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不倫は本能か?昆虫学で考える「不倫」とは

昆虫には恋愛感情も情愛もない。ただ、専門家にとってはそれは人間社会の縮図のようにも見えるという。昆虫学の学者にきいた、「人はなぜ不倫をするのか」。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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昆虫は不倫するのか? 学者に不倫について聞いてみた

恋愛感情のない昆虫が不倫をしていたら、やはり生き物の本能なのだろうか?

恋愛感情のない昆虫が不倫をしていたら、やはり生き物の本能なのだろうか?

今年は芸能人やら国会議員やら、「不倫」報道が盛んである。そんな中、いったい人はなぜ不倫をするのだろうと考えた。いろいろな視点で「人はなぜ不倫をするのか」を考えてみたらおもしろいのではないか。しかも、歴史や法律という観点ではなく、生物学や社会学という観点に限ってみたら、どういう話が聞けるのだろう、と。

そうやって学者8人にインタビューをして構成したのが、『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)である。直接の答えにはならないかもしれないが、昆虫の生態が非常に興味深かったので、ダイジェストでお届けしたい。

昆虫学者で、九州大学総合研究博物館助教の丸山宗利さんによれば、
「昆虫には情愛も恋愛感情もない。ただひたすら自分の遺伝子を残すために交尾をするだけ」だというが、不倫はあるのだろうか。あるとすれば、生物の本能だという仮説も立つのではないだろうか。


「遺伝子を残すために交尾をするだけ」のはずが……?

アリやミツバチ、スズメバチなどは「社会性昆虫」と呼ばれている。つまり、階級があるのだ。

アリでいえば女王アリがいて、その下には働くことだけに専念して産卵しないメスの働きアリが大量にいる。巣内のアリは血縁関係で、「家族」でもある。

「だから私たちは、アリの世界に人間社会を徹底的に原理化したような様子、つまり縮図を見てしまうんでしょう」(昆虫学者 丸山さん)


アリはどうやって暮らしているか? 母娘の関係とは

女王アリと娘のアリ、つまり、母と娘であり、女王と働きアリたちの関係……これがおもしろい。

「アリの巣」がある規模になると、羽アリが生まれるようになる。その羽アリたちは、年に一度いっせいに外に飛び立つ。そして、同時期に飛び立った別の巣の異性と空中で交尾する。

するとメスは自分の体中に、交尾したオスから取り込んだ一生分の精子を貯蔵する。そして地上に降り立ち、たった一匹で巣穴を掘って卵を産み始める。このメスが女王アリなのだ。

この状態になると、もう飛ぶ必要がないので、自らの羽を切り落とし、飛ぶための筋肉を溶かし、それを自分が生んだ幼虫にエサとして与える。毎日せっせと何百もの卵を産み続ける。生んだ卵からかえる子どもアリはすべてメスで、女王のために働く「働きアリ」となるのだ。娘の働きアリが成虫になると、新たに生まれてくる子どもたちのためにエサを取りに行かせる。

つまり、働きアリは、母である女王と、自分の妹たちのために、一生エサを運び続けることになる。

アリは特殊な性決定のシステムをもっていて、受精卵はメスになり、未受精卵はオスになる。女王アリは数百から100万とも言われる卵を、オスとメスに産み分けるのだが、メス(働きアリ)は、女王からの指令(フェロモン等)によって、「不妊の状態」にされているので、基本的には、性交することも子を産むこともない。

「すごいシステムですよね。女王は自分の娘たちを不妊にして、自分だけが子を産み続けるのですから」(昆虫学者 丸山さん)

そして、ある程度、巣の規模が大きくなると、女王アリがオスやメスの羽アリを産み、羽アリがいっせいに飛び立ち、空中で交尾をして……また新たな女王アリとなって巣を作るのだ。


常識からはずれ、女王の目を盗んでセックスするメス

こういう娘たちが反乱を起こすことはないのだろうか。
自分たちもオスと交尾してみたいと思ったりしないのだろうか。


もちろん、感情があるわけではないので、アリはそんなことを考えはしないのだが、常識からはずれる個体というのはいるようだ。

「証明はされていないのですが、不妊状態の働きアリが、よそから飛んできたオスアリと交尾をすることはあるかもしれません。

働きアリの中に、何かの都合で産卵できるものがいて、隙をついて卵を産み、自分の子を女王の子と紛れ込ませてしまうことがあるんです。常識的なシステムから外れる種がいるのが生きものの世界です」(昆虫学者 丸山さん)

すべてが同じシステムの中で動いているように見えるアリの世界でもそうなのだから、人間も同じなのかもしれない。結婚して一生添い遂げるのが常識だとすれば、離婚する人もいて不倫する人もいて、こっそりと自分の子を紛れ込ませる可能性も……。


昆虫にも結婚詐欺、浮気防止システムがある?

さらにおもしろいことに、結婚詐欺をする昆虫がいるという。
もちろん、人間の目から見ればそう感じられるということではあるのだが。

北米に住むポトゥリス属のホタルの雌は、交尾前は自分と同じ種のオスを惹きつけるためにポトゥリス固有の信号を出す。そして交尾がすむと、別種のポティヌス属のメスホタルと同じ点滅信号を発し、それに誘われてやってきたポティヌスのオスを捕まえて食べてしまうのだという。

「これも自分の種を守るため」というのだから、昆虫の世界はなんともすさまじい。

また、小型のアゲハチョウの中には、オスが交尾の際に精包を送り込むと同時に粘液を出して交尾栓という蓋を作り、メスの生殖器にかぶせてしまうものがいる。これによって、メスは別のオスと交尾ができなくなるのだ。

一方、ゲンゴロウモドキというゲンゴロウ科の昆虫も交尾栓をつけるが、メスは脚でそれを取り外してしまうことがあるとか。オスにとってはせつない話だ。

「ヒトは昆虫と違って精子の無駄遣いをしています。それは性行為に快楽が加わり、コミュニケーション手段となったからでしょう。そうすることで人間社会が発展してきたともいえます」(昆虫学者 丸山さん)

そうやって社会は発展し、発展した社会にまた人間が適応しようとするあまり、「本能」は薄れていったのだろう。

「本能をある程度封印し、うまく理性をコントロールできる個体だけが残ってきたのかもしれません」(昆虫学者 丸山さん)

不倫は本能の発露なのかもしれない。

▼関連図書

 

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