パン/パン屋さん取材レポート(西日本)

ル・シュクレクール、新旗艦店の魅力【大阪・北新地】

大阪・北新地の新ダイビルに本店を移し、新しいスタートをきった名店、ル・シュクレクールの今をレポートします。新店舗が備えている、人が集まる場所としての機能、人気のメニュー、そしておすすめのパンなどをお伝えします。

清水 美穂子

執筆者:清水 美穂子

パンガイド

ル・シュクレクール、新ダイビルに本店を移転

ル・シュクレクールの新店舗

ル・シュクレクールの新店舗

2016年、大阪は吹田市岸部から北新地の新ダイビルに本店を移し、新しいスタートをきったル・シュクレクール。スタッフの人数も増えてより広い厨房設備が必要になったということでしたが、北新地というアクセスのいい場所での開店、かつ岸部の店も続行というのは、ル・シュクレクールのお客にとって喜ばしいニュースに違いありません。
古材を用いたショウケースに次々焼きたてのパンが並ぶ

古材を用いたショウケースに次々焼きたてのパンが並ぶ

カウンター席

カウンター席

新店舗は、庭の緑を映すガラス張りのファサードが迎えてくれます。入って左手は「パティスリー ケ・モンテベロ」、右手がル・シュクレクールで、窓に面したカウンターやテラスの席で、出来たてのパンやサンドイッチが楽しめます。11時のオープン前から行列ができ始めますが、つくる量も増えているのでパンが早々に売り切れてしまう心配はなさそうです。
どれもおいしそうで目移りしてしまう

どれもおいしそうで目移りしてしまう


日替わりのサンドイッチと有機野菜と

日替わりのホットサンド「BLT」

日替わりのホットサンド「BLT」

もし食事する時間があるならば、お薦めしたいのは日替わりのホットサンドです。取材の日は「オギノ」のブーダンノワールにジャガイモのピュレと甘酸っぱいリンゴのソテーを合わせたサンドイッチと「メツゲライクスダ」のベーコンを厚切りにして用いたBLTサンドイッチの2種類(各920円)がありました。旬の有機野菜サラダにその日によって異なる生ハムやチーズなどが付く日替わりセットは300円でサンドイッチやパンに添えられます。
バゲット生地でつくる小さな穂のかたちのエピやタルトフランベもおすすめ

バゲット生地でつくる小さな穂のかたちのエピやタルトフランベもおすすめ

前回の取材時にシンプルな葉野菜の味にいたく感動したのですが、今回もあらためて野菜がおいしさを感じました。

この野菜もおそらくパンと同じように、想いをこめて育てられ、自然の力に委ねながらプロの仕事人の手によってつくられたものだからなのでしょう。すべてはオーナーシェフ、岩永歩さんが出会って信頼関係を築き上げた生産者の手によるものです。
早朝からほとんど一日窯の前で過ごす岩永さん

早朝からほとんど一日窯の前で過ごす岩永さん

「大きさがまちまちでもいい。少量多品種の野菜をつくる農家さんに合った仕入れかたがあるんです」と岩永さんは言います。その日のサラダは先に素材ありきでつくられます。小麦にしても同じで、生産者がいい小麦をつくることがまず大事なことで、出来上がった小麦粉に合わせてパンをつくるのがブーランジェたるもの、と岩永さんは考えています。
ル・シュクレクール オーナーシェフの岩永歩さん

ル・シュクレクール オーナーシェフの岩永歩さん

サンドイッチやサラダが盛られるのは白漆のうつわです。手にとると軽やかで、温もりを感じます。カトラリーも美しい、と思ったらアンティークのクリストフルだったりします。テーブルの上のものは何もかも、ちょっといいレストランに出掛けた時のように一つひとつがセレクトされて差し出されていて、「楽しんで!」と言われているような気持ちになります。気軽に立ち寄ることのできるパン屋さんで、パンと同じクオリティの小さな料理や飲物を楽しめて、作家さんのうつわやアンティークに触れる体験までできてしまう。本質的に価値のある体験ではないでしょうか。
10時に焼き上がるバゲット

10時に焼き上がるバゲット


北新地グリーンマーケット

北新地グリーンマーケット

北新地グリーンマーケット

新しい本店は農産物や加工食品のおいしさを伝えたり体験する場としての機能を備えていて、それがフルに発揮されるのが毎月第2土曜日です。『北新地Green Market~僕らは街のスピーカー』なるイベントが、昨年11月から月に一度、店の前のテラスで開かれているのです。

生産者と消費者が出合う機会と場の提供は、岩永さんがとても大事にしていることのひとつ。「日常をもっと楽しく、ちょっと豊かに」をテーマに野菜や果物や花の生産者や、ワインや醤油、味噌の造り手たちがル・シュクレクールのテラスに集まる様子はフェイスブックでもリアルタイムで公開されます。買い物だけでなく、おいしいものの向こう側に居る、普段は会えない人たちと会話ができるという特別な一日です。
常設野菜コーナーはパン売場の隣に

常設野菜コーナーはパン売場の隣に

グリーンマーケットの日でなくても、おいしくて安全なもの、作り手の顔が見えるもの、日常に属したものの販売はあります。たとえば醤油。「おいしい醤油に出合ったきっかけがシュクレクール、っていいですよね。パン屋ならこれくらいしていいと思っています。食べ物を扱う仕事なんだから」と岩永さん。
醤油やジャムやピクルス、グラノラなど、セレクトされた食品

醤油やジャムやピクルス、グラノラなど、セレクトされた食品


ラミジャンとそのバリエーション

色よく焼き上がったラミジャン

色よく焼き上がったラミジャン

さまざまなパンがあるなかで一番、この店らしいパンといえばやはり「パン グロ ラミジャン」(ホール1400円。1/4カットから)ではないかと思います。世の中にはたくさんのパンがありますが、これは「あぁ……パンだ!」と五感が喜ぶパンなのです。その感覚はパリのデュ・パン・エ・デジデのパン・デザミにもサンフランシスコのタルティーンベーカリーのカントリーブレッドにも共通する、と個人的に思っています。これは岩永さんが大切にする人と人との繋がりによって影響を受け、培われ、成長し続けているパンだと思うのです。
パングロラミジャン。1/4から買える

パングロラミジャン。1/4から買える

ラミジャンは数種類の粉をブレンドしてつくられます。キタノカオリの全粒粉や北海道産ライ麦細挽きも10%ずつ入っています。酵母種にはサワー種とルヴァンリキッドのほか、ディンケル小麦麹も使われています。種麹屋さんに頼んで、ディンケル小麦(古代種の小麦)に麹をつけてもらっているのだそうです。岩永さんがこれらに時間と愛情をたっぷり注いで育てあげれば、素晴しい香りと味わいのパンに焼き上がります。

ラミジャンの兄弟分で、ディンケル小麦粒と煎り胡麻が練り込まれた滋味豊かなパンは「発芽ディンケルのつぶつぶとカボチャの種と胡麻の入ったパン」(ホール1560円)です。栄養価が高くこれひとつあれば大丈夫、な安心感があります。
水分たっぷりのシャバタ、ナッツぎっしりのバトンブランシュ、そしてマロントルーブル

水分たっぷりのシャバタ、ナッツぎっしりのバトンブランシュ、そしてマロントルーブル

ラミジャン生地でつくられるバリエーションは季節によって変動がありますが、取材時に出合ったのは「混沌」を意味する名前が印象的な、黒糖と栗の渋皮煮入りの「マロントルーブル」(620円)、サツマイモ、リンゴ、シナモン、クルミにショウガとカルヴァドスを効かせた「パン ド フィユモルト」(600円)。これは「枯葉」の意。冬のパンですね。
アクサンヴェールはグリーンオリーブがアクセント

アクサンヴェールはグリーンオリーブがアクセント

シェフの遊び心というか、味覚の冒険もありました。中華料理で使われるスパイス、五香粉(ウーシャンフェン)と栗と柚子、そしてビターなチョコチップをラミジャンに練り込んだ「パン ウーシャンフェン」(560円)。おそらく誰でもこの味の記憶はあるはずです。ただそれらがパンの上でハーモニーを奏でることに軽く驚きました。
それから、ホワイトチョコ、オレンジピール、蜂蜜のほの甘いパンにグリーンオリーブでアクセントをつけた「アクサン ヴェール」(560円)。「お汁粉に塩昆布」的な組み合わせなのだそうです。こういう、シェフのセンスに身を委ねる楽しみがあってもいいですね。
これら練り込み系のハードパンはみな、ハーフサイズから買えます。
レ サンク ディアマンはきらめく5種のドライフルーツとクルミのパン

レ サンク ディアマンはきらめく5種のドライフルーツとクルミのパン


ル・シュクレクールのカレーパン

ナビンさんのカレーパン

ナビンさんのカレーパン

ル・シュクレクールのカレーパンが特別感満載ですごいらしいという噂を聞いていましたが、見た目が予想外でした。それは肥後橋で人気のインドカレーの店「ナビン」に特注したチキンカレーを、ラミジャンと共に熱々のスキレットで供するという「ナビンさんのカレーパン」(980円)。カレーをパンに包まない仕様です。まずは一口味わってから別添えのスパイスを振りかけて一口、パクチーをのせて一口、さらにライムを絞って一口。何段階にも楽しめる、スパイシーで味わい深いカレーパンです(イートインのみ)。

フレンチスタイルの菓子パンとその魅惑のバリエーション

ヴィエノワ(ガナッシュ)

ヴィエノワ(ガナッシュ)

南仏のクリームパン「トロペジェンヌ」(300円)やフランボワーズを隠し味にしのばせた心憎い「クロワッサン ザマンド」(520円)、本国よりぐんと小さめにつくっているチョコチップパン「ヴィエノワーズ ショコラ」(240円)など、スイーツ系もベーシックなフレンチスタイルが中心ですが、そのなかでも目を引くのはヴィエノワのバリエーションです。

ル・シュクレクールのヴィエノワはフカフカせず、密度がしっかりあって噛みしめるおいしさがあるタイプ。そのためクリームもフランス菓子に用いるようなしっかりとしたバタークリームを使っています。そのリッチさもほろ苦さに容赦がないところも、大人のための菓子パンと言えるでしょう。
ヴィエノワのバリエーション

ヴィエノワのバリエーション

カカオのヴィエノワにガナッシュクリームを挟んでチョコチップを散らした「ヴィエノワ(ガナッシュ)」(280円)はエクレアのように甘やかな美しさ。グリーンの「ヴィエノワ (抹茶)」(280円)は濃厚な抹茶クリームをサンドしていて、そのほろ苦さにも負けない「ヴィエノワ (カフェ)」(280円)はクルミのヴィエノワにビターなコーヒークリームというトレボンマリアージュ。

仲良しの友達と、大好きな人と、ハンドドリップのおいしいコーヒーと一緒にいただきたいですね。
パンオレザンやエスカルゴ、発酵バターのクロワッサンもクオリティが高い

パンオレザンやエスカルゴ、発酵バターのクロワッサンもクオリティが高い


スペシャルティーコーヒー

スペシャルティーコーヒー

というわけで、新生ル・シュクレクールはおいしいパンを入り口としていろいろな体験ができる場所に、今日も進化し続けているようです。

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ル・シュクレクール

ル・シュクレクール

ル・シュクレクール
住所:大阪府大阪市北区堂島浜1丁目2-1 新ダイビル1F
電話:06-6147-7779
営業時間:11時~21時 (L.O.20:30)
※ 1~2月は20時閉店(L.O.19:30)
定休日:日・月曜
Yahoo!地図情報
京阪中之島線 大江橋駅徒歩2分
地下鉄御堂筋線・京阪本線 淀屋橋駅徒歩5分
JR東西線 北新地駅徒歩5分

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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