防犯/防犯小説

女が夜道でつけられる時(前編)

女性が怯えるものに「夜道で見知らぬ男につけられること」というのがあります。誰にも助けてもらえない、逃げ場がない、そんな恐怖体験を持つ女性は多いのではないでしょうか。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

※この記事は、女性が遭いやすい夜道での出来事について書いてあります。文中の※注意点は、最終ページで解説しています。

いつもの帰宅路で

夜道を一人で歩く
夜道を一人で歩く
27歳の会社員・知美は残業を終えてやっとのことで自宅のある駅まで帰ってきた。混雑した下り電車では座ることができず、疲れていた。アルコールの混じった車内の人いきれに頭痛がするようだった。定期券を触れて改札口を出ると、駅前はほとんどの店がシャッターを下ろしていた。帰宅を急ぐ人の群れは散り散りになり、夜の空気がひんやりと肌に冷たい。

住宅街に向かう路地の入り口にコンビニエンスストアがある。いつものように店内に入ると、雑誌売り場で発売したばかりの女性誌を手に取ってみた。数人の男性が同じように立ち読みをしている。ふと何気なく顔を上げると、道路に面したガラスが外の暗闇に店内を映している。視線の先に一人の男が顔をそむけたのを見た。が、特に気にすることもなく、雑誌を読みふけり、結局買わないことにした※注意点1

その後、惣菜を2種類とおにぎりを一つ手にして、飲み物も1本カゴに入れた。朝食用にパンとヨーグルトドリンクも棚から取って、レジに向かった。店員が「お箸はいくつご入用ですか」と聞いてきたので、「あ、一膳でいいです」と答えた※2。店を出ると自宅への道を歩き出した。「ピンポンピンポ~ン」と、店の入り口のセンサーの音を後ろに聞いて、ガードレールのない細い通りを奥へと向かった。

駅からは何人かが同じ方向に歩いていたが、コンビニで時間を取ったので通りには誰も歩いていない。街灯が少なく、暗い感じがするが、いつもの道で慣れている。これまでに一度もコワイ目に遭ったこともない※3。住み始めてやがて2年になろうとしているが、静かな環境が気に入っている。こんな夜遅い時間には車も自転車もバイクも滅多に通らない。

しばらく歩いて、いつもなら振り返ることなどないのだが何気なく、本当に何の気なしにふと後ろを振り返った。思わずハッとして、コンビニの買い物を取り落としそうになった。すぐ背後に男が幽霊のようにのそりと立っていたのだ。こちらが立ち止まったのと同時に、男も立ち止まったようだった。まるで顔を見られまいとしているかのように斜めに下を向いている。足音がまったく聞こえなかったので、驚いてしまった。

だが、別に何がどうということも言えないので、すぐに前を向いて歩き出した。男が自分を(追い越して行ってくれればいいのに)と思ったが、その気配はない。特に早足になることもせず、ごく普通にそれまでと同じように歩いた。背後に男がついてきているのかどうか、後ろを向いて確かめることもできない。もし、単に方向が同じなだけだとしたら、こちらが騒ぐこともおかしいし、失礼だろう。

会社の同僚の男性が話していたことを思い出した。「夜道で女性とたまたま方向が同じだっただけで、別に何も悪いことをしていないのにまるでこっちが痴漢かのようににらんだり、走って逃げられると頭に来るよなぁ」と言っていた。男性の気持ちも分からないでもない。何もしていないのに騒がれたら、誰だってイヤになる。

だが、夜道ですぐ背後に見知らぬ男がいたときの女性の気持ちも分かって欲しいと思った。靴音も出さずにそばまで来るなんて、人を脅かすにもほどがある。さっさと追い越して行くか、角を曲がって欲しいものだ、と少しばかり怒りを感じながら歩いた。後ろにいるのかいないのか、見るのも実は恐い※4。じきに自宅のマンションも近づいてくる。


→フェイント p.2
→→注意点解説/あなたの一票/関連ガイド記事 p.3
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