ドラマ/春ドラマ情報

『ゆとりですがなにか』はクドカンの”リベンジ”か

世代の違いを越えて共感できる『ゆとりですがなにか』。そのルーツを考えると不幸な結果に終わった、宮藤官九郎脚本のあるドラマの影がありました。正和(岡田将生)のアキレス腱が半分切れたのもそのためなのか……?

黒田 昭彦

執筆者:黒田 昭彦

ドラマガイド

公式サイトよりundefinedhttp://www.ntv.co.jp/yutori/

公式サイトより http://www.ntv.co.jp/yutori/

春ドラマでガイドが一番お気に入りなのは『ゆとりですがなにか』。現在29才のゆとり第一世代の苦労を描く人間ドラマですが、世代の違いを越えて共感できるものがあります。宮藤官九郎の脚本は登場人物すべてをキャラ立てしつつそれぞれの苦悩や社会を描き、かつクダラなさで笑らわかしてもくれます。

残念と暑苦しいと童貞と

配役もキマってます。『ST 赤と白の捜査ファイル 』『掟上今日子の備忘録』などイケメンなのに残念な役が似合う岡田将生。『アオイホノオ』に『信長協奏曲』での現代の高校生が入れ替わった信長(小栗旬)を殺そうとした弟・信行など暑苦しい役が最近多い柳楽優弥。そして演技の幅が広い松坂桃李には童貞役をふっています(映画『中学生円山』『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』などクドカンは童貞設定が好き)。

個人的に一番好きなのは安藤サクラ演じる宮下茜。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した『百円の恋』ではツンデレ男に振り回されていた安藤サクラですが、今作では屈折したツンデレ?ぶりを見せています。

定番の三人もの

さて、テレビドラマで三人の親友を軸にした人間ドラマというのは一つの定番です。定番となる元になったのは1970年代後半から1980年代前半にかけての名作。男三人は『俺たちの旅』(中村雅俊、田中健、秋野太作)と『ふぞろいの林檎たち』(中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾)。女三人は『想い出づくり。』(森昌子、古手川祐子、田中裕子)です。

その後も女性三人ものは連綿と続き、『悪魔のKISS』(奥山佳恵、深津絵里、常盤貴子)や『彼女たちの時代』(深津絵里、水野美紀、中山忍)といった話題作がつくられ、近いところではヒットしなかったものの昨年の『オトナ女子』(篠原涼子、吉瀬美智子、鈴木砂羽)がありました。

過去にもあった

ところが男性三人ものはあまりつくられません。理由として考えられるのは『ふぞろいの林檎たち』の後は『男女7人夏・秋物語』(明石家さんま、片岡鶴太郎、夏:奥田瑛二、秋:山下真司)になり、人間ドラマよりは集団恋愛ドラマの方向にいってしまいがちになることでしょうか。

それでも思い出すと『予備校ブギ』(緒形直人、的場浩司、織田裕二)に『ADブギ』(加勢大周、浜田雅功、的場浩司)。若者という制約をはずして『その気になるまで』(明石家さんま、赤井英和、佐野史郎)、さらにオジサンの『カミさんの悪口』(田村正和、橋爪功、角野卓造)があります。

過去の男性三人ものを振り返っていると忘れていた作品を思い出しました。宮藤官九郎脚本の『ロケット・ボーイ』を。

らしさが認識されず

『ロケット・ボーイ』は2001年のフジテレビドラマ。小林晋平(織田裕二)は、かつては宇宙飛行士をめざしていたけど今は旅行代理店に勤める天文オタクの気弱な男。鈴木善行(ユースケ・サンタマリア)は優柔不断な営業マンだが両親を事故で亡くし苦労している。田中武徳(市川染五郎)は広告代理店勤務でカッコつけているが仕事はできず、成功者である父や兄の前では萎縮している。この三人が野球場で売り子からビールをかけられたことをキッカケに出会い、それぞれに人生を考えなおすという作品です。

いま振り返るとクドカンらしい設定ですが、当時はその「らしさ」が認識されず苦戦。追い打ちをかけるように主演の織田裕二が椎間板ヘルニアで入院したため途中4週間休止し全7話に短縮。休止している間は『踊る大捜査線』の再放送に変更して視聴率が上昇。織田裕二とユースケ・サンタマリアが共演すると『踊る大捜査線』のようなドラマを期待されていたということですね。

ドラマを超えた現実

内容的にも退院しても動けない織田裕二のために晋平は部屋の中で骨折するということにしたり、晋平の元恋人(中嶋朋子)やお見合い相手(京野ことみ)がほったらかしでその後どうなったかわからなかったりと、短縮の影響を感じます。

一方、織田裕二が動けない分、善行(ユースケ)と武徳(染五郎)の活躍が増えるメリットもありました。クドカン作品には登場人物が無理な状況に追い込まれるパターンがよくあるので、それが制作側にリアルに起こったんだと考えて、どのように解決したのか?と想像すると楽しめます。

ちなみに5月14日放送のNHK『トットてれび』第3話では1960年代の人気ドラマ『若い季節』の生放送中に起きた事件を描き、ドラマ(若い季節)より面白いトラブルをドラマ(トットてれび)で描くというややこしい構成で楽しめました。


リベンジなのか

『ロケット・ボーイ』が受け入れられなかった理由としてタイミングもあります。2001年というのは『池袋ウエストゲートパーク』(2000)と『木更津キャッツアイ』(2002)の間。石田衣良の原作つきの『池袋ウエストゲートパーク』はオリジナル脚本作とはちょっと違います。クドカンらしさを確立したのは『木更津キャッツアイ』から。連ドラデビュー前のBSでの単発作品からのつきあいであるTBSで花開きました。
しかしフジテレビではよさを引き出せず。不幸な結果に終わってしまったためかその後、クドカン+フジテレビドラマというのはありません。そして放送終了後、首都圏での再放送、ビデオ化・DVD化もされていません。

 


『ゆとりですがなにか』は『ロケット・ボーイ』のリベンジなのかそうでないのかは定かではありませんが、そうだとしたら成功しつつあるようです。そう思ってみていると5月15日放送の第5話、正和のアキレス腱が半分切れてしまいました。織田裕二の骨折に対応しているのでしょうか?

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