学習・勉強法

「2021年度全国学力テスト」で浮き彫りになった自治体の学力格差、成績上位と下位でなぜここまで差が

「一斉休校による学力への影響はなし」とされている2021年度の全国学力テスト。本当に問題ないのか調べてみた結果、意外な問題を発見しました。小学6年生の算数問題において、三角形の面積を求められない子が2人に1人もいたのです。

伊藤 敏雄

執筆者:伊藤 敏雄

学習・受験ガイド

コロナ禍による全国一斉休校の影響が懸念された2021年度の全国学力テスト。2020年度は中止となりましたが、再開してみると休校以前の問題として、自治体の意外な学力格差が明らかになりました。
 

小6算数、2人に1人が「三角形の面積」すら求められない

まずは、小学6年生の算数問題2(1)について考えてみましょう。図のような三角形の面積を求める問題ですが、驚いたことに正答率が55.1%と約半数の子しか解けませんでした。
2021年度全国学力テスト小6算数の「三角形の面積を求める問題」(正答率55.1%)

2021年度全国学力テスト小6算数の「三角形の面積を求める問題」(正答率55.1%)

これには大きな理由が二つあります。まず、面積を求めるのに関係のない辺の長さが書かれていることです。このような問題は、教科書の例題にも練習問題にも載っていることがほとんどありません。そのため、図の中に書かれた数値のどれを使って解けばよいかということから考えなければならないのです。一番下に水平に引かれた線が底辺だと思い込んでいる子が多いのでしょう。

もちろん、5cmの辺を底辺と考えることもできますが、それでは高さがわかりません。高さは底辺に対して垂直なはずですから、5cmを底辺と考えた場合、3cmも4cmも高さにはなりません。それでも苦し紛れに、「5×3÷2」や「5×4÷2」と計算する子も相当数いました。図に書いてある数字を適当に掛けているのです。つまり、“どれが底辺でどれが高さ”かをわかっていない子がそれだけ多いということなのです。
 
もう一つの理由は、単純に三角形の面積を求める公式がわからないということ。報告書を調べてみると、「底辺×高さ÷2」の「÷2」を忘れているミスが相当ありました。公式がわからなければ、どれが底辺でどれが高さか正しくわかっていたとしても、正解を導くことはできません。

脳内表象に関する心理学では、頭の中で三角形を回転させて3cmあるいは4cmの辺を底辺にもってくれば、容易に「底辺」と「高さ」を見つけることができます。そうでなくても、問題用紙を回転させれば、「3×4÷2=6」と簡単に面積を求めることができるのです。
 
いずれにしても、このような問題を解けない子が多いのは、底辺と高さの関係を正しく理解している子が少ないからです。また、公式を忘れてしまったり正しく覚えていなかったりする子が多いことも関係しています。

思考力以前の問題として、「底辺」や「高さ」といった用語の知識が不十分なことや、面積の公式を正しく使うことができないといった技能の不足が原因なのです。
 

深刻ととらえるべき、自治体の違いによる「学力格差」

さて、この問題についてもう少し掘り下げてみましょう。この問題の公立小学校の平均点は55.1点でしたが、これが自治体によって大きな開きがあることが分かりました。一番高かったのが福井の64.6%ですが、それでも約3人に2人しか解けていないことがわかります。そして、一番低かったのが岩手の44.8%で、福井との差は約20ポイントもありました。
 
この結果を見てふと思ったことがあったため、すべての都道府県の正答率との関係を調べてみたところ次のことがわかりました。プロットしてみたのが次の図です。
2021年度全国学力テストの算数の平均正答率と三角形の面積を求める問題の正答率との関係

2021年度全国学力テストの算数の平均正答率と三角形の面積を求める問題の正答率との関係

各都道府県について、横軸に三角形の面積を求める問題の正答率、縦軸に算数の平均正答率をとって分布を表した図です。ご覧のように見事に正の相関(相関係数:r=0.665)がありました。
 
三角形の面積を求める問題ができていない都道府県ほど、算数の学力テストの点数が低いことがわかります。逆に、三角形の面積を求める問題の正答率が高い都道府県ほど、算数の学力テストの点数が高い傾向にあるのです。もちろん、相関関係なので必ずしも因果関係までは説明できませんが、何らかの関係はありそうです。
 
このような格差は、そのまま自治体の学力格差と考えられます。学力格差は難しい問題に表れると思われがちですが実は三角形の面積のような基礎的な問題でこそ浮き彫りになるのです。基礎的な問題が解けないにもかかわらず、応用や発展問題が解けることはまずないからです。
 
つまり、学力テストの成績が良い自治体ほど、三角形の面積の公式や底辺と高さの関係といった基礎的・基本的な事項を丁寧に教えていて、その結果、学力の定着が図られているということです。
 

中3数学、計算でのつまずきが中学校での数学のつまずきとなる

それでは、中学3年生の数学問題を見てみましょう。数学の問題1は、文字式の計算の問題です。全国の公立中学の平均正答率は77.1%でした。約4人に1人がこのような計算問題でつまずいているのは驚きですが、学力が振るわない沖縄だと64.5%まで落ち込みます。3人に1人がこのような計算でつまずいているのです。

【問題例1:数学1】
 (5x+6y)-(3x-2y)

【正答】
2x+8y

【正答率】
私立……81.9%
公立……77.1%
福井……82.9%
石川……81.1%
沖縄……64.5%

逆に正答率が高かった自治体を調べてみると、まず、私立中学校の平均が81.9%とかなり高いことがわかりました。私立だから当然だろうと思う人もいるかもしれませんが、都道府県別に正答率を調べてみたところ、福井の82.9%、石川の81.1%と私立と遜色のない自治体も少なくないことがわかりました。
 
次に、方程式の立式の問題を見てみましょう。

【問題例2:数学2】
ノート2冊と800円の筆箱1個を買ったときの代金と、ノート4冊と500円のシャープペンシル1本を買ったときの代金は等しくなります。ノート1冊の値段を求めるために、ノート1冊の値段を x円として、方程式をつくりなさい。

【正答】
2x+800=4x+500

【正答率】
私立……83.9%
公立……71.3%
福井……78.2%
石川……77.5%
沖縄……57.8%

先ほどの文字式の計算問題と同様、沖縄の正答率をみてみると57.8%しかなく、私立との差は約26ポイントもありました。ほかの自治体でも8割近い正答率を残しているところがある以上、これは私立だから高いということはいえなさそうです。
 

中3国語、言葉の知識「語彙力」の不足がすべての原因

最後に、中学3年生の国語の問題を見てみましょう。

【問題例3:国語三の3】
(略)黒のごきげんをとるためのこの質問は、ふしぎにも反対の結果を呈出した。彼は喟然(きぜん)として大息(たいそく)していう(夏目漱石著「吾輩は猫である」より抜粋)。
 
問.傍線「反対の結果を呈出した」とありますが、このことは「黒」のどのような様子から分かりますか。文章の一部の中から探し、抜き出しなさい。

【正答】
彼は喟然として大息していう
 
【正答率】

私立……82.3%
公立……71.0%
石川……74.1%
沖縄……62.9%

答えは傍線部の直後にあるにもかかわらず、正答率は私立82.3%、公立71.0%でした。沖縄は62.9%と私立と比べ約20ポイントの開きがあります。私立でも約6人に1人がわからない子がいるのも驚きですが、沖縄だと約3人に1人がわからないのです。
 
前後の文を読めば、黒のごきげんをとるための質問が、意に反して黒のきげんを損ねてしまった(=反対の結果を呈出した)ことがわかります。「喟然(きぜん)」という言葉(毅然とは異なる)が少々難しいですが、大息して言っていることから「嘆き、ため息をついて言っている」ことが読み取れることがポイントです。

  【問題例4:国語四の3】
ふるさと焼き物館 前田花子様
第一中学校の青木です。ご返信くださりありがとうございます。
希望のコースと人数ですが、Aコース2名,Bコース2名でお願いいたします。
当日は開始時刻の10分前に行く予定です。
 
問.「行く」を適切な敬語に書き直し、その敬語の種類を次の1から3までの中から一つ選びなさい。 

1.尊敬語
2.謙譲語
3.丁寧語

【正答】
伺う/参る 2

【正答率】
私立……54.6%
公立……40.3%
石川……45.9%
沖縄……33.1%

伺う/参ると敬語の種類の両方が合っていて、つまり完答して正解のため、正答率は高くありません。公立の平均は40.3%しかなく、私立の平均と約14ポイントの開きがあります。しかも、「どちらかが不正解」という子が32.9%いたことからも、敬語あるいは、敬語の種類の定着に課題があることがわかります。
 
この問題では、ふるさと焼き物館の前田さんに対する敬語なので、「行く」の謙譲語を答えなければいけません。中には「いらっしゃる」と尊敬語にしたり「行きます」と丁寧語にしたりした子もいるでしょう。

【「行く」の敬語の見分け方】
  • 行く人(主語)がえらい →尊敬語(いらっしゃる)
  • 行く人(主語)がえらくない →謙譲語(伺う、参る)
文科省の解説によると、「公的な場面で改まった言葉遣いをすることのほか、会話をしたり手紙を書いたりする際に相手に応じた語句を選んで用いる」ように指導する必要があるとしています。しかし、そもそも敬語の種類や使い分けといった知識・技能が定着していないことからも、いきなり公的な場面で敬語を実践的に使うのはかなり難しいのではないでしょうか。
 

学力はまず「知識・技能」、その後「思考力」の順で形成される 

くしくも、2021年度から中学校では通知表のつけ方が、「知識・技能」→「思考・判断・表現」→「主体的に学習に向かう態度」という3つの観点に集約されました。

しかも、この順序で学力は形成されるという考えに沿ったもののため、まずは、知識・技能の段階でつまずかないような指導が必要なはずです。
 
具体的には、よく使う敬語の一覧表をつくったり、「行く」や「食べる」のように尊敬語と謙譲語の見分け方が難しい敬語を使い分ける練習したりするのが良いでしょう。こうした知識・技能をベースとして、社会科見学や職場体験といった公的な場や年長者と接する機会に敬語を使うことで、生きた知識・技能とすることが大切です。

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