公的手当/生活保護制度など困窮している人がもらえる給付金

ベーシック・インカム(最低生活保障)、どんな制度?

ベーシック・インカム(BI・・・最低生活保障)制度とは、すべての人に最低限の健康で文化的な生活をするための所得を給付する制度です。フィンランドで2017年1月より試験的なベーシック・インカム制度が導入されました。

拝野 洋子

執筆者:拝野 洋子

ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士 / 年金・社会保障ガイド

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ベーシック・インカム(BI・・・最低生活保障)制度とは?

生活するにはお金が必要。国で支給してくれたら?

生活するにはお金が必要。国で支給してくれたら?

ベーシック・インカム制度とは国民に一定額の現金を無条件に給付する制度で、 ヨーロッパを中心に議論されています。2016年6月にスイスで成人に対し約27万円(2500フラン)、未成年に約6万8000円(625フラン)を毎月支給する案が、国民投票で否決されました。

一方、2017年1月1日に国家としてはじめてフィンランドがベーシック・インカム制度を導入しました。国民全員ではなく、無作為に選出された失業者2000人に毎月約6万8000円(560€)を2018年12月まで支払う試験的な導入です。

ベーシック・インカム(BI・・・最低生活保障)のメリットは?

ベーシック・インカム(BI・・・最低生活保障)を国家レベルで導入すると国にとっては社会保障や税金の制度がシンプルになるメリットがあると言われています。

例えば生活保護などの受給資格を確認する資力調査や所得調査をやめ、児童手当は児童のいる全世帯に支給し、手当を加算後の年収で税を計算すれば、手間とコストが小さくなるという専門家の意見もあります。

またベーシック・インカムの支給を受ける国民にとっても、生活の心配をしなくて良いのなら、給与もストレスも少ない仕事を選び、家族との時間を増やす、趣味を大切にする、などの選択肢が持ちやすくなるかも知れませんね。

ベーシック・インカム(BI・・・最低生活保障)導入の問題点は?

国民全員にBI(最低生活保障)相当の給付金が支払われれば、助かりますよね?でも簡単にはいかない問題もあります。「国の財源が足りるか?」と「BI(最低生活保障)をもらった国民の働く意欲はどうなるか?」という問題です。

まず日本の場合国債(国民への借金)も発行されており、その中でベーシック・インカムを支給する財源があるでしょうか?

また、生活するために働く必要がなくなれば、働かない人が増えないのでしょうか?2017年1月にベーシックインカム制度を試験的に導入したフィンランドも2018年12月までの2年間で失業率に影響するかを調べるとのことです。

ベーシック・インカム、日本でお金は出せる?

まず「ベーシック・インカムを支給するのに国の財源は足りるか?」という問題はどうでしょう?

例えば、20歳以上(約1億500万人)に毎月7万円、20歳未満(約2200万人)に毎月3万円をベーシック・インカムとして支給すると、年約97兆円の財源が必要となります。

このベーシックインカム予算の約97兆円を、所得税の所得控除をやめ、BI支給分も含め所得税を計算したり、年金の国庫負担や基礎部分、生活保護費、児童手当分などを充当したり、医療制度に選択肢を設けたりすれば、財源は確保できるという日本の専門家の意見があります。

ドイツの専門家で消費税率を約50%上げることによって、ベーシック・インカムの財源とする意見もあります。

ベーシック・インカムを受け取ると働かなくなる人が増える?

もう1つの問題は、ベーシック・インカムを受け取った人の働く意欲がどうなるかの問題です。

今まで人が行っていた仕事をAI(人工知能)やロボットなどの参入で、もし失業する労働者が増える場合、アメリカの専門家が提案している1つとして「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI、全国民向け最低生活保障)」があります。

「ロボットに仕事を引き継ぎ、アメリカ政府からUBIを支給されても、人は怠けて非創造的にはならないのでは?」という専門家の意見があります。

「マズローの欲求5段階説」では、ベーシック・インカムは生理的欲求しか満たさないので、ピラミッドの上位の欲求(安全、所属、承認、自己実現)を満たすために人は働くだろうという理由です。

アメリカでは専門家がカリフォルニア州オークランドで生活のために働く必要がなくなった時の人の行動について実験を進めているとのことですが、どんな結果が出るのでしょう?フィンランドのベーシック・インカム試験的導入の結果とともに気になるところです。

様々な地域で条件付きのベーシック・インカムが行われている。

地域のBI

世界ではいろいろな地域で実験的にBIが支給されている。

アメリカではアラスカ州の「アラスカ永久基金」で様々な資産に投資した収益を 州民に分配しているとのことで、1万人以上の雇用が新たにできたとのことです。

アメリカでもう一つ、ナミビアでのUBIのテストプロジェクトが行われたそうですが、ベーシックインカムの支給が始まると、国民が自分で事業を立ち上げたのに伴い就業率が上がったそうなのです。

ドイツのベルリンでも2014年から抽選で選ばれた人たちに1年間一定額を支給したのですが、働く意欲は失われないそうです。

他にも地域レベルでオランダのユトレヒトでも2016年から試験的にベーシック・インカムが導入されているそうですし、カナダのオンタリオ、スコットランドのグラスゴーなどでベーシック・インカムの実験的な導入が検討されているそうです。

日本でも岩手県遠野市で2016年9月から「遠野市に住民票を移し」「地元の資源を活かして起業する」のを条件に、9名の起業家に最長3年間(現在非常勤職員として)月額約14万円(社会保険料など控除後の手取り)を支給しているとのことです。

島根県浜田市では2016年4月から県外から一人親家庭を月給15万円以上で迎えています。介護職に就くことが条件で一時金130万円、中古車無償提供など経済支援を最長1年行っています。

生活保障として仕事に対する給与を支給している形で、両市ともベーシック・インカムとは似ているようで異なる形でしょう。

日本では国としてのベーシック・インカム導入に時間がかかる?

ヨーロッパやアメリカの一部の地域で議論されているベーシック・インカムですが、日本では国家レベルで導入はできるでしょうか?

マイナンバー導入で各官庁相互に同一人物の情報を共有しようという動きはあるものの、日本の制度は税金、年金、医療、介護、生活保護、保育等と縦割りです。政府や自治体には行政の縦割りに伴う多数の職員がいます。

ベーシック・インカム導入で制度が簡素化すると社会保障の担当職員の失業にもつながることとなり、反対意見も多そうです。

もう1つ、ヨーロッパに比べ日本の労働市場が流動的でないので、ベーシック・インカムを支給しても結局低賃金の人の労働意欲が落ちるのではないか、と日本の専門家の間でも懸念する意見がでています。日本の国家レベルでのベーシック・インカム導入は時間がかかりそうですね。

【関連記事】
年金の不公平感をなくすには?

【参考文献】
ベーシック・インカム~国家は貧困問題を解決できるか~ 中公新書
ベーシック・インカム入門~無条件給付の基本所得を考える~ 光文社新書
すべての人にベーシック・インカムを~基本的人権としての所得保障について~現代書館

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