しい山並が迫り、切り立った絶壁に囲まれて川が流れている。景勝地「飛水峡」の看板が対岸の山の斜面に見える。車内放送で右手を見るようにとの案内もある。カーテンで窓をふさいでいた女性客が眩しそうに外を見やり、それにつられる様に、欧米からと思しき外国人観光客グループが物珍しそうに車窓を眺めている。
これ以後、延々と続く飛騨川の眺めの、最初のビューポイントだが、この付近は過去に悲惨な観光バス転落事故が起きた場所でもある。対岸には、その国道41号線が崖っぷちを這うように走っている。
渓谷が続いたあとは、川にダムが造られ、せき止められて出来た人工湖がある。しばらく進むと、川は再びもとの姿に戻り、自然の渓谷となる。小さな駅を通過し、やがて初めて飛騨川を渡る。かなり高いところを渡るので、眼下の渓谷を覗き込むと中々迫力がある。トンネルに入り、抜けると駅でもないところで停車する。線路が複線になっているので、列車の行き違いのための信号場であろう。一本だけ咲き誇っている桜に見とれているうちに、高山方面からやって来た特急「ひだ」が名古屋方面へ駆け抜けていく。
遠ざかる山道。近づく下呂温泉
小休止の後、旅を再開。飛騨川を二回ほど渡って、今度は、川が左に移る。私の座っている場所からは遠めにしか川が見えないが、またしてもダムの人工湖を通り過ぎている。飛騨金山を過ぎ、中山七里と呼ばれる渓谷美で知られた名所に差しかかる。
 |
| 下呂駅のモニュメント。ホームに降り立っただけで、もうゆったりした温泉気分だ。 |
焼石を通過し、山並が少し遠ざかると、渓谷が穏やかな様相になってくる。列車は、いつしか再び右手に移ってきた飛騨川に沿ってのんびり走る。かなりの乗客が、荷物を棚から下ろし始める頃、車内放送があり、列車は、神戸の有馬温泉、群馬の草津温泉と並んで日本三名泉の一つと言われる下呂温泉の最寄り駅下呂(げろ)に到着する。名古屋からおよそ1時間40分の旅であった。
次回は、
下呂から高山を経て、富山までの旅をレポートする予定である。
<関連インデックス>
・
東海・北陸・近畿エリアのおすすめ鉄道旅行・
同じく、おすすめの特急列車はこちらから